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  • 2013/07/12 掲載

東京大学 藤本隆宏教授:ITを活用したものづくり強化、地方の現場も潮目変わっている

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この40年間、日本の製造業は低成長や円高、中国など新興国の台頭によって、大きく疲弊してきた。しかし日本のものづくりには、開発から生産、そして購買や販売に至る各部門が、設計情報によって一気通貫でつながっているという大きな強みがある。こうした特徴を活かし、強いものづくりの現場を日本に残していくためにはどうすればいいのか。設計・製造ソリューション展で登壇した東京大学 ものづくり経営研究センター センター長 大学院経済学研究科 教授の藤本隆宏氏が、日本の製造業が取り組むべき課題と、それを支えるITのあり方について語った。

ものづくりの根本は、設計そのものと設計情報の流れをよくすること

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東京大学
ものづくり経営研究センター
センター長
大学院経済学研究科
教授
藤本隆宏氏
 藤本氏は、ものづくりの現場を「付加価値が生まれ、顧客に向かって流れていく場所」と定義。その付加価値を日本全国で足し合わせたものがGDPとなる。

 そして付加価値の本質は、設計情報にある。たとえば10円で材料を買って歯車を作り、それが100円で売れれば、90円が付加価値だ。それは材料に歯車という設計情報が転写されたことで生み出され、顧客が満足して買っていく「もの」となる。

「ものづくりの付加価値は、設計情報に宿る。したがって、設計そのものをいかによくするか、また開発から販売、そして顧客に至る設計情報の流れをいかによくしていくかが非常に重要だ。」

 多角化を行い、国際化も図りながら、長期的な全体最適を目指してくのが企業のあるべき姿だといえるが、その根っこにはものづくりの現場がある。

「企業は現場の集まりだ。現場が元気にならなければ企業は元気にならないし、その産業、ひいては日本経済も元気にはならない。」

“生き残り”という究極のゴールを見失うことなく、進むことが肝要

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 ピーター・ドラッカーによれば、日本の現場はサッカー型だという。“多能工”が周辺視野で仲間を把握しながら、チームワークで戦うというものだ。これに対して米国は野球型だ。

「サッカー型のフォーメーションは、ゴールがよく見えている状態なら非常にうまく機能する。」

 そのためには明確な目標を持っている本社と、明確な目標のある現場が両輪として動くことが必要だ。究極の目標は“生き残り”である。

 振り返ってみれば、日本の現場はこの40年間、低成長と円高に襲われ、また中国の台頭によって、すぐ隣りに賃金が日本の20分の1という13億人以上の労働力が出現するという事態に見舞われた。さらにはデジタル情報革命によって、日本が得意とする調整型の製品がモジュラー型製品に置き換わってしまった。

「しかし日本の現場は、生き残らなければならないという明確な目標が見えていた。」

 たとえば柏崎のある大きな工場では、組み立てラインの生産性を2年間で2.8倍にしたという。その根っこにあるのは、“この地域で、この工場で、孫の代まで食べていきたい”という切実な思いだ。

「工場に無くなってもらっては困る。だから必死になって生産性を高めた。社長に対して“潰せるものなら潰してみろ”という気迫を持って、現場改善に取り組んでいる。」

 また中小企業も、雇用を守ることを非常に考えているという。

「30人の従業員がいた時に、生産性が10人分上がったからといって人を削減するという発想ではない。儲けるための新規事業を立ち上げるとか、最後には社長自らが走り回って、土下座してでも仕事を取ってくるということをしている。」

 この40年、日本の現場は史上最大のハンディを背負って戦ってきた。恐らく世界の産業の歴史の中でも特筆されるべき物凄いハンディだと藤本氏は強調する。それでもしぶとく生き残ってきた。

「このしぶとさは諸外国から見れば、大きな脅威だ。まだ頑張っているのか、なぜ頑張れるのか。そういう驚きを持って、最近また欧米から日本を視察にくる人たちが増えている。日本に対する興味が戻ってきている感がある。」

 これは日本が目覚ましく成長したからでも、発展したからでもない。日本の現場が、生き残らなければならないというゴールを見据え、周りの環境を見ながら必死になって戦ってきた結果だ。

「日本の現場は十分に誇っていい。」

 しかし時々あるのが、ゴールが見えなくなっている本社だ。指揮官が混乱すれば共通の目標は欠如し、任務は曖昧になり、ムダなパス回しが繰り返され、場の空気の読み過ぎといった事態を招いてしまう。

「これはまさにサッカーが負ける時のパターン。この形にならないように本社、現場ともにゴールを見失うことなく進むことが肝要だ。」

【次ページ】地方の現場に行くと、潮目が変わってきていると感じる
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