• 2024/11/26 掲載

生成AIはコンテンツビジネスを「殺す」のか? 「職能価値低下」の末路(3/3)

稲田豊史のコンテンツビジネス疑問氷解

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新しい方法で到達するための新しいツール

 もうひとつ。生成AIは作品制作の方法を多様化させただけであって、省力化したわけではない、とも言える。前回の記事で小沢氏は省力化について「いいとこ一桁、なんだったら3%くらい」と語っていたが、むしろ生成AIには別の面倒くささがあると指摘する。

「生成AIでゼロから漫画を作ってる人はすでに結構な数いますが、僕の知る限り、従来の漫画制作と同じくらいの面倒くささで作ってます。生成されたものに、細かく『これはOK、これはやり直し』という判断を無数に下して、それを紡いでいく。ものすごく地味な作業を繰り返して、完成に近づけていく。

 同じことは作曲にも言えるでしょう。楽器を実際に弾ける人からしたら、MIDIベースでちまちま打ち込んで曲を作るなんて、面倒くさすぎて冗談じゃない作業じゃないですか」(小沢氏)

 「省力化」に大して寄与せず、相応の「面倒くささ」が伴うことからすれば、エンタテインメントジャンルにおける現在時点での生成AIは、一定数の生成AI活用者がよく口にするように、ある結果に新しい方法で到達するための新しいツールにすぎない。その意味では、ワープロ、デジカメ、Photoshopといったガジェットやツールと、ある意味で同列上にある存在と言えるのではないか。

生成AIはソーシャルメディア的

 また、生成AIは「一発で狙ったものを狙った精度で得られない」という意味において、非常に昨今のインターネット的、ソーシャルメディア的であるとも言える。

 思い返せば、生成AIの登場より前から、インターネットは「狙ったものを狙った精度で得られない」世界になっていた。ここ数年、我々は企業の思惑や資本の論理によって、狙った情報に行き着く前に、読みたくもないもの、勧められたくもないものを、スマホやPCの画面上で押し付けられている。記事の合間に挟まれる不快な広告、検索上位に表示されるショッピング情報や真偽の怪しいバズりポスト、信頼性の乏しい書き飛ばし記事の数々。あくまで個人的体感だが、インターネットにおける「検索」の精度は、さまざまな意味で20年前などに比べて明らかに「落ち」てはいないか。

 メジャーなソーシャルメディアはすべて、狙った投稿を狙った精度では得られない。XもFacebookも、運営側が定めたアルゴリズムにしたがってポストが勝手に並べ替えられて表示される。かつてと違い、「フォローした人物の投稿が正確な時系列順で漏れなく表示され、想定していないポストは一切表示されない」ようにはできない。InstagramやTikTokは基本的に「流れてきたもの」を閲覧する仕様であり、能動的に「この投稿、この動画だけを狙って見に行く」使い方は想定されていない。

 生成AIはプロンプト入力による対話型を基本とする。つまり「狙った成果物を一発で得る」ことができない。それは、筆を直接動かして「狙った文章、狙った絵」を一発でつかみにいこうとする人間の創作者とは、根本的に異なるものづくりの方法だ。

生成AIは特異点ではない

 生成AIによる創作は、特殊な天才のひらめきや天の啓示からは遠い場所にある。生成AIの使い手は、あるプロセスを丁寧にたどり、行ったり来たりと調整を重ねながら、精度や完成度を上げていける。それはまるで、ローンチしたアプリがその瞬間には未完成だが、利用者のフィードバックによって完成度を上げていくさまにも似ている。あるいは、ボーカロイドを時間をかけて“調教”し、意図どおりに歌わせるのにも似ている。

 そして、その回りくどく面倒くさいプロセスは、ある種の(たぶん天才ではない)人間にとっては、とてつもない快感だ。

 そういうインターネット的なるものの流儀や快感を、生成AIはそのまま体現している。その意味で、生成AIは特異点ではない。むしろ時流に沿った、今までの延長上にあるものだ。

 生成AIは特定職能の価値を下げるかもしれないが、エンタテインメント分野の参加プレイヤーを確実に爆増させる。制作コストが下がり「無料の75点」が世界にあふれるかもしれないが、生み出される作品の多様性は増す。つまり現状のコンテンツビジネスをスキームごと“破壊”するのかもしれないが、必ずや別のスキームを生み出すに違いない。

※編集部注
生成AIの状況やインタビュイーの認識は取材・執筆時点(2024年10月)のものです。

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