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- 2020/11/17 掲載
「年1.8億時間のムダ」報告書から5年…再配達は削減されたのか?
連載:「日本の物流現場から」
国土交通省 再配達報告書を振り返る
2015年10月、国土交通省は、報告書「宅配の再配達の削減に向けた受取方法の多様化の促進等に関する検討会」を発表した。報告書では、宅配再配達に伴う社会的損失として、以下の2つを挙げている。- 「再配達による社会的損失は、年間約1.8億時間・年約9万人分の労働力に相当する」
- 「営業用トラックの年間排出量の1%に相当する年約42万トンのCO2が発生(山手線の内側の2.5倍の面積のスギ林の年間の吸収量に相当)」
報告書において、再配達削減の対策案として挙げられたのは、以下である。
- 消費者(受取人)に対し、配送予定日時を通知すること。
- 消費者が、簡単に配達日時の指定を行えるようにすること。
- 配達日時指定の無償提供や、21時以降の配送実施、30分単位での配達時間指定など、配達サービスの高度化を図ること。
- 再配達に関する社会的損失を広く広報すること。
- 再配達を発生させなかった消費者に対するポイント還元など、インセンティブ付与を設定すること。
- コンビニ、鉄道駅などでの受け取りを推進すること(公共宅配ボックスの整備を含む)。
- 宅配ボックスに対する利便性向上を目指した機能進化を行った上で、普及と整備を促すこと。
総体的に言えば報告書は優れたものであった。だが、報告書内において挙げられた再配達削減対策案に関しては、首をかしげたくなるものもある。
たとえば配達日時の指定に対する考え方である。同報告書では、消費者の在宅時間と配達日時をマッチングすることにとらわれるあまり、「時間指定イコール再配達の削減につながる」との考えを強調しすぎているきらいがある。
再配達問題の要は、ドライバーという限られた労働リソースを過剰に消費していることにある。時間指定はドライバーの労働を偏らせかねない。もし仮にECサイトにおける購入者の8割が時間指定を行い、かつその8割が夜間帯を時間指定したら、夜間帯にドライバーの頭数が多く必要になり、ドライバー不足はますます加速することになりかねない。
さらに言えば、賃金割増の必要な22時以降の配達枠を設け、時間指定の無償提供も行わなければならない(※ともに対策案3.)となると、運送会社の経営はさらに悪化し、ドライバーの待遇にも影響しかねない。にもかかわらず、一度で受け取りができた消費者に対するインセンティブの設置(※対策案5.)など、これでは運送会社側の負担を強いるばかりの対策にも見える。
実際、5年経過した今、たとえばヤマト運輸では12時~14時の配達を中止しドライバーたちが昼食休憩を取ることができるようにするなど、消費者の利便性とドライバー待遇のバランスを取る方向にかじ取りが行われている。
運送ビジネスは、上流にいる荷主、下流にいる配送先(消費者)、両者をつなぐ運送会社の三者によって実現するものである。あらゆる運送ビジネス上の課題は三者の関係性なしに語ることはできない。再配達問題も同じである。
「なんだか、ずいぶんと運送会社にばかり、再配達削減への負担を求める報告書だな……」
報告書総体が優れているがゆえに、当時、私はとても残念に感じたものだ。
再配達削減の効果は限定的
あれから5年、再配達は減ったのだろうか。国土交通省では、毎年4月と10月に再配達に関する報告をまとめているが、結論から言えば、再配達削減の効果は限定的である。上図は、調査が始まった2017年10月から半年ごとに、都市部、都市近郊部、地方、そして総計した宅配便再発率調査の推移をまとめたものである。
統計が始まって2年経過した2019年10月まで、都市部における再配達率は17%前後、都市近郊部の再配達率は15%前後でずっと推移している。地方部では、2年で再配達率は2%下がった。だが、たった2%である。再配達の削減が進んでいるとは言い難い状況にある。
2020年4月の報告では、再配達率の総計は、半年前の15%から6.5%下がり、8.5%まで劇的に低下した。だが、これは新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言によって、在宅率が上がったことで生じた結果であろう。
2015年10月に発表された報告書「宅配の再配達の削減に向けた受取方法の多様化の促進等に関する検討会」は、大きな話題を呼んだ。だがこの結果だけを診れば、話題を呼んだだけで、宅配便再配達の削減に対する効果は極めて限定的であったと言わざるを得ない
【次ページ】物流ベンチャー代表「運送会社だけに責任を押し付けていては不可能」
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