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人工知能(AI)をどのように組織内外の製品やサービスに導入するかが近年の大きなテーマとなりつつある。その中でよく聞かれるのは、AIを導入するためにはビッグデータが必要だが、有力企業によってデータが独占されている以上、勝ち筋を見つけるのは難しいのでは、という声だ。もちろん、ビッグデータをAI導入により有効活用していくストーリーは存在するが、それだけではない。AI導入ではスモールデータからスタートしても有効なケースもある。重要なのは、「必要なデータを随時取得可能なエコシステムを創造する方法」なのだ。
ビッグデータにこだわりすぎていないか?
AI導入事例のニュースでよく聞かれるフレーズがある。「○○が取得する大量のデータを人工知能に学習させることにより△△機能を実現」といったものだ。
この表現に間違いはない。現在のAIのほとんどのアルゴリズムは大数の定理に基づいており、大量のサンプルデータがあればあるほど真の値に近づいていく。
これらのことから、「ビッグデータがなければ、AI導入は不可能」と案じる人が多く、同時に「データさえあればAIを導入した有効な製品やサービスが構築可能」と考えがちだ。
ただしそれは幻想でしかない。当たり前だが、ビッグデータを持っていたとしても、そのデータが解きたい課題と乖離し、ノイズを多く含むものだったら、いくらAIを導入しようが、まったく使い物にならない。
「ビッグデータ×AI」の組み合わせによって、さまざまな製品やサービスを実現する可能性が秘められているのは事実であるが、ビッグデータやAIは万能ではない。逆に言うと、
前々回の記事に記した通り、場合によっては、スモールデータでもAI導入で有効性を十分見いだせる場合もある。
AIによる「キュウリの仕分け」が教えてくれること
ここで、一つの例を示してみよう。2016年の事例である、キュウリ農家による「ディープラーニングを使ったキュウリ仕分け試作機の自作」について見ていくことにしよう。
静岡県でキュウリ栽培農家を営む元システム開発者が一人で、キュウリの仕分け(選果)の作業の難しさ、手間の多さに目をつけ、ディープラーニングを用いた画像認識で自動キュウリ仕分け機の試作をした。
キュウリの仕分けは誰にでもできるものではなく、長さ、太さだけでなく、色艶などの質感、凹凸やキズがあるか、形がいびつかどうか、イボが残っているかなどさまざまな要素で等級を決めていかなければならない。
このような仕分け作業を自動化することにより、本来の農家の仕事である、より美味しいものを作ることに専念できるようになる。
ディープラーニングには学習のために訓練データが必要になるが、このキュウリの仕分けの場合は、7000枚のキュウリの画像データを用意している。選別する人の横でキュウリの撮影を2~3カ月続けたという。
ここで注目したいのは7000枚という画像データ数である。読者の中には、案外少ないデータセットだと思われた方もいらっしゃるかもしれない。通常訓練データというと、数万から数百万というオーダーのデータ量で実現している例が多いからだ。
もちろん2~3カ月という時間がかかっていることは事実ではあるが、一人で準備できるデータ量であることは確かだ。データ数が少ないため、過学習と呼ばれる訓練データセットに結果が偏ってしまう現象があることも言及されているが、試作機として次につながる成果ではないだろうか。
「ビッグデータがないとAIの導入が始められない」というのは嘘だ。キュウリの仕分け機の例は、スモールデータからAIの導入の検討ができ、身近なさまざまな問題についてまだまだAIが貢献できる部分が多く存在していることを示している。
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