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「シャドーIT(事業部門がIT部門に断りなしにIT予算を自ら獲得しIT化に取り組むこと)がデジタル化を推進する」。米デルテクノロジーズの日本法人がこのほど実施した日本の中堅・中小企業(SMB)におけるIT投資動向調査から、こんなIT活用の実態が見えてきたという。背景には、1000人以下のSMBにIT人材確保の難しさがある一方、利用部門のITスキルの高い人材がデジタル活用へと動き始めたことがある。セキュリティなどのリスクが高まる危険性があるシャドーITが、デジタルを推進するのは皮肉にも思える。そのシャドーITの予算がクラウドや仮想化、デジタル化をけん引し、年率40%で増加している。デルの調査から、IT化に取り組むSMBの姿が見えてきた。
デルのIT投資動向調査からみえた「ひとり情シス」の実態
デル日本法人が2018年12月12日から2019年1月18日に従業員100人から1000人未満の中堅・中小企業868社にIT利用動向に関するアンケート調査を実施した。IT担当者1人以下の「ひとり情シス」の割合が38%になり、1年前の調査より7ポイントも増えたことが分かった。
中でも、IT担当者1人が前回の14%から18%に、専任担当者不在が17%から18%になり、IT人材の獲得・育成が課題であるという結果が出た。ITリテラシーが業績に影響し、低い企業ほど低迷しているからというが、その責任の一端はITの提供者側にもあるのではないか。
IT人材不足をより深刻化させているのが、IT担当者の離職が増えていることだ。調査では、離職率はIT担当者の5分の1の21%にもなる。特に担当者1人の離職率は32%だった。
業種を越えてSMBがIT人材を求めていることが、転職率を高めていることも背景にありそうだ。「『あれもこれも』の要求に応えるのがしんどい」などと辞める人が少なくない。しかも、スキルの高い人材ほど転職する傾向が高いという。
一方、IT担当者が退職したら、ITに詳しい利用部門の人材をIT担当に登用するが、その人も辞めてしまう可能性がある。そこで、総務担当者らがITを兼務する。その兼務型の割合は56.6%と半数以上にもなる(うち総務担当者の兼務型は47%)。従業員100人から200人未満になると、7割近くが兼務型だという。
問題は、最も多く兼務する総務担当者が働き方改革やBCP(事業継続計画)、人材育成などに時間をとられて、ITにさける時間が少ないこと。結果、新しいプロジェクトに取り組むことを難しくする。だが、働き方改革や人材育成などへのIT活用を期待されているのに、兼務型はなかなか手をつけられない。
調査でも、「働き方改革に取り組んでいる」との回答は予定を含めて8割弱にもなるが、何も変わっていないとする「成果なし」が約4割もある。中には、「サービスや商品を購入してくれない」と嘆くIT企業もいるそうだが、自らの提案力のなさを改めるべきである。
IT人材の実態に迫る
デルによると、SMBのIT人材には4つのタイプがある。
●SMBのIT人材4タイプ
(1)徹底的に技術を研鑽(けんさん)して、どんなプロジェクトにも果敢に挑戦して成功に導く「技術志向型」
(2)「ひとり情シス」で経験を積み、IT部門から経営に近いポジションを目指す「幹部指向型」
(3)プロジェクトが一段落してしまうと自分の存在感を問うようになり、別のキャリアを志向する傾向が強い欧米CIOタイプの「プロジェクト型」
(4)経営層に信頼されるまで時間がかかるので、他社からの条件のいいオファーに関心寄せる「昇進型」
この中で、技術志向型とプロジェクト型のIT人材を失うと、「会社側の計り知れないダメージをうける」と指摘する。
「ひとり情シス」も、夜中まで仕事をする新技術研究型と新しい技術が苦手な現行踏襲型に二極化しているという。業務が多忙な総務の兼務型は、革新的な技術を選択できず、枯れた技術を優先する現行踏襲型になりやすい。
半面、総務の兼務型は「経営層に近く、今までブラックボックスだったIT予算や保守コストにメスを入れて高い信頼を得る」という可能性もある。だが、結果的にデジタル化など新しいことに挑まないことになりそうな気もする。
しつこいが、経営課題でもある働き方改革や人材育成などにITを生かすことを考える。それが兼務型の役割の1つになるだろう。
そのためにも、IT企業はクラウド化をSMBに提案する。調査では、クラウド導入済み企業はグループウエアから経費・交通費精算、人事・労務管理へと広がり、ようやく2割を超えたところ。より使いやすいクラウドサービスを提供すれば、クラウド化率はさらに高まる。
【次ページ】なぜシャドーITでデジタル化が進展するのか
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