• 2024/11/26 掲載

生成AIはコンテンツビジネスを「殺す」のか? 「職能価値低下」の末路

稲田豊史のコンテンツビジネス疑問氷解

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生成AIが創作の場に広く進出している。ただ、『東京トイボックス』『南緯六〇度線の約束』などで知られる漫画家ユニット・うめの企画・シナリオ・演出担当である小沢高広氏と、『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』ほかアニメ・特撮分野の脚本を多く手掛ける脚本家の小林雄次氏によれば、生成AIの用途はまだまだ限定的。仕事が「奪われる」ほどのものではないという(前回前々回記事参照)。今回は、生成AIが比較的早期に進出し、かつビジネス面でも直接な影響を及ぼしたライティング(文章作成)領域での話を入口に、生成AIが創作領域にもたらす──ビジネス的な見地からみた──パラダイムシフトについて、小沢氏と小林氏の見解も一部交えつつ考察する。
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生成AIはコンテンツビジネスを殺すのか
(Photo/Shutterstock.com)

匠の100点か、無料の75点か

 専業ライターとしての筆者の私見だが、ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルを元にした生成AIは、「まとめ力」にすぐれている。平たく言えば、説明文だ。「何々についての説明を△△文字程度で書け」の類いが最も得意である。

 そして世の中の、特にインターネットに落ちているテキストの相当量は「説明文」だ。

 ある事件や事象について報じたテキストニュース。新製品のスペックや新サービスの概要を記したプレスリリース。あるトレンドについての直近の状況や具体的事例。映画やドラマ作品のあらすじ。誰それという著名人の最近の活動や発言。そういった、一次情報や商品や作品が先行して存在する状況下で求められる、かつ記名性や属人性が低い(作家性が必要とされない)説明文は、生成AIと非常に相性がいい。

 つまり、今までそのようなライティングを生業としていたライターは、今後、仕事の多くを生成AIに取って代わられる可能性が高い。

 ここで「生身のライターの原稿のほうが的確だ」とか「文章がうまい」という反論は意味をなさない。単純化かつ極論するなら、1本3万円の原稿料で1週間かけて100点の原稿を出してくるライターと、無料かつ数秒で75点の原稿を出してくる生成AI、どちらの「費用対効果が高い」かを発注者が判断するだけの話だ。

 すでにプレスリリースや定型の商品説明文などは生成AIによる作成が実現している。また、「議事録の音源を文字起こしして整え、規定文字数に要約する」ことが当たり前にできている現状下、放送されているニュース番組からWeb記事を量産することもたやすい。「著名人がTV番組で物議を醸す発言をして炎上」のようなコタツ記事など、早晩すべてAIが作成することになっても、なんの不思議もない。

 当然ながら、コタツ記事ライターは廃業である。

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ユーザーローカルではプレスリリースの文章を元に記事を自動執筆するツール「プレスリリース記事変換AI」を無償で提供している
(出典:ユーザーローカル)

問題は「職能の金銭的価値が下がる」こと

 こんな話をすると、次にこういう反論が来る。「それは、誰にでも書ける、オリジナリティや専門性のないライターが失職するというだけの話だ。独自の着眼点や発想、文体、確固たる専門領域をもっているライターは、仮に説明文であっても、AIに取って代わられることはない」。

 これも楽観論すぎる。無論、腕のあるライターの仕事はなくならないだろう。しかし懸念すべきは、生成AIの普及によって、「文章というものは、基本的にタダで作れる。わざわざ金をかけて外注するようなものではない」という“常識”が世の中に浸透することではないか。

 そうなれば、分野にもよるだろうが、特にB to Bライティング案件の発注単価の下落は避けられないだろう。「安価な電卓が普及したことで暗算に長けた者の地位が下がった」「火器が普及したことで刀の使い手が戦争で不要になった」と同じで、ライティングという能力の(金銭的対価に置き換えた)価値が社会的に下がるわけだ。

 「文章というものは、わざわざ金をかけて外注するようなものではない」の「文章」部分が、「イラスト」「動画」「漫画」「小説」「音楽」「脚本」「物語性を伴った映像作品」に置き換わる未来は十分に想像できるし、一部はそうなりかけている。今後もし、作品制作に金銭的対価が発生しないケースが増えていった場合、産業として“破壊”されるのでは? という懸念は杞憂に過ぎるだろうか。 【次ページ】Yahoo!ニュースの閲覧に「予算」を割く人はいない
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