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  • 2022/07/20 掲載

消えた「せんとくん」と生き残る「くまモン」の違い、熊本県は何を仕掛けたか?

連載:キャラクター経済圏~永続するコンテンツはどう誕生するのか(第2回)

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滋賀県のひこにゃん、熊本県のくまモン、奈良県のせんとくんなど、2010年頃から全国の各都道府県が地域復興のために「ゆるキャラ」を押し出したPR活動に注力してきた。そんなゆるキャラブームの土台となっていた「ゆるキャラグランプリ」も2020年に終了し、ゆるキャラブームは終わりを告げたように思える。しかし、いまだに地元に経済効果をもたらし続ける、ゆるキャラ唯一の生き残りが存在する。それが、熊本県の「くまモン」だ。なぜ、くまモンだけが経済効果を生み出し続けることができたのか。熊本県が仕掛けたゆるキャラ戦略を解説する。
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なぜ、くまモンだけが経済効果を生み出し続けることができたのか。熊本県が仕掛けたゆるキャラ戦略を解説する
(写真:つのだよしお/アフロ)



終わりゆく「ゆるキャラブーム」

 「ゆるキャラ」という言葉ができてすでに20年近くになる。この言葉は1980年代から商品・企業で盛んに用いられたマスコットキャラという言葉の改変であり、「ゆるいマスコットキャラ」としてエッセイストのみうらじゅん氏が2004年に商標登録したものだ。折しも、キャラクタービジネスで世界を冠していたサンリオ社が「シナモロール」(2001)、追いかけるサンエックス社が「リラックマ」(2003)を作り上げた時期である。

 だが、本当の「ゆるキャラ」ブームはそこからしばらくした2007年、その前年にデビューしていた滋賀県彦根市「ひこにゃん」が彦根城築城400年祭での集客を成功させてバズったところから始まる。

 その後、各地方自治体が、地域おこし・観光イベント・PRのためにご当地キャラを量産していくようになり、それは2010年からスタートしたゆるキャラの地域貢献度などを競う「ゆるキャラグランプリ」の創設にもつながった。

 だが、粗製乱造されるバブル市場は弾けるのが世の常というもの。その後、ゆるキャラグランプリのエントリー数は2015年にピーク(1727体)を迎える。なお、その年は695万票という過去最大の得票数で、静岡県浜松市のゆるキャラ「出世大名家康くん」が1位を獲得した。

 だが、「グーグルでどれだけ特定のキーワードが検索されたか」を調べることができるGoogleトレンドで「出世大名家康くん」の注目度を見てみると、ゆるキャラグランプリ創設当初の人気キャラである、くまモンの足元にも及ばぬ状況。倍々ゲームで伸びる投票数とは反比例に、一般ユーザーの熱量はこの2015年あたりから急速に冷めていくのだ。

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※Googleトレンドは2004年1月からの月別相対指標値を年平均で割り戻したものを計上
(出典:グーグルトレンドより筆者作成)

 それもそのはず、2018~2019年頃になると、「ゆるキャラ」投票は社会問題化し、ある自治体では本来の職務を忘れた市役所職員が工作活動にまで手を染め、その多くが組織票・不正投票であった事実が取り上げられるようになっていた。

 行き過ぎた「ゆるキャラ」ブームは、その目的をはき違える事例にまで発展し、そして10年間多くのキャラクターのデビュー装置として機能してきた「ゆるキャラグランプリ」も第11回目(2020年)で幕を下ろすことになる。そんな地方ゆるキャラブームの唯一無二の生き残り、それが第2回ゆるキャラグランプリ(2011年)で1位を受賞した「くまモン」である。

くまモンの成功要因(1):破格の予算

 くまモンの成功要因はいくつかある。1つは熊本観光産業の「危機感」である。2011年3月にJR九州は新幹線の路線を延長し、福岡~鹿児島までを開通させた。これは福岡や大分、長崎、鹿児島に対して知名度が低かった熊本県にとってはチャンスのように見える一方、知名度の差がさらに広がり余計に“素通り客”を増やすのではないかといった懸念もあった。

 そうした危機感から、熊本県天草市出身の脚本家・小山薫堂氏の発案により、九州新幹線全線開業をチャンスに変えるべく、熊本の日常にあるサプライズで観光客を楽しませる「くまもとサプライズ」運動がスタートした。そして、このくまもとサプライズ運動のPRキャラクターとして、小山氏とデザイナー・水野学氏が共同制作したのがくまモンであった。

 そして2010年3月に生まれた、この山のものとも海のものともしれないキャラクターに、熊本県は8,000万円の宣伝費を予算確保する。新幹線開通のタイミングでの「観光PR予算」だったからこそ、ゆるキャラとしては破格の宣伝費をかけられた(ちなみに「家康くん」は浜松市が1,700万円を投入している)。

くまモンの成功要因(2):抜群の企画力による「話題作り」

 そしてなにより際立っていた企画力だ。熊本県は「初めて」「唯一」「トップセールス」の要素にこだわり、話題作りに注力したのだ。

 たとえば、2010年8月の関西国際空港で開催される「関空夏祭り」でひこにゃんとコラボ出演、同年10月には近畿エリアのローソン内の熊本アンテナショップにおいて、(当時)ローソン社長の新浪剛史氏・熊本県知事・くまモンが共演、さらに2011年1月には「吉本新喜劇」に熊本県知事・熊本県の宣伝部長であるタレントのスザンヌ氏・くまモンが共演している。

 加えて、Twitter上でのくまモンのゆるくシニカルなギャグのツイートが席捲しメディアにも大きく取り上げられた。この期間の広告効果はなんと6.4億円(ちなみにせんとくんの2008年広告効果は15億円、2018年までに奈良県にもたらした経済効果は2,105億円とも算出されている)。

■くまモンの“キャラクター性”が垣間見えるツイート例
  • 熊本県は、くまの手も、借りたいらしい。
  • 来てくれないから、売りに来た。
  • デスクワークより、フットワーク。
  • これは、出没ではなく、出張です。
  • 願いは熊モテ県♡
  • ゆるキャラから、売るキャラへ。

 結果として、くまモンは2011年3月までの約1年で宣伝費予算の8倍近い効果をあげ、それが2012年2月のゆるキャラグランプリ第2回優勝につながったことは間違いない。そして優勝を機に、多くのマスメディアが取り上げ、2012年からその経済圏は加速度的に増していくことになる(注1)

【次ページ】ほかのご当地ゆるキャラは消えたが……なぜくまモンだけ儲かるのか? 過酷なコンテンツ市場のカラクリを解説する

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くまモンが生み出した経済効果とは?(次のページで詳しく解説します)
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