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  • 2018/07/06 掲載

イノベーションに導く「信頼関係」の作り方、横国大が地域と企業のハブになれた理由

連載:「オープンイノベーション」の実際

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ビジネス環境の変化が加速し、イノベーションが求められる現在において、大企業とスタートアップが手を組んだり、企業と自治体が連携したりする事例が増えている。これまで自治体や企業の事例を中心に取材をしてきた本連載だが、産学連携、産学官連携が話題となる現在、大学側はどのような取り組みをしているのだろうか。横浜国立大学の地域活動実践教育センターは10年以上にわたり、地域経済の活性化などに取り組んできた。同センターの志村真紀准教授に話を聞いた。
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横浜国立大学 地域実践教育研究センター 志村真紀 准教授


大学と地域の自治体・企業との連携ニーズは高まる

 文部科学省は2013年度から2014年度にかけて「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」を実施してきた。この取り組みは、地域のニーズと大学が持つシーズ(事業化や製品化の可能性がある技術やノウハウ)をマッチングすることによる地域課題の解決を目的としたものだ。

 2015年度からはその延長線上で、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」が実施されている。これは、大学と地方公共団体・企業が協働して学生の就職先を創出するとともに、地域が求める人材の育成を支援するものだ。目的は地方創生である。

 このように、大学が地域自治体・地域企業と連携して課題解決に取り組むことへのニーズは高まりつつある。大学COC事業が始まる前から大学と地域との連携を先駆的に取り組んできたのが、12年前に地域実践教育研究センターを設置した横浜国立大学による活動だ。オープンイノベーションや産学官の連携を模索する企業にとって、一つの事例として参考になる事例だ。

 横浜国立大学の地域との取り組みを考察することを通して、大学・企業・地域による連携の在り方を考えてみたい。

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地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)

学部横断型で幅広い分野の連携を可能に

 横浜国立大学の地域実践教育研究センターによる地域連携は、全学部生を対象とした「地域交流科目」と、全大学院生を対象とした「地域創造科目」の副専攻プログラムによって行われている。同大学では、教育学部・経済学部・経営学部・理工学部・都市科学部の5学部に加え、教育学研究科、国際社会科学府、理工学府、環境情報学府、都市イノベーション学府の5大学院があるため、幅広い分野での連携が可能だ。

「経済学なら環境経済や農業政策など、それぞれの学部に地域に関連する教員がおり、地域実践教育研究センターはそれらの教員と連携して、教育プログラムや研究活動を通して学術的な知見や視点を提供し、地域連携をしているのです」(志村氏)

 地域交流科目では、専門領域を超えて広い視野を養う「地域交流コア科目」と、専門性を養う「選択必修科目」、そして実際に地域に出て地域の方と一緒にプロジェクトに取り組む「地域課題実習」で構成されている。具体的に地域の自治体や企業と連携をしているのは、この「地域課題実習」だ。

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神奈川県内にはさまざまな地域課題がある(横浜国立大学地域実践教育研究センター アニュアルレポート 2017-2018より)

 地域課題実習では、横浜国立大学のある保土ヶ谷区をはじめ、横浜市内、神奈川県内の各地域で、地元住民、商店街、NPO、企業、行政などと連携したプロジェクトを実施している。

 神奈川県には里山から相模湾、観光地、農地、郊外住宅地、商店街、歴史的建造物、工業地など、さまざまな地域がある。そういった“地の利”を生かして、幅広い分野での実践をしているのだ。

大学と行政の信頼関係のなかでビッグデータを活用

 地域課題実習での連携の具体例をいくつか紹介したい。

 「モビリティデザインの実践」では、「羽沢横浜国大駅への通学路提案」や「横浜駅西口の水辺空間再生」「多元的データによる銀座の交通課題の現況診断」「自動運転時代のバス・タクシーサービス」などのテーマに分かれて、都市交通デザインを提案。バス会社などと連携し、利用者の課題を調べてフィードバックをしたり、都市空間のデザインをしたりしている。

 また、当プロジェクトの発展版でもある「COIプロジェクト」では、包括連携協定を締結している保土ヶ谷区と、ビッグデータを活用したプロジェクトが実施されている。

 たとえば、道路維持管理支援システムの開発として、「道路点検支援アプリ」により破損などがあった情報をタブレットからアップロードし、GIS対応型サーバにデータを蓄積。オープンデータと重ね合わせることで、AIによって路面性上を評価することを実践的に研究開発している。これにより、中長期的な維持修繕計画の策定が可能となる。

 このような統合型の管理支援システムを研究開発するのは、今後における生活インフラの一斉的な老朽化と、人口減少による予算縮小を見据えた上で、維持管理の効率化と省力化が喫緊の課題となっているからだ。

 その他にもこれまでに、ビッグデータを用いて「買い物難民ゾーン」や、「高齢者が多いゾーン」、「駅から15分以上かかるゾーン」を“見える化”し、次なる政策や事業を企てるための検討材料にしている取り組みもある。

「データを持っていても、どう扱えば効果的に運用できるのかわからないというのがニーズの1つとしてあるようです。GISの使い方により見える化し、どのようなフィルターを掛けあわせることで課題や可能性が捉えられるのか、などを含めて連携しています。大学と行政がこれまでに構築してきた信頼関係のなかで、データが生まれるための施策から、仕組みを作れること、研究ができることが強みです。分析していくためのベースがあり、学際的に連携して課題解決に取り組めるのはメリットだと思います」(志村氏)

 もうひとつ、企業との連携が活発なプロジェクトを紹介したい。「かながわニューツーリズム」だ。経済学の教員が担当となり、2017年は、小田原のインバウンド事業の企画立案に向けた実地調査と観光プランの提案を実施している。連携先には小田原箱根商工会議所やかながわ西コンベンションビューローなどがある。

 横浜市の企業と大学生の環境課題解決マッチング会では、「SDGs」をキーワードにした企業への提案も行った。日産自動車には、若者の車への購買意欲促進方法を提案し、ソーラーフロンティアにはソーラーパネルの普及方法を提案。日産とは提案をもとにした連携を進めることとなった。

【次ページ】学生の視点が強みになる
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