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香港に進出していたアリババの巨大EC「天猫」(Tmall)が2022年10月、わずか15カ月で撤退した。香港のEC市場は日本の約1/3以下で、EC利用率も各国と比較して低く、EC企業にとっては伸びしろのあるブルーオーシャン(未開拓市場)のようにも見える。しかし、現実はそんなに甘くなかった。現在の香港は、国内系ECが多数存在する中に、アマゾンやShopeeなどの海外EC、中国ECの参入が相次ぎ、世界でも屈指のEC激戦区になっているのだ。その香港でのアリババの敗退は、同社の今後の海外展開戦略にも大きな影響を与えることになるだろう。EC王者アリババですら通用しなかった背景には、香港独自の買い物事情がある。
アリババが「わずか15カ月」で香港撤退
2021年5月に香港に進出したアリババのEC「天猫」(Tmall)が2022年10月いっぱいで香港での運営を停止した。わずか15カ月での撤退となる。
その理由についてアリババは、同社が運営するもう1つのEC「淘宝網」(タオバオ)の越境対応に一本化し、配送網を調整するためだとしている。しかし、多くの香港メディアが「進出当初から存在感がなかった」と評している。
中国市場から見れば、香港のEC市場は小さく、このニュースの中国メディアでの扱いは小さい。しかし、アリババの海外展開戦略にとって、この撤退は転換点となる可能性がある。香港の小売業は市場としては小さくても、東南アジアに対する影響力が強く、アリババの東南アジア戦略にも修正が必要となるからだ。そして何より、撤退の内容の筋が悪い。アリババほどの企業でも、海外市場の攻略には手こずるということが証明された。
数字が示す、買い物天国・香港のEC事情
よく知られているとおり、香港は免税港と呼ばれる買い物天国だ。週末になると、東南アジアからの旅行者が大量にやってきて買い物とグルメを堪能する。香港は東京都の半分の面積に750万人が暮らしている集積度の高い都市で、地下鉄やバスも発達しているため、ほぼすべての市民が中心街に30分以内でアクセスできる環境にある。
主要な産業は金融、エンターテインメント、小売、飲食、観光などで、製造業は中国の
深セン などに工場を設立し、製造後、香港に“輸入”する形で行われている。そのため、香港は食品ですら輸入割合が9割を超えている輸入品に頼った地域だ。国内産業を保護する関税を設ける必要がないために、免税都市として輸入業と小売業が高度に発達した。
低層階が店舗街、高層階が住居というマンションも多く、サンダル履き感覚で買い物に行けるため、ECの利用者は少ない。国際連合貿易開発会議(UNCTAD)がまとめた「Estimates of Global E-Commerce 2019 and Preliminary Assessment of COVID-19 Impact on Online Retail 2020」によると、香港のB2C EC市場は380億ドル(約5.6兆円)と日本の1/3以下だ。
また、ネット利用者に占めるEC利用者の割合は38%と、これも低い。都市機能が集積している香港では、ECで注文して宅配してもらうより、仕事の帰りにでも食事がてらにショッピングモールに寄って買ってしまったほうが楽なのだ。
ECを利用する理由は、主に「距離的理由」と「時間的理由」の2つがあるが、香港の場合はほぼすべてが時間的理由によるものだ。「夜間などの店舗の営業時間外に購入したい」「忙しくて買いに行く時間がない」、あるいは「店舗に在庫がない」などの理由が多い。また、共働き家庭が一般的で、昼間は不在であることが多く、宅配よりもコンビニ受け取りや公共宅配ロッカーでの受け取りを好む人が多い。
【次ページ】EC王者・アリババの敗北、明らかすぎるその要因
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