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- 2018/05/18 掲載
TINYpulse(タイニーパルス)は、いかにして従業員の「やる気」を引き出すのか
フェイスブックら1000社が採用のHRテック企業
働き方改革で従業員の「やる気」は上がらないという事実
専門性の高いサービス業やソフトウェア産業の重要性が増した現代では、従業員のやる気が企業の競争力を左右する。主体的に意欲をもって仕事に挑戦し、新しいアイデアを持って問題を解決するのが仕事の本質だからだ。
モチベーションエンジニアリング研究所が慶應義塾大学ビジネス・スクール岩本研究室と共同で行った「エンゲージメントと企業業績」に関する研究では、エンゲージメントスコアが高い企業は、翌年の売り上げ/利益の伸びが大きくなり、エンゲージメントスコアが低いほど利益の伸長率の「バラつき」が大きく、高まるにつれて利益の伸長率の「バラつき」が小さくなる傾向が見られた。
そうした調査がある中で、社員のやる気を計る国際的な調査では、日本企業は極めて低い順位にとどまっている。また、ギャラップ社の調査では、「会社が好き」と回答したのは全体のわずか7%だった。
エンゲージメントが低い理由には複合的な要因が重なっているが、1つには「褒める文化」の欠落が指摘されている。伝統的な日本企業は失敗しない人が昇進すると揶揄される程、失敗に敏感である一方で、成功を評価する風潮が乏しい。英BBCのコラムでは「日本企業ではポジティブなフィードバックはほとんど見られない」と指摘された。 どんなに努力して成果を上げても評価されない環境では、やる気を出せと言う方が無理があるというものだ。
フィードバックに対する考え方には世代間のギャップがある。これから企業の中枢を担っていく1982年以降に生まれたミレニアル世代は、成長機会を重視し、キャリアアップのための転職もためらわない。普段からソーシャルメディアで互いの評価を気にしているのと同様、社内でも、上司や同僚とのコミュニケーションを重視する。 日常的に他者から評価されるのに慣れている若い世代は、仕事のフィードバックを頻繁に受けると、やりがいを感じ、エンゲージメントを高める傾向がある。
やる気の源泉となる要因を分析した理論に、「ハーズバーグの二要因理論」がある。米国の心理学者フレデリック・ハーズバーグは、職場にある満足・不満足の原因を調査した。その結果、給与や福利厚生・在宅勤務などの労働環境の不満足を生み出す要素を「衛生要因」、仕事における貢献・責任・達成感などの心理的な満足を生み出す要素を「動機付け要因」として特定し、それぞれ独立してエンゲージメントに関わることを示唆した。
昨今話題になっている働き方改革は、働きやすさ、主に「衛生要因」を改善する施策となっている。つまり、二要因理論に従えば、働き方改革は不満足の解消になっても、「動機付け要因」を改善し、満足度を向上させるには及ばない。働きがいを実感する社会を作るには、自己の貢献や成長が実感できる労働環境が求められている。
TINYpulseは社員間のフィードバックを促進して「やる気」を引き出す
米国シアトルで2012年に創業されたTINYpulseは、従業員のモラルを計測し、やる気を高めることを支援するプラットフォームを提供する。従業員同士がフィードバックを送りあい、優れた仕事を評価・承認する習慣を創り出す。データ分析技術を使い、企業文化を左右する従業員の士気を可視化するのだ。TINYpulseは、毎週、「パルス」と呼ばれる匿名アンケートを従業員に送信する。モバイル画面をスワイプするだけで回答できるような単純な質問を匿名で収集する。従業員は、アンケートに加え、同僚の評価や組織の改善案も送信できる。
アンケートは対人関係・成長機会・労働環境などに関する質問で構成される。たとえば、「上司の仕事ぶりはどうか?」「今の組織で成長する機会はあるか?」「企業文化を1~10で評価すると?」「求められる以上の仕事をした際に、正当な評価を受けたか?」「仕事にどれくらいの幸せを感じているか?」といった質問が従業員に送られる。
気になる回答をした社員には、匿名の状態のままメッセージを送り、フィードバックする機能もある。管理者は自動的に集計された回答率や平均値を示したダッシュボードを利用して、アンケートの統計結果を確認する。また、感情分析や機械学習といった高度な機能により、従業員満足度が急速に低下するなどの重要なトレンドを把握するのを助ける。さらに、従業員側にも統計結果が公開され、お互いにコメントを書き、議論する場を提供する。
【次ページ】全世界225億ドルに成長する市場でTINYpulseは競争に勝てるか
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