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  • 2016/04/19 掲載

LCC積極派のANAと消極派のJAL、今後を左右するのは「IT戦略」だった

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2012年に登場した国内LCC(格安航空会社)は人気が定着し、この夏、エアアジア・ジャパン(2代目)が新たに加わる。90年代からLCCが航空界を席巻した欧米、アジアと日本では事情が異なるが、ANAがLCCのバニラ、ピーチを傘下におさめる一方で、JALは日豪合弁のジェット・スターに資本参加しているだけ。LCCに対して積極派と消極派で好対照な戦略だが、最後に笑うのはどちらなのか?
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LCCは航空業界をどう変えるのか

売上はめざましい伸びでも、営業損益は2社がまだ赤字

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 国内線にLCC(格安航空会社)3社が就航し、「LCC元年」と呼ばれた2012年から4年が経過した。2012年10月には関西空港と那覇空港、2015年4月には成田空港に「LCC専用ターミナル」が開業し、2019年9月には中部国際空港にもLCC専用ターミナルができる。今や国内旅行でもLCCはポピュラーな存在になりつつある。

 2012年に就航した国内線LCC3社の初年度と2014年度の売上高を比較すると、ジェットスター・ジャパンは約3.3倍、ピーチ・アビエーションは約2.6倍、バニラ・エアは約3.6倍で、非常に大きく伸びている。

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国内線LCC3社の売上高推移(単位:億円)
※ジェットスタージャパンは6月期、他は3月期決算


 売上の急拡大をもたらしたのは、LCCの便数や座席数の伸び。2012年から2014年までの2年間で、国内線のLCCの座席数は年間90万席から450万席へちょうど5倍になるという大幅な増加をみせ、国内線全体に占める座席数シェアは1.5%から6.4%に伸びた。10%を超えるのは時間の問題とみられ、2015年2月に閣議決定された「交通政策基本計画」では、東京五輪が開催される2020年のLCCの座席シェアを国内線14%、国際線17%と見込んでいる。

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国内線提供座席数の推移(単位:万席)
(出典:国土交通省国土交通政策研究所
「LCC参入による地域への経済波及効果に関する調査研究」(2015年5月))

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LCCのシェア(単位:%)
(出典:国土交通省国土交通政策研究所
「LCC参入による地域への経済波及効果に関する調査研究」(2015年5月))


 海外では、新興LCCのライアン・エアが急成長し、アイルランドの大手航空会社(ナショナル・フラッグ・キャリア)のエア・リンガスに買収を仕掛けて未遂に終わる出来事があった(2015年2月にブリティッシュ・エアウェイズの親会社IAGが「白馬の騎士(ホワイトナイト)」になって買収)。そんな実力派に比べると、日本のLCCは業績も財務もまだ「よちよち歩き」。日本のナショナル・フラッグ・キャリア視されている日本航空(JAL)や全日空(ANA)が資本参加して、その支援を受けているような状況である。

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国内線LCC3社の営業損益の推移(単位:億円)
※ジェットスタージャパンは6月期、他は3月期決算


 ANAの持分法適用会社(38.67%出資)のピーチ・アビエーションはかろうじて営業黒字だが、JALの持分法適用会社(33.3%出資)のジェットスター・ジャパンとANAの連結子会社(100%出資)のバニラ・エアは営業赤字。右肩上がりの売上の拡大との落差はあまりにも激しい。

 今年夏にはさらに1社が加わる。マレーシアのLCCのエア・アジア、楽天、ノエビアホールディングス、アルペンなどが出資するエアアジア・ジャパン(バニラ・エアが改称する前のエアアジア・ジャパンとは同名だが別法人)が新規就航する。中部国際空港を拠点に新千歳、仙台、台北への3路線でスタートする予定になっている。

ライアン・エアの料金体系は「ヨーロッパの文化」

 LCCというと、判で押したように必ず引き合いに出されるのが、営業利益率で世界の航空業界トップのアイルランドのライアン・エアの大成功物語である。だがそれは、「ヨーロッパだから」という但し書きがつく。

 ライアン・エアの運賃は、新聞広告にはヨーロッパ主要都市間で「19ポンド」「39ポンド」などと大きな文字が躍るが、実際は追加料金の嵐だ。必ず徴収される税金や空港利用料だけでなく、予約を変更すれば追加、オンラインチェックインして紙に印刷して持参しないと追加、持込手荷物が10キロ制限を超過すれば1キロごとに追加、機内の飲み物も追加など、まるでコメディ映画のように追加料金をザクザク取られる。「地下鉄に乗るように、余計なものを持たず、要求は完璧に満たし、何も要求せず、黙って手続きし、黙って空いた席に座る」ことではじめて、最低限の運賃を享受できる。

 拠点のダブリン以外は「空港が遠い」ことも余計なコストを要求する。たとえばパリでは北に約85キロも離れたボーヴェ空港を使用している。農村地帯で、もはや最近のテロで問題視されているバンリュー(郊外)ですらない。

 大手が就航するドゴール空港は電車で最短30分、10ユーロ足らずで行けるが、ボーヴェ空港はバスで1時間15分、17ユーロ。ライアン・エアは小規模空港の地元自治体が支払う補助金で採算を成り立たせているから、不便でも他の空港には移らない。

 運航面でも、目的地までギリギリ足りる燃料しか積まないので、向かい風がきつい時、給油のために途中の空港に着陸することもあるという。それだけ到着は遅くなる。

 LCCに「ウルトラ」のUをつけてULCCと呼ばれることもある追加料金の分捕りと徹底的なケチっぷりで、「好きな人は徹底的に好きだが、嫌いな人は徹底的に嫌い」という、ヨーロッパ一のくせ者エアラインだ。

 それでも高収益をあげられるのは、たとえば英国の街角の同じパブの中に「中産階級の区画(サルーン)」と「労働者階級の区画(タップ・ルーム)」があり、それぞれお酒や食べ物の種類も値段も微妙に違うような、ヨーロッパ伝統の階級社会という「文化的要素」がからんでいる。

 交通機関の利用にも、荷物が多く座席を指定して機内でくつろぎたい中産階級の乗り方と、荷物は軽く、自由席でも目的地に移動できればそれでいいという労働者階級の乗り方がある。ライアン・エアでは機内に列車のような「立ち席」を設置する話まで出ているほどだ。

 中産階級からは追加料金を取り、労働者階級には移動手段を格安で提供するライアン・エアとは、ジョン・レノンの歌ではないが「ワーキング・クラス・ヒーロー(労働者階級の英雄)」なのである。

【次ページ】日本、世界の主要航空会社の傘下LCC一覧
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