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  • 2018/11/26 掲載

東京のベンダーが知らない事実--地方のICT事情をドコモ、自治体、総務省ら議論

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「東京一極集中」の時代。技術も人材も、ほとんどの資源が東京に集まり、地方からは新たなビジネスが生まれにくくなっている。2018年10月、CEATEC JAPAN 2018で、「データ利活用による地域課題解決とイノベーション」をテーマとするパネルディスカッションにおいて東京大学大学院 情報学環 教授 越塚登氏は「地方に行くと、ベンダーへの不満をぶつけられます」と語った。ICTという視点で、都市部と地方の格差はどこまで開いているのか?NTTドコモ、徳島の交通スタートアップである電脳交通、さらに横須賀市や総務省を交えた議論をレポートする。
 スピーカーとして横須賀市 経済部長 上之段功氏、総務省 大臣官房総括審議官(情報通信担当)安藤英作氏、NTTドコモ 取締役常務執行役員 古川浩司氏、電脳交通 代表取締役、近藤洋祐氏の4人が登壇。モデレーターは東京大学大学院 情報学環 教授 越塚登氏が務めた。

「地方発イノベーション」のリアル

東京大学大学院 情報学環 教授 越塚登氏(以下、越塚氏):地方をどうやってICTで盛り上げていくのか議論していきます。最初のテーマは、地方発のイノベーションの可能性です。一般的なイノベーションは東京のような大都市圏からトライをする人がたくさんいる印象がありますが、実は地方だからイノベーションを起こしやすいということもあります。大都市圏にない優位な面はありますか?

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東京大学大学院 情報学環 教授 越塚登氏

電脳交通 代表取締役 近藤洋祐氏(以下、近藤氏):地方は資源が限られています。たとえば今、とある自治体から、地域の中にある法人タクシー5社すべてが向こう5年以内に廃業すると宣言をされた、という相談を受けています。なくなってしまったことを復活させるのは難しいので、今あるリソースを使って、5年を10年、10年を15年に伸ばすことにクリエイティブな思考を働かしていくことが重要で、求められているところだと思います。

 課題を解決するためのプラットフォームは、同じ課題を抱えている事業者に流用できますが、タクシー業界ひとつにしても、何百万人もいる大都市と地方ではプラットフォームが全然違います。地方型は我々が行っているような昔からあった体制に寄り添った形で、都市型は新しくスマートデバイスを使ってプラットフォームを作っています。地方では、資源をどう有効活用していくというのが究極に求められてくると思います。

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電脳交通 代表取締役 近藤洋祐氏

越塚氏:横須賀発の取り組みをご紹介いただけますか?

横須賀市 経済部長 上之段功氏(以下、上之段氏):横須賀は東京からは1時間ぐらい、隣接するのは横浜市ということで、地方というよりはどちらかというと大都市に近いと思っています。人口規模は約40万ですが、都市の抱えてる課題はさまざまです。

 市では横須賀リサーチパークを拠点に情報通信の研究を盛んに行ってきていまして、「LPWA」(Low Power Wide Area)の実証実験を行っています。この中で、健康やスマートメーター、農業などさまざまな分野に活用し始めています。今後はWi-SUN(Wireless Smart Utility Network)などに代表されるような「LPWA」を、市の公共施設などにどんどん取り入れていきたいと考えています。

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横須賀市 経済部長 上之段功氏

越塚氏:ドコモさんは日本を代表する有数の大企業ですが、普通のベンダーさんと違うのは日本全国に展開していて、大都市圏でも地方圏でもすべての場所でビジネスを支えています。そこで、東京だとちょっとやりにくいけど、逆に地方だとやりやすいという面がありましたら、ご紹介いただきたいと思います。

NTTドコモ 取締役常務執行役員 古川浩司氏(古川氏):いろいろな自治体の方とお話しさせていただく中で感じるのは、東京だから課題がないとか、〇〇だから課題が多いとかいう話ではありません。課題はどこの自治体でもあります。ただ、その内容と質的な問題が自治体によって異なっていると感じます。

 東京においては、東京オリンピックに向けていわゆる国際都市としてどうやってこの日本を東京を中心にアピールしてくかという観点での街づくりになっています。半面、仙台や広島、大阪ではどちらかというと産業振興や経済の発展に軸足があります。

