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  • 2024/12/25 掲載

【保存版】『鬼滅の刃』の儲ける仕組み、売上爆増させた…前例のないプロモ戦略とは

連載:キャラクター経済圏~永続するコンテンツはどう誕生するのか(第27回)

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約120年続く日本映画史史上、最も売れた映画は『鬼滅の刃 無限列車編』だ。その売上は、国内404億、世界総興行収入517億円に上り、全世界で4135万人が劇場に足を運んだ「世界最高の興行収入の日本アニメ映画」としてギネス記録にも認定されている。今回は2016年にマンガ連載を開始し、2019年からアニメ化され、2020年の世界ギネスともなった『鬼滅の刃』の関連売上の規模や、ファンを獲得していったプロセスについて分析していきたい。大ヒットを生んだ裏側には、アニメ化を率いたアニプレックスのプロモーション戦略が大きく関係している。
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『鬼滅の刃』の関連売上、売上の構造を解説する

作品のヒット率を左右する? 担当編集者の力とは

 『鬼滅の刃』の原作者である吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)氏は、1989年生まれの女性漫画家だ。高校3年生(2007年)で初めて漫画制作を試みたときはまったく描けなかったという吾峠氏だが、2013年、「鬼」と「鬼狩り」との闘いを描いた初めての読切作品『過狩り狩り』(かがりがり)が第70回JUMPトレジャー新人漫画賞の佳作を受賞する。そこから、いくつかの読切作品を経て、誕生したのが『鬼滅の刃』である。

 連載開始の2016年から数年の間に、短期間で爆発的なヒットを起こした『鬼滅の刃』だが、このヒットはどのような要素から作られたものだったのか。本作の誕生を支えた編集者、作品が誕生した時代背景、本作のプロモーションを率いたアニプレックス社の戦略などの視点から分析していきたい。

 この作品における重要な要素として担当編集者の存在は大きい。編集者の力がヒットにどれほど影響するかという議論は、この半世紀、数多くなされてきた。だが特定の編集者にあまりにヒットが集中していることを考えると、素人の想像以上に編集者の影響は大きい。

 担当編集の片山氏は、2010年集英社入社で『ブラッククローバー』(2015~)、『鬼滅の刃』(2016~2020)、『呪術廻戦』(2018~2024)の立ち上げ編集者でもある。同じ法政大卒で先輩にあたる林士平氏も、2018年に「少年ジャンプ+」配属後、『SPY×FAMILY』(2019~)、『チェンソーマン』(2019~)、『ダンダダン』(2021~)とヒットを連発している。特定の編集者におけるヒットの出現率の高さは、作家の個性のみならず、編集者の個性の重要さを物語る。

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過去に例を見ないような爆発的ヒットを引き起こした『鬼滅の刃』。あの現象はなぜ起きたのだろうか? その裏にはどのような戦略があったのか?
(写真:西村尚己/アフロ)

 そんな担当編集の片山氏が目を付けた吾峠氏の才能は、「圧倒的なセリフの力」だった。一言一言でそのキャラの背負った経験や人生を象徴するセリフの力が『鬼滅の刃』を特徴づけており、それをどこまで一般に咀嚼可能な形に“丸めるか”は編集と作家の職人芸だ。

 倒した鬼の手を握って「神様、どうかこの人が今度生まれてくる時は、鬼になんてなりませんように」と願う炭治郎、このコマは「少年漫画らしくないからカットしようか」と迷った吾峠氏に対して、片山氏が「ここだけは絶対に入れてください。こんな主人公見たことないです。これが炭治郎ですよ!」と熱弁をふるって入れたというエピソードもあるほどだ(注1)

 このように、連載マンガに常にある「尺の限界」という制約の中で、何をどこまで見せるかという判断は常にこうした作家と編集の個人的な会話で決められ、時に致命傷に、時に神回にもなる。それほどまでに編集者の存在は大きいと言えるかもしれない。

注1:『鬼滅の刃』大ブレイクの陰にあった、絶え間ない努力――初代担当編集が明かす誕生秘話.livedoor News. 2020年2月5日,

鬼滅誕生の2010年代、漫画界に起きた“ある変化”

 そのほか、作品のヒットを生んだ要素として、同業界における漫画家のポジションの変化も関係しているかもしれない。

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あの有名キャラたちは、なぜ成功できたのか?本連載でまとめて解説する
 漫画家の性別は基本的に非公表だが、SNS普及などによって近年は露見してきているケースも多い。推測の域を出ないものも多いが、たとえば『青の祓魔師』(2009~)の加藤和恵氏、『約束のネバーランド』(2016~2020)の出水ぽすか氏など、2010年代のヒット作における女性マンガ家比率の上昇がみられる。同じように、『鬼滅の刃』の作者・吾峠氏も女性である可能性が噂されている。

 これはジャンプの女性比率が半分近くなってきて、「ジャンプ女子」という言葉が生まれる2010年前後という時代も影響している。

 2016年は正直、マンガ業界にとって暗い時代だった。『週刊少年ジャンプ』は653万部に到達した1995年からずっと落ち続け、2014年ごろから落ちが加速、ついには200万部を割りかけていた。

 トップ作品は10年以上も『ONE PIECE』が君臨し続け、『NARUTO』や『黒子のバスケ』『トリコ』も連載終了。熊本地震もあり、トランプ大統領誕生もあって2016年を象徴する漢字の1つには「震」、電子マンガが急拡大する予兆が見えなかった夜明け前の暗い暗い時代に、輪をかけるようにシビアな世界観設定ではじまったのが『鬼滅の刃』であった。

最初の爆発を生んだ…アニプレックスの超革新的な戦略

 本作はTVアニメとしても革新的なビジネスモデルを展開した。それまで20年にわたって「アニメ製作委員会」を立ち上げ、複数関係者が分散的に作品製作費を出資する形が通例となっていた。しかし、『鬼滅の刃』の場合は、委員会にテレビ局も広告代理店も入れず、ほとんどアニプレックス1社が出資する形となった。

 委員会に名前を連ねるのも原作の集英社とアニメ制作会社のufotableだけ。この1社+2社による集中投資は、驚くほど早いタイミングでジャッジされている。

 まだコミック1巻も発売されていない期間にこの原作に目を付けアニメ化を希望したアニプレックス社長の岩上敦宏氏と宣伝プロデューサーの高橋祐馬氏は、『空の境界』『活撃 刀剣乱舞』「Fateシリーズ」など、10年以上にわたり一緒に仕事をやってきたufotableとアニメ化を推進したのだ。

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『鬼滅の刃』はどのようにファンを獲得していったのか? 歴史上最大の爆発的ヒットが生まれるまでの流れを解説する(記事の後半で解説します)

 『鬼滅の刃』はこの時代、ジャンプでは必ずしも人気作ではなかった。最初の20話まではほとんどが10位以下、5位以内に入るのは、『鬼滅の刃』のキャラクターである胡蝶しのぶが登場し、鬼殺隊柱合裁判に至る、連載から半年経過した後だ。

 物語の舞台が遊郭に移る「遊郭編」に突入した2017年末頃にようやく5位までの人気上位に固定化していったことを考えると、もう1~2年アニメ化が遅れていてもおかしくはなかった。企画からリリースまで2~3年はゆうにかかるようになっていた当時で、『鬼滅の刃』を連載スタートから2年強の2019年4~9月にアニメ化までもってきたのは、アニプレックスの推進力の現れでもある。 【次ページ】前例ない…ありとあらゆる手を尽くした「プロモ活動」の裏側
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