0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
共有する
東京都渋谷区は、区を挙げてオープンイノベーションによる社会的課題の解決に取り組んでいる。2018年4月には渋谷区が7000万円を出資し、産官学民連携組織である「一般社団法人 渋谷未来デザイン」を立ち上げた。渋谷区がオープンイノベーションに力を入れているのはなぜか。長谷部健渋谷区長、澤田伸副区長、フューチャーセッションズ代表野村恭彦氏に話を聞いた。
オープンイノベーションが可能な理由は「寛容さ」
渋谷区の基本構想は「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」だ。なぜオープンイノベーションに力を入れているのか、まずはその理由を尋ねた。
「僕は原宿が地元なんです。小学校の頃は“竹の子族”、中学校の時は“DCブランドブーム”、高校では“アメカジ・渋カジブーム”を見てきました。ファッション一つとっても、表参道のストリートカルチャーは、いろいろなところから来た人が混ざり合うことで成立しています。渋谷は、違う価値観を持った人がぶつかりあってカルチャーを生むことができる街なのです。今はITが入ってきたことで、それがオープンイノベーションという言葉に変わったのだと思います。渋谷は常に文化を発信し続けている街であり、走り続けていれば、新しい価値文化が生まれていきます」(長谷部区長)
違う価値観の人同士が文化を生み出せる理由は「寛容さ」だと長谷部氏。渋谷は江戸時代までは何もない土地であり、戦前に地方から来た人たちが街を作ってきたことがその背景にある。高齢者にも「出てきた」という意識があるため、新しく来た人に対して寛容になれる。また、家賃が高いことから、渋谷区を選んで住む人には渋谷に対する愛着を持っている人が多いことも理由だ。
長谷部区長は、「行政の役割は仕組みを作ること」にあると語る。特定の目的を達成するためにオープンイノベーションを促進しているのではなく、化学変化やシナジーが起きることを期待しているという。
「行政には仕組みを作る役割があるのです。やりたい人がやりたいことをできる街になれば、変化は起きていきます。この街が元気だったら東京も元気だし、日本も元気になるのだと思います」(長谷部氏)
分散と収束の繰り返しで街を育てる
それでは、渋谷区はオープンイノベーションの促進に向けて、具体的にどのような取り組みをしているのだろうか。
区としての最も大きな取り組みは産官学民の連携組織である「一般社団法人渋谷未来デザイン」の立ち上げだ。同法人の2億500万円の基金のうち、渋谷区は約7000万円を出資し、職員4人を派遣している。
渋谷区民から渋谷で働く人、渋谷を訪れる人など多様な人からアイデアや才能を集め、オープンイノベーションを通して社会的課題の解決策を探り、可能性をデザインするのが目的だ。そのためのイノベーションハブとして作られた。
渋谷区には、リクルートのイノベーションセンター「TECH LAB PAAK」や、「Plug and Play Shibuya powered by 東急不動産」、三井住友FGの「hoops link tokyo」など、さまざまな企業のイノベーションセンターやインキュベーションセンターが設置されている。
区長とともに渋谷区のオープンイノベーションに取り組む澤田伸副区長は、その理由を「渋谷区がオープンイノベーションを受け入れる街だから」と分析。そして、オープンイノベーションの促進において大切なのは強いネットワーキングだと語った。
「渋谷区が真ん中に入るのではなく、民間と立ち上げた連携機関を使ってネットワークを作りながら、時に分散し、時に集まるという収束と拡散の繰り返しが、オープンイノベーションの街を育てていくのです」(澤田副区長)
澤田副区長は、オープンイノベーションを「今日ない社会を未来に作ること、今日よりも良い明日を作ること」と定義する。
「超高齢社会や少子化など、暗いことを言っても仕方がありません。世界で一番先に、日本が『めちゃくちゃかっこいい超高齢社会』を作ると定義をすればいいんです。超高齢社会は日本が一番進んでいるのだから、どこにも真似できないくらいおじいちゃんおばあちゃんをかっこよくするんです。渋谷区ならそれができると思います」(澤田氏)
【次ページ】プレイヤーを育てる「渋谷をつなげる30人」