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  • 2018/05/23 掲載

700年起きない「メガネのイノベーション」に挑むJINS、提携先を増やせるワケ

連載:「オープンイノベーション」の実際

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ビジネス環境の変化が加速し、イノベーションが求められる現在、大企業とスタートアップが手を組んだり、企業と自治体が連携したりすることが増えている。JINSによるセンシング・アイウェア「JINS MEME(ジンズ ミーム)」をめぐるプロジェクトも、その一つだ。JINS MEMEではセンシング技術によって集中力や姿勢などのデータを取ることができる。開発段階から東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授と研究を行い、現在は旭硝子やリクルートマーケティングパートナーズなどとの連携もしている。JINS MEME事業部 事業統括リーダーの井上一鷹氏に多彩な相手と協業を進める理由について聞いた。
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JINS MEME事業部 事業統括リーダー 井上一鷹氏


オープンイノベーションは自然なことだった

──JINS MEMEは企画段階から東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授と、産学共同体制で研究をされていますよね。外部との連携を前提としたプロジェクトだったのでしょうか?

井上氏:そもそも、我々は商品企画から販売まで、全てをプロデュースしていますが、全ての工程において社内外問わず、各分野の専門家に知見を借りながら運営しています。

 眼鏡という商材に特化しながらも、もともとが全部オープンイノベーションに近いので、JINS MEMEでのオープンイノベーションは自然なことでした。

 その理由は、「ウチだけで分かるわけがない」から。JINS MEME以前も、慶應義塾大学とブルーライトやドライアイの研究をしていました。

 私がJINS MEMEの開発中に社長の田中(田中仁 代表取締役 CEO)に言われていたのは「自分で悩むのをやめろ」ということ。同じ悩みについて、20~30年と研究してきた人がいるから、その人達に協力を求めなさいということです。何をしたいかの軸をブレずに持っていれば協力が得られます。

──川島教授とは、JINS MEME以前から交流があったのですか?

井上氏:視力矯正用の眼鏡を提供するだけでは、事業の伸びは鈍化します。さらに、眼鏡が発明されてから約700年間大きなイノベーションが起こっていなかったこともあり、弊社ではそれ以外の眼鏡の価値を探していました。

 「眼鏡はどうあるべきか」という議論をしていた際に、川島先生がJINS MEMEの機能を提案されたのです。「川島先生が面白いと言うなら、面白いに決まっている」という経営者の目利きと決断力で、取り組むことにしました。

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センシング技術によって集中力や姿勢などのデータを取ることができる「JINS MEME」
先日、「ハーフリムタイプ」が登場した

「何でもできる」は「何にもならない」

──JINS MEMEには、「JINS MEME MEDICAL LAB.」と「3rd PARTY PROJECT」の大きく分けて2つのプロジェクトがあります。それぞれご紹介いただけますか。

井上氏:JINS MEMEの強みは、被験者に実験していると感じさせないことです。朝から晩まで、普通の状態でのデータを取れるため、新しい研究スタイルを促進できます。

 そこで、生理状態や心理状態からメディカル系の研究をする仕組みとして、JINS MEMEを使ってもらおうとするのが「JINS MEME MEDICAL LAB.」です。「3rd PARTY PROJECT」では、弊社が判定したデータを使ってスマホアプリを作るためのSDKをお渡ししています。

 この2つに取り組んで分かったのは、「何でもできるは何にもならない」ということ。一般開放は手段としては必要ですが、まずは世界中にナレッジを貯める必要があります。

 そのため、メディカルの方では「アカデミアパック」というJINS MEMEを使った研究用デバイスを販売し、研究者出身の社員がコンサルティングをしながら、研究を進めています。

 「3rd PARTY PROJECT」は事業側なので、私が協業の提案をしています。例えば、今は「働き方改革」という文脈があり、JINS MEMEでは集中を測れます。

 そこで、グループウェアを取り扱う会社に対して、グループウェアのデータとJINS MEMEのデータを組み合わせてソフト上で従業員の集中度合いを可視化できるようにし、同僚に声をかける際、「今は集中しているようだから電話連絡は控えるようにする」といった「社内連携を進化させる提案」などをしているのです。

──かなり具体的な提案をしているのですね。

井上氏:「(JINS MEMEは)何でもできます、どうぞ(使い方はあなた次第です)」と言われても、デバイスがすごく売れるまでは、みんなに触手を伸ばしてもらえません。セカンドパーティーという、ある程度上のレイヤーのサービスに対しては「こういうことができるけど、ご一緒できないか?」と、まずは人が働きかけなければならないのです。

 たとえば、100万台という数字が見えるようになった時に垂直統合(特定事業ドメインを製造から流通まで統合して提供すること)の戦略により競争力を強めができるようになり、初めてサードパーティーが触手を伸ばしてくれると思います。

 iPhoneが売れた理由は、「携帯電話本体」「OS」「音楽(のプラットフォームのiTunes)」という明らかに垂直統合モデルが可能な仕組みがあるからです。その戦略によってすでに売れているから、さまざまなプレイヤーが参画しました。

 (近年成功している新たな製品やサービスは)「枠(事業領域、製品やサービス)を決めてからモノを詰める(仕様を決める)」のではなく、「軸(ビジョンや世界観に近いコンセプト)を設定して、その軸に共感する人を増やしていく」という方法のものが多い印象です。

 どういう使い方があるのか伝われば、追加で機能を付けてみようとする人が現れます。我々は、その軸を作る必要があるのです。

【次ページ】アイデアに価値はないと思う理由
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