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- 2019/02/01 掲載
“忖度しない”人工知能が虐待を見抜く、AIが判断すべきはこの領域だ
連載:中西 崇文のAI未来論
虐待可能性検証にAIを導入
児童虐待は現在、非常に大きな社会問題のうちの1つだ。児童虐待に関する問い合わせ件数が増えるに伴い、児童相談所などの現場での負荷が大きくなっている問題もある。そのような施設にAIを使ったシステムを導入するという動きがある。三重県と産業技術総合研究所は2019年度から、児童虐待を防ぐために、子どもの一時保護の必要があるかどうかを判断するAIを含む端末を初めて児童相談所などの現場に配備するようだ。
三重県では、一時保護の必要があるかどうかを現場で判断するための指標としてまとめた「リスクアセスメントシート」を2013年から導入している。
現場の職員がリスクアセスメントシートと同じ項目を入力すると、AIがその特徴を分析し、再虐待率などを割り出し一時保護が必要かを判断することができる。また、身体の傷もカメラで撮影することにより、データを蓄積し、将来的にはその傷が虐待によるものかを判断できるようになるようだ。
今回導入されるAIは、リスクアセスメントシートの運用データ5000件を使って構築されている。「5000件」という数字は、この種のデータとしては非常に多いものの、AIに適用するデータとしては少ないと感じられるかもしれない。しかし、世の中で解決しなければならない問題のほとんどが、このような大量なデータを取得できないようなケースである。
このような現場で生まれるスモールデータをどれだけうまくAIを使って活用できるかが重要なのだ。スモールデータの重要性は本連載でも言及した通りだ。
判断を属人化させないのがAIの強み
その答えとして、大きく二つが考えられる。
まず1つに、現場での経験や知識をなるべくデータ化し属人化させないことが挙げられる。リスクアセスメントシートという共通の判断指標を用いているものの、面談やさまざまな調査を加味していくと、どうしても現場のこれまでの経験や知識で判断することが多くなるだろう。
もちろん、それ自体は悪いことではない。現場での経験や知識を1つひとつのケースごとに適用していくだけでなく、それらをデータ化することにより、経験の少ない職員でも業務にあたることが可能になる。さらに、なかなか表面化しない児童虐待の実態をなるべく科学的に明らかにし、今後の対策を考えるためにも重要な手がかりになる。
この辺りは、ビジネスの現場でも同じことが言えるだろう。なんらかの判断をする際に属人的になっていることがある。現場の経験や知識を生かして判断すること自体は悪くないが、現場で携わっている人以外が判断できないのでは、組織としてリスクが大きくなってしまう。
現場の経験や知識をデータ化することによって、客観的に問題点を把握することができるだけでなく、そのデータをAIに適用することにより、現場で行ってきた判断を自動化することが可能になるのだ。
【次ページ】経験や知識をデータ化できるか?
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