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多くの産業が新型コロナウイルス感染拡大の打撃を受ける中、2021年3月に発売されたゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」(以下、あつ森)は抽選販売や高額転売が問題になるほど人気を集めました。驚異的な売り上げを記録した「あつ森」の勝ち筋はどこにあったのでしょうか。近年、経営学分野で注目されている「エコシステム(生態系)」の考え方をベースに紐解くと、「あつ森」のモデルの強さが見えてきます。
なぜ、「あつ森」は売れ続けているのか?
世界中で大ヒットし続けている「どうぶつの森」シリーズは、プレイヤーが森や無人島で動物たちとほのぼのと生活する「ほのぼのゲー」と呼ばれるゲームです。その魅力は、難しい技術を必要とせず、家族や友達と、のほほんと過ごせる「ゆるさ」にあります。
2020年3月に発売された最新作では、ゲーム内でプレイヤーが居住する無人島に住宅ローンを借りて家を建て、自分好みのインテリアで装飾したり、有名アパレルブランドの洋服を自分のアバターに着せたりできるようになるなど、個性を投影する世界観をコツコツと作り上げていけるのが魅力となっています。
新型コロナウイルス感染防止のための非常事態宣言中は、ゲームの中で友達の島を訪ねたり、ゲーム上で開かれるアーティストのライブに参加するなど、失われた日常を擬似体験できる点が人気となりました。
通常、ゲームソフトは発売直後から2カ月ほどをピークとして徐々に減少していく、コンテンツ特有の「
ワイドリリース型」の傾向があるのですが、「あつ森」は2020年3Qのクリスマスシーズンに売上を盛り返し、発売後1年を経ても売れ続ける新しい消費の形を見せています(図表1)。
このように中長期に渡って収益を上げる背景には、森を形成する「生態系(エコシステム)」があります。
爆売れの秘密、「エコシステム(生態系)」とは
エコシステムとは、2000年以降のデジタル時代に、実務家の間でも自社の事業収益拡大を行う上で注目されている概念です。読者の中にも注目されている方が多いことでしょう。
「エコシステムとは何か」については、学術的研究の場でも研究者によって論点が異なっていて、現在大きな分類を行いながらその性質が検証されている段階です。共通している定義は、「顧客に対する提供価値を創造するために、複数の直接的・間接的パートナーが相互に関わりを持つこと」です。
今回、注目する「あつ森」のような製品では、「ある製品が、補完製品と結びつくことで価値が創出される」といった特徴があります。
また、通常のビジネスにおけるアライアンスと異なる点は、エコシステムのアクターと呼ばれる参加者が必ずしも互いに直接的に結びつくわけではないこと、そしてアクターにとってエコシステムに参加する目的が必ずしも1つではなく多様であることです。さらに、エコシステムでは、顧客自身もまた製品の価値創造を行うことができるアクターであるという考え方もあります。
そして、このエコシステムの最大の特徴は、異なる産業分野に属する企業が「必ずしも階層的に管理をされず」に「ゆるく」協調することにあります。
こうした視点から、「あつ森」のエコシステムに参加するアクターの相互作用を整理すると、どうのような形になるのでしょうか。ここからは、エコシステムのアクターの関係性、また各アクターがどのような価値創出につながっているのかを解説していきます。
【次ページ】エコシステムのアクターそれぞれの関係性とは? 爆売れの秘密、「ネットワーク外部性」とは?まるごと解説
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