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オープンバンキングとは英国の国策として謳われているキーワードである。同国では銀行に対してAPI(Application Programming Interface)の公開を義務化し、そのための技術標準を整備している。一方、国内でも金融機関によるAPIの公開は徐々に進んでいるものの、技術標準の整備やエコシステムの醸成は十分ではない。日本で開催されたイベントから国内のオープンバンキング・ムーブメントの背景を整理し、それがなぜ加速しつつあるのか考察しよう。
オープンバンキング・エコシステムの発展を実感
オープンバンキング、つまり、「顧客から同意を得た後、API連携などを通じて、銀行が保有する顧客データを提携企業が利用できる仕組み」がキーワードとして注目され、複数のイベントが開催されている。7月に英国大使館 大使公邸で開催された「Japan/UK Open Banking and APIs Summit 2018」もその1つだ。
フィンテック先進国の英国が国策として推進している「オープンバンキング」ーー。その領域での有力企業であるFinTechLabs.ioが登壇するとあって、国内の金融機関やFintechコミュニティ以外にも、ITベンダーやネット企業からの参加者が見受けられた。
イベントでは、「英国におけるオープンバンキングの取り組み」「日本における銀行APIの現在」「オープンバンキング・エコシステムを醸成するためのテクノロジーとトラスト」をテーマに、国内外の有識者、APIを提供する金融機関、APIを活用する企業などがプレゼンテーションを行い、それぞれ盛り上がりを見せていた。
英国はもちろん、国内でもオープンバンキング・エコシステムが発展しつつあることを印象付けられたイベントであったが、背景で何が起きているのだろうか。
国内におけるオープンバンキングの機は熟した
国内でオープンバンキング・エコシステムの発展が望まれる背景には、家計簿アプリの普及がある。
金融機関の口座情報などを集約し、日々の入出金や資産の状況を分かり易く把握できる家計簿アプリは、その利便性がユーザーに受け入れられ、マネーフォワードやZaimなどの代表的サービスは数百万人ものユーザーを抱えている。
家計簿アプリに口座情報などを集約することは、提供企業に自分のお金に関する情報を全て握られることを意味するため、情報の漏えいなどを心配して利用を躊躇(ちゅうちょ)する人もいるかもしれない。
しかし、実際には多くの人が自ら情報を提供することで得られる利便性を重視し、家計簿アプリは広く浸透することになった。
家計簿アプリが金融機関から情報を得る方法はスクリーンスクレイピングと言い、オンラインバンキングやクレジットカードのオンライン明細書などのIDとパスワードをアプリの提供企業に預け、そのサーバーからログインし、表示された画面を分析して必要な情報を取得している。
スクリーンスクレイピングによる情報の取得は、サーバーからのログインにより大量のアクセスが発生するなどして金融機関のシステムに不具合が発生する懸念や、預けたIDとパスワードが家計簿アプリ提供企業から漏えいする懸念などがあり、あまり好ましい方法ではないとされている。
解決策として金融機関によるAPIの提供が以前から言われていたものの、金融機関が積極的に外部に対してAPIを提供する動機が乏しかった。
しかし、金融機関においてオープンイノベーションによるサービスの革新が重要視されるようになり、ユーザーの方も有益であれば情報を提供しても良いと考える人が増加したことで、金融機関によるAPI提供の機運が高まった。
また、2018年6月1日に施行された改正銀行法では、家計簿アプリ提供企業などを電子決済など代行業者として位置づけを明確にし、銀行はオープンAPIの体制整備に努めることとされた。
金融機関やユーザーの意識の変化と、それを後押しする法改正により、国内におけるオープンバンキングの機は熟したと言える。
【次ページ】人々の意識が変化することで新たに普及するサービスへ備える
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