 一方で、沖縄県の与那国島や宮古島、高知県などでは、とにかくICTを使う余地があるところについては全般的にチャレンジしています。我々は14の自治体と連携協定を結んでいろいろなコラボをやっています。

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NTTドコモ 取締役常務執行役員 古川浩司氏

越塚氏:安藤さんは地方の活性化をご支援されていらっしゃいますが、地方の特性を活かした事例があればご紹介していただければと思います。

総務省 大臣官房総括審議官(情報通信担当) 安藤英作氏(以下、安藤氏):地方の発案で多くの優れたプロジェクトを採択しています。そのすべてが、その地方ならではのものです。データに基づく農業も、今や当たり前になっているのかもしれません。野菜や水田、牛でもありますし、珍しいところでは養豚もあります。それも7、8年前に地方から出てきたもので今全国に広がってきています。

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総務省 大臣官房総括審議官(情報通信担当) 安藤英作氏

東京と地方では「課題の規模」が違う

越塚氏:地方に出かけて話を聞いていると、東京からのベンダーには「1案件につき約3000万円」と言われるそうです。新しいテクノロジーを使ったからといって3000万円の収益が上がるとも限りません。もっと案件が小さいことを告げると、テクノロジーやソリューションを持っているベンダーはなかなか乗ってきません。

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 逆に、東京のベンダーからは「地方に行くと100万円どころか10万円でもお金を払ってくれません」と聞いていて、それも確かにおっしゃる通りだと。

 特にIoTやAI、データ利活用というと、問題やデータを分析しようとするとどうしても労働集約的な面が出て、100万円程度の人件費はすぐにかかってしまいます。ただ、それは1件だけでやろうと思うからで、数を多くこなすことでその知見をほかに適用できるかもしれません。そのようなことを考えていかないと、地方の課題解決は進まないように思っています。そういった、「課題の規模」についてどう思われますか?

古川氏:各自治体に提案活動をする時、一番ネックになるのはお金の問題です。我々も民間企業である以上は無料で奉仕し続けることはできません。ただ、従来の、いわゆる料金表に載っている料金をそのまま適用するのはそぐわないと思います。

 そのために、ひとつは仕組みに応じた料金を用意します。たとえば、水田センサーは四六時中データを上げなくてもいいのです。数時間に一度、水量や水温のデータを送れば十分なので、そういった利用頻度に応じた料金体系を作る。

 二つ目として考慮しなければならないのは仲間づくり。要するに割り勘要員です。今、教育のICT化をさまざまな自治体で提案させていただき、10万台ぐらいの規模で急速に普及しつつあります。プラットフォームは結構高いものですが、10万という大台になってくると、単価を安くできます。

 最後に、自治体や住民の方々が効用を認めていただけるか、ということに左右されます。今までは「この一式を入れると3000万円の契約です」という営業活動でしたが、それが実際に効用があるかどうかは使ってみなければわかりません。先端技術であれば、なおさらです。そのため、かなり低廉な価格もしくは無料で使い勝手を検証していただき、ご要望を承りながら改善していくような工夫もしています。

越塚氏:地方のベンチャーから見たらどうでしょうか。

近藤氏:タクシー事業者の配車システムは、ベンダーから購入すると大体10年ぐらいの償却を行います。つまり10年の借金を背負うのです。正直、今地方のタクシー会社は全然お金を持っていません。その中で、僕たちが意識してるのは、損益計算の考え方を変えていかなければならないということです。

 タクシー事業者のITリテラシーには、ムラがあります。使いにくいという時には、個別カスタマイズもします。ボタンを押して何が動くかすらわからないこともあるので、もうなんとなくこのボタンを押す、といった仕様に変えたりします。我々はそこまで向き合って事業開発しています。

 また、タクシー事業のコスト構造までしっかり理解して、一緒にグランドビジョンを見ながらプラットフォームを作っています。

 つまり、タクシー事業者から従来発生していた配車コストやその近隣からお金をいただくのではなく、とにかく今はプラットフォームを作ることを最優先にしています。そのプラットフォームの上で、従来のタクシー業界の中で流れてなかった金流から、新たにお金を持ってくるようなつなぎこみをしています。

 たとえば徳島県だと深夜は平均年齢63.8歳の方々が運転してるので、当然眠くなります。それをカメラで感知してアラートを鳴らすオプションでお金をいただくような仕組みを作らないといけません。

【次ページ】地方から全国、そして世界へのイノベーションを生むためには
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