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全国の地方自治体で作業効率向上を目指し、人工知能(AI)を導入する動きが加速してきた。戸籍事務での事例検索や自動会話プログラムを活用したサービス案内、道路の補修点検など活用方法はさまざまで、AIを試行的に活用して成果を上げた例も出ている。人口減少で自治体職員の減少が予想されるだけに、総務省も2019年度から官民一体のモデル事業を計画、導入を後押しする構えだ。近畿大経営学部の津田博教授(電子自治体システム)は「自治体職員の減少が見込まれる中、AIの導入には意義がある。AIが得意とする分野の業務を任せ、住民サービスの維持に活用すべきだ」とアドバイスする。
大阪市は戸籍事務、東京港区は議事録作成に導入
大阪市浪速区役所では、2018年度から戸籍事務にAIの活用が始まった。法務省の判断事例をデータベース化し、AIの自然言語処理で必要な情報を抽出、取り扱いが難しい特殊事例の判断に生かす試みだ。
浪速区役所では窓口サービス課の職員らが出生、婚姻など戸籍関係、転入、転出の届け出や各種証明書の発行などを受け持っている。しかし、最近は重婚が認められた国の出身者との結婚や出生届けに記入された特殊文字など受理できるかどうか悩ましいケースが増えてきた。
職員がその都度膨大な資料を調べているが、調査だけで1~2週間かかることもあり、負担は増すばかり。戸籍事務に精通するベテラン職員が退職期を迎えており、経験の少ない職員でもスムーズに業務を進められるようにすることが課題になっていた。
市は戸籍事務へのAI導入を市のICT戦略アクションプランに盛り込み、浪速と東淀川の両区役所で先行実施、2019年度から全24区に広げる計画。大阪市ICT戦略室は「判断はあくまで職員がするが、AIが事例検索を担うことで受理の迅速化を図れるのでないか」と期待している。
東京都港区は5月、AIを活用した議事録の自動作成支援ツールを導入した。区役所では庁議や地元住民との協議会などが月平均20~30回開かれている。従来は職員が録音データを聞きながら手作業で議事録を作っていたが、AIを使って自動で文章化している。
役所では区独自の用語や地名など固有名詞が多く使用されるが、AIの機械学習で対応できるようにする。港区情報政策課は「議事録を残す会議が増えているだけに、職員の負担が大きかった」と導入理由を説明した。
保育所の入所選考で成果を上げた実例も
保育所の入所選考という膨大なデータ処理に2019年度からAIを活用するのが香川県高松市だ。市は入所申し込みを受けると、保護者の労働時間、妊娠や障害の有無、親族介護の必要性などを点数化して優先順位を決めたあと、順位に従って保育施設に割り振っている。
点数化作業は今後も職員の手で進めるが、市は点数で並べ変える作業をAIに任せる。並べ替え作業は職員の手作業で進めた2018年度の入所選考で約600時間かかっていた。AIが受け持つとわずか数秒で終わり、例年2月末に出している選考結果の通知を10日ほど早められる見通しだ。
市は共働き世帯の増加などから保育所の入所希望が年々増え、2018年度の申込件数が4年前に比べ約1,100件多い1万件余りになった。高松市こども園運営課は「より公平で迅速な選考ができ、職員の労働時間短縮にもつながる」と目論む。
保育所の入所選考ではさいたま市が2017年、試行的活用で成果を上げている。市が富士通研究所と九州大の実証実験に協力し、8,000人分の申し込みデータをAIで点数化して入所先の割り振りをしたところ、数秒で職員による実際の選考結果とほぼ一致する組み合わせを弾き出した。
さいたま市保育課は「約30人の職員が50時間ほどかけて割り振りしてきただけに、時短効果は大きい」と評価する。ただ、職員が手作業で各世帯の状況を把握することが保留扱いとなった子どもへの対応に役立つ面もあることなどから、導入については検討を続けている。
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