連載:キャラクター経済圏~永続するコンテンツはどう誕生するのか(第6回)
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国民的アニメ「ONE PIECE」や「妖怪ウォッチ」と肩を並べ、その年最高のコンテンツを表彰する「日本キャラクター大賞」を受賞している”ゆるキャラ”が存在する。それが、サンエックス社の「すみっコぐらし」だ。人気に火をつけやすいマンガやアニメのキャラクターとは異なり、ゆるキャラにファンを付けていく方法は限られている。そうした難しさがある中で、これまで「たれぱんだ」「リラックマ」などのヒットコンテンツを世に送り出してきたサンエックス社の歴史を振り返りながら、今回は「すみっコぐらし」が切り開いた”新たなゆるキャラビジネス”の凄さについて、「すみっコぐらし」から生み出される収益の内訳をひも解きながら解説する。
「すみっコぐらし」とは
すみっコぐらしは2012年にサンエックスに所属していたデザイナー、よこみぞゆり氏によって生み出されたキャラクターである。学生時代にノートの隅に描いた落書きがもとになっており、「すみっコ」というコンセプト通りに、「とんかつの身が入っていない端っこの油99%」「食べ残されるエビフライのしっぽ」「ミルクティーで最後に残ったタピオカ」など、すみっこに生息する「取り残された小動物」「余りもの」「残りカス」がキャラクター化したものである。
よこみぞ氏自身が、周りにある派手で明るいキャラクター群に共感できなかったこと、自身も含めて「すみっこが好き」な日本人の特性に合致するとし、毎年社内コンペ&店頭アンケートで選出するサンエックス社の新キャラ候補がちょうどいなかったタイミングも幸いし、商品化が決まった作品である。入社2年目のデザイナーとしては異例の抜擢であった。
そうした経緯もあるのか、サンエックスをあげてプロモーションしていく、といった力の入れようは感じられず(キャラクター・世界観としてもまさにそれが合っていたのかもしれない)、その成長はまことに慎ましやかなもの。
2014年3月に発売されたキャラブック『すみっコぐらし ここがおちつくんです』(主婦と生活社)は12万部というヒット商品になり、同年11月のニンテンドー3DSのソフト『すみっコぐらし ここがおちつくんです』(日本コロンビア)もわずか1カ月で10万本が売れ、2014年に入って火がついてきた感触はあった。
しかし、この当時であっても年間の経済圏総額は16億円。2015年に入って始まった公式Twitterが半年で10万フォロワーとなったが、それらを総合しても「数十万人が認知していて、数千円のグッズを購入する人が10万人」というまだまだニッチなキャラクターコンテンツだったと言える。
「ONE PIECE」と肩を並べるすみっコぐらしの人気
すみっコぐらしの特徴は「派手さはないがコンスタントかつ永続的な成長」だろう。そもそも「Twitterが月数万人増加した」といったような急激な跳ね方をしたことすらないのだ。Twitterのフォロワーの推移を見ると、8万(2015年末)→14万(2016年末)→18万(2017年末)→21万(2018年末)→27万(2019年末)→33万(2020年末)→39万(2021年末)→46万(2022年11月現在)と、面白いほど単調に毎年6~7万人ずつ増え続けている。
ある単語がどれだけ検索されているかの推移を確認することができるGoogleトレンドを見ても、後述するすみっこが生み出した経済圏の規模を見ても、すべてが同じ“緩やかな”傾斜を描いており、まさに口コミが口コミを呼んで、ひっそりとかつ堅調に伸びてきいている。まるで「うさぎと亀」でいう亀のようなキャラクターコンテンツである。
そして誕生から8年目、すみっコぐらしは、その年の国内最高のキャラクターを選出する経産省後援の賞である日本キャラクター大賞2019にグランプリに輝く。これは、「ポケットモンスター」や「ONE PIECE」「妖怪ウォッチ」などが受賞してきた栄誉ある賞で、続く2020・2021年は「鬼滅の刃」、2022年は「ちいかわ」がグランプリ受賞となっていることを前提にすると、すみっコぐらしもここまでの規模のキャラクターとなったかと壮観ですらある。
今回はその年600億円の経済圏を持つ「すみっコぐらし」の分析である。
たれぱんだ・リラックマも生んだ「サンエックス社」の実力
同コンテンツを展開するサンエックス社は、実は相当な老舗企業で、その創立は1942年。神田にあった文具店向けの商店「チダ・ハンドラー」が1973年5月にサンエックスという現在の社名に改名した(ちなみに1960年設立のサンリオは絹製品販売の「山梨シルクセンター」を発祥とし、社名をサンリオに変えたのは1973年4月。つながりのありそうなこの2社は資本関係のない別の会社である)。
「ロンピッシュクラウン」(1980)や「ピニームー」(1984)など、同社のキャラクタービジネスへの参入は1980年代から進んでいたが、サンエックス社のブランドは1998年「たれぱんだ」のヒットによって、はじめて確立されたと言えよう。1999~2000年の2年間で700億円もの経済圏を生んだたれんぱんだは、短期間とはいえ、近年のリラックマやすみっコぐらし級の最初のヒットであった。
これを皮切りにサンエックスは「こげぱん」(1999)、「アフロ犬」(2001)など続々とキャラクターを量産し、ついに2003年「リラックマ」にたどり着く。リラックマは、サンエックス社にとっての「ハローキティ」(1974年に誕生したサンリオの主力キャラクター)のような大ヒットキャラクターであった。
とはいえ、サンリオと違ってサンエックス社は直販店舗を持たなければ、テーマパークも所持していない。純粋にキャラクターの絵を人気にし、その版権のみで商売する(部分的には自社での文房具やグッズ制作・販売もあるが)企業である。
ビジネスモデルが違う? マンガキャラとゆるキャラ
思えばこうした「一点モノのゆるキャラ」はキャラクター業界の中では非常に特殊な位置付けを示してきた。その理由は、キャラクター業界のこれまでの流れを振り返ると、よく分かる。
キャラクターの王道と言えば「週刊少年ジャンプ」を代表とする『マンガ週刊誌』があり、1980年代を中心に「マンガ連載スタート→アニメ化→キャラクタービジネス化」というプロセスを通じて巨大な産業を形成してきた。
また、キャラクター商社とも言えるバンダイが「機動戦士ガンダム」や戦隊シリーズなどを『玩具』にすることでこの市場に参入を進めた一方、任天堂は「スーパーマリオ」から「ポケモン」まで『ゲーム』発のコンテンツで参入を進め、市場は巨大化していった。「セーラームーン」から「プリキュア」など女性向けのキャラクターもまた、それまでの少年向けのノウハウを横展開したものである。
それでは「ハローキティ」や「たれぱんだ」、「リラックマ」のようなコンテンツは、この文脈の中でどう位置付けられるのか。これらは文房具やアパレル、贈答品といった『グッズ』がメディアそのものとなり、世間に定着してきたキャラクターである。後にアニメ化やゲーム化もされてはいるが、人気の発祥はそこではないのだ。
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