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  • 2019/04/18 掲載

医療ITの圧倒的王者、エムスリーが常に勝ち続ける理由

国内の医師8割を会員化

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2019年2月、LINEと協業してLINEヘルスケアを立ち上げ話題となったエムスリー。時価総額は一時1.5兆円を超え、国内医療ITでは圧倒的No.1の企業であり、また2017年には米Forbesの「世界で最も革新的な成長企業」でも5位(日本企業の中では1位)に選出され、世界でも存在感を示します。ただその一方で、業界外から見るとそれほど認知されていない“謎の企業”でもあります。本稿では、「医療界の怪物」とも呼ばれるエムスリーのこれまでの軌跡、そして今後の展望を説明します。
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市場変化の中でも勝ち続けるエムスリーの強さの理由とは
(Photo/Getty Images)

製薬会社向けのマーケティング支援がスタート

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 日本の医療業界は40兆円もの市場規模があります。そのうち10兆円前後である医薬品マーケットにおける、最も影響力を持つのが処方権を持つ「医師」です。国内で30万人、全人口のわずか0.2%の医師がこの巨大マーケットに最も強い影響力を持っています。

 その国内30万人いる医師の約80%、25万人以上を会員として抱えるのがエムスリーの運営する医療ポータル「m3.com」です。

 エムスリーは、元マッキンゼーのパートナーである谷村氏が2000年に創業した企業です。当初は、医薬品マーケットで影響力の強い医師を囲い込むm3.comポータルを活用した製薬会社向け医薬品マーケティング支援、「MR君」が主力事業でした。

 また、同医師会員向けに人材紹介事業も展開、医師・薬剤師向けのキャリア事業でもNo.1となります。さらに、MR君を通じて製薬会社のアカウントが増える中で、今度は医薬品開発の領域で治験支援事業を展開するなど、既存のアセットを活用しながら業態を拡大してきました。

 BtoBという特性もあり、水面下で売上利益の年二桁台の成長を続け、気づいたときには、他社が追随できないほどの医療界圧倒的No.1の企業となっていきました。

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エムスリーの売上高と営業利益(単位:百万円)

医薬品市場の構造変化が逆風に

 しかし、エムスリーを取り巻く医薬品市場も近年、大きく変化してきています。

 かつて数多く存在した、いわゆる「ブロックバスター」といわれる売上金額1,000億円規模の内科向けの医薬品は一巡しました。新薬の中心は、売上100-200億円規模の特定専門科が利用するような医薬品へと小粒化していったのです。

 医薬品の対象が専門医中心となると、当然ながら、ターゲットとなる医師数が減少します。たとえば日本国内にクリニックは約10万軒ありますが、うち内科を標榜する医院は約60,000-70,000軒です。一方で、耳鼻科や泌尿器科などの専門科のクリニックは6,000-7,000軒と10分の1程度まで落ちます。

 Webプロモーションの利点は、対象となるユーザー・顧客が増えるほど限界費用が減り、より効率的なプロモーションができることです。しかし医薬品マーケティングの主戦場が専門医向けになってくると、その効率が大きく悪化するのです。

 これまでの内科中心のブロックバスター医薬品であれば、処方可能性のある医師を回り切るために必要なMR数が非常に多く、高いWebプロモーション効果を挙げられました。しかし専門医中心になれば、MRが訪問したほうがむしろコスト効率が高い、という状態になっていく可能性すらあります。

 このような環境変化は今後も加速し、医薬品マーケティングのデジタル化で大きく成長してきたエムスリーの主力事業「MR君」に限ると、これまでのような二桁成長を継続するということは難しくなっていくと考えられます。

 実際、これまで売上利益ともに二桁成長を継続してきたメディカルプラットフォーム事業は、2019年第一四半期より利益ベースでマイナス成長となりました。

 同様に、治験領域も、オペレーショナル・エクセレンスの追求や、買収・統合による規模化によって成長余地はありますが、医薬品の主戦場が専門科向けになる以上、対象の疾患を持つ患者を集めるコストは上がり、治験マーケット自体が順調に成長する、ということはあまり考えられません。

 製薬会社の業務アウトソーシング化が一巡すれば、現在は成長しているCRO市場も伸びは緩やかになっていくと考えられます。今は絶好調のキャリア事業も、医師の人数に天井がある以上、国内においてはいつかは成長に頭打ちがくるでしょう。

【次ページ】エムスリー流事業育成モデルとは?LINEやドコモと提携も
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