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  • 2019/02/27 掲載

ヘルスケア業界に黒船? GAFAの「医療IT」戦略はこうなっている

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ヘルスケア業界におけるテクノロジーでは、大きな変化が起きている。テクノロジーの発展と普及を担う主要プレイヤーが、医療機器メーカーからGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるIT大手企業や、他業界からの新規参入者にシフトしているのだ。こうしてメディアを賑わす画期的な医療ITが数多く産声を上げる一方で、医療の現場とその財政状況は必ずしも楽観視できるものではない。今回はTopconの長竹宏氏が、もっとも進んだテクノロジーの活躍の場として注目を集めている医療ITとその実態について解説する。
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進化と活用が進んでいるといわれる医療IT、実はそうでもない
(© adimas - Fotolia)


医療ITは参入者と既存企業の「やるかやられるか」状態

 医療IT(本稿ではヘルスケア業界における先進IT関連のテクノロジー一般を指す)がメディアで取り沙汰される一方、経済先進各国では、ほとんどすべての国でGDPに対する医療費の割合とその拡大が大きな社会問題となっている。

 医療費の世界トップ5か国に目を向けると、金額規模での成長率だけを見れば、2000-2015年で経済成長の著しい中国は10倍超え、最も絶対額の多い米国の医療費は3兆ドル超えの2.37倍となっている。感覚的に見ても非常に大きな危機感を煽る状況だ。(図1)

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図1:医療費上位5か国(2015年時点)の成長比較
(出典:OECDのデータをもとに筆者が作成)

 一方で、同じデータについて、全世界視点かつ経済原理を考慮した見方をすると、2000年から2015年に渡って、全世界の対GDP比の医療費割合(つまりは経済成長を考慮した医療費の成長)は平均で年0.1%程度の微増(図2)を続けており、ここ数年で特に急増したような印象は受けない。すなわち、医療費はメディアで大きく取り上げられるようになる遥か昔から、既に大きな問題であったが、多くの国では経済成長の陰に隠れ、取り沙汰される機会が少なかっただけであると考えられる。

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図2:対GDP比の医療費割合(世界)
(出典:OECDのデータをもとに筆者が作成)

 GDPに対する医療費の成長が微増で済んでいることに安心感を覚える一面があるかもしれないが、これは裏を返せば、ヘルスケア業界の経済には新規参入プレイヤーが簡単にシェアを獲得できるような経済的な成長余地はなく、既存プレイヤーや既存領域からシェア奪いとる形で成立する、いわゆるゼロサムゲームの様相を呈していると考えられる。

注目すべき医療ITの3分野

 現在盛んに取り上げられている医療ITは、正に未来の医療と呼ぶにふさわしい新規性と先進性を備えているものが多い。分野としては非常に多岐に渡るが、特に注目を集めている医療ITを大別すると以下の3つになる。

(1)高度診断
 高解像度の医療画像などの検査データ、年齢・性別・既往症などの患者データをインプットとして、人手では検知が難しい情報もしくは処理しきれない情報を、近年急拡大したコンピューティングパワーを駆使して高速、高精度に解析するもの。ここでの 「高度」の意味合いは、厚生労働省の定める「高度医療」、「先進医療」とは異なり、一般形容詞として使用している。

 近年では、解析の手法が予め指定されなくても、自力でなんらかの異常値を発見する人工知能(AI)を活用した自動診断(あるいは医師の診断支援)アプリケーションに取り組むベンチャー企業が数多くみられる。

 実例を1つ挙げると、2018年4月に米国のアイオワ大学からスピンアウトしたベンチャー企業のIDx社が、世界初の「医者要らず」の糖尿病網膜症の自動診断AIの承認を、米国のFDA(食品医薬品局: Food and Drug Administration)から獲得し、ヘルスケア業界を震撼させた。

(2)高度外科手術
 ロボットアームや3D CCDカメラなどを使用して、人手では不可能な高精度の手技や術野の確保を行い、これまでにない低侵襲性(生体の内部環境の恒常性を乱す度合が低いこと)の手術を実現するもの。これにより、手術中の出血量を抑え、術後の痛みや手術創(手術のために切ってできた傷)の極小化、回復の早期化や機能の温存などが期待できる。

 現在、ロボット手術といえば、米国のIntuitive Surgical社の「ダ・ヴィンチ(da Vinci)」が、世界トップシェアを占めていると言われているが、2018年に放送されたテレビドラマ「ブラックペアン」でも「ダーウィン」という名で同機器がロボット手術に使用され、更に注目を集めた。

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 日本ロボット外科学会によれば、2016年9月までのダ・ヴィンチの出荷台数は累積で3万803台、手術症例数は65万2000(2015年まで)に上るが、日本国内では同237台、3万976症例と全体の約5%程度を占めるに留まっている。

(3)高度医薬品、細胞治療の研究開発
 膨大なコンピューティングパワーとAIを背景にして、これまでに無かった新薬を研究開発(創薬)するという医療ITにも注目が集まる。

 通常の医薬品の研究開発では、膨大な種類の化合物と開発する薬の標的となる生体内たんぱく質の組み合わせを行い、結果として有望なものを非臨床試験(動物実験を含む)および臨床試験(四相に分かれた対人実験)を行うようになっている。結果として、医薬品の開発の成功率は組み合わせの多さも手伝って、2万5000分の1(厚生労働省調べ)という大変苦しい数字になっている。

 この化合物の組み合わせと標的たんぱく質の組み合わせを自動化し、組み合わせ結果の予想まで行うのが医療ITの創薬における使い道である。

 それに加えて遺伝子治療(細胞治療の一部にあたる)の分野では、患者個人の遺伝情報を分析し、患者の遺伝子レベルでの特徴、体質や病状に合わせた薬を開発し、患者に適した量を投与するといった、Precision Medicine(精密医療)にも医療ITが活用されている。

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 具体例を1つ挙げよう。2017年12月に米国のSpark Therapeutics社のLUXTURNAが遺伝子変異によって起因する疾患を標的として患部に直接注入する遺伝子療法を開発した。これは米国FDAで初めて「疾患を標的として患部に直接注入する遺伝子療法」として承認を獲得した。

 それまで網膜ジストロフィーには有効な治療法は存在しなかった。しかし、LUXTURNAはアデノ随伴ウイルスをベクター(ウイルスを細胞に届ける媒介)として網膜細胞に直接注入し、網膜ジストロフィーによって失われた視力を回復させることができるのだ。

GAFAそれぞれのヘルスケアテクノロジー戦略

 これまでヘルスケア業界におけるテクノロジーといえば、医療機器の機能・性能の追加・向上を指していた。そのため、ヘルスケアのテクノロジーは基本的に機器メーカーの独壇場で、各社が非常に閉鎖的であるのが一般的だった。しかし近年その様相が変化している。GAFAに代表されるITジャイアントが遂に本腰を入れてヘルスケア業界への参入に動き始めたのだ。

 GAFAそれぞれの医療IT戦略を見てみよう。

■グーグル
 グーグルが2014年にDeepmind Technologiesを買収し、2015年にはDeepmind Technologiesが開発したAlphaGoが囲碁チャンピオンを負かした。このDeepmind Technologiesのユニットの1つであるDeepmind Healthは、患者モニタリングを行うStreams appというアプリケーションを提供しており、英国の多くの医師と患者に利用されている。医療画像の解析の分野ではAIを活用してOCT(三次元眼底像撮影装置)やCT(CTスキャン)、マンモグラフィ画像からの疾患の自動診断に取り組んでいる。

【次ページ】アップル、アマゾン、フェイスブックの医療IT戦略
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