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2018年6月の住宅宿泊事業法(民泊新法)施行を5カ月後に控え、全国の地方自治体で民泊の営業日数を条例で上乗せ規制する動きが加速している。東京都大田区は住居専用地域での営業を全面禁止としたほか、京都市は住居専用地域で営業を認める期間を1、2月のみに限定する方向。民泊を健全に普及させ、観光立国を目指す政府と、規制を強化したい自治体の思惑に大きな開きが見える。和歌山大観光学部の廣岡裕一教授(観光学)は「自治体が地域の事情に応じて規制するのは良いが、厳しすぎると新法がスムーズに施行できない」とみている。
民泊新法で規制緩和、同時に上乗せ規制も可能に
新法は一般の住宅に宿泊客を有料で泊める際の営業基準を定めた法律で、家主は都道府県など自治体に届け出れば、年間180日を上限に営業できる。ホテルや旅館が原則として営業できない住居専用地域でも、開業が認められた。
家主には民泊住宅と分かる標識の掲示や宿泊者名簿の作成を求める。民泊施設を掲載するAirbnb(エアビーアンドビー)など仲介業者には、観光庁への登録を義務づけた。
日本を訪れる外国人観光客は年間2000万人を超すが、政府は東京五輪が開かれる2020年に4000万人まで増やす目標を掲げている。慢性化している宿泊施設不足を補い、外国人観光客の訪日増加に弾みをつけるのが目的だ。
国家戦略特区では、自治体の認定を受ければ宿泊業法の特例として民泊サービスが可能だが、認定を受けずに営業する違法民泊が後を絶たない。政府は宿泊業法より緩い規定で民泊を可能にし、違法民泊業者の届け出を促す狙いも新法に込めている。
だが、違法民泊による近隣住民とのトラブルは全国で増える一方。このため、新法では最大180日の営業日数について、自治体が地域の事情に応じて条例で上乗せ規制できるようにした。
大田区や兵庫県が住居専用地域での営業を全面禁止
営業日数の上乗せ規制を決めた自治体もある。東京都大田区と新宿区は2017年12月、区議会で条例案を可決した。住居専用地域での営業について大田区は全面的に禁止、新宿区は月曜日の正午から金曜日の正午まで禁じる内容だ。
大田区保健所は「特区民泊でも住居専用地域での営業を認めていない。これと歩調を合わせて規制した」、新宿区保健所は「区内は違法民泊が目立つ。住民生活への影響を考慮し、平日の営業を制限した、法の趣旨を逸脱しているとは思わない」と説明している。
違法民泊摘発の特別チームを編成するなど取り締まりに力を入れてきた京都市は、住居専用地域での営業を閑散期の1、2月に限定する方向で条例案を詰めている。
苦情対応などで管理者が10分以内で現場へ駆けつけられるよう半径800メートル以内での駐在を求めるほか、分譲マンションでは管理組合が民泊を禁止していないことを示す書類の提出を義務づける。京都市医務衛生課は「住民の間で違法民泊に対する強い不満がある。住民の声に十分、耳を傾けた結果だ」と述べた。
兵庫県と神戸市はともに住居専用地域での営業を全面的に認めない方針。兵庫県内にある宿泊施設の客室稼働率が2016年で57.5%と余裕があることもあり、民泊推進より住民への影響を重視している。
兵庫県生活衛生課は「住民に平日も休日も関係ない。行き過ぎた規制だとは思わない」。神戸市生活衛生課も「住居専用地域での営業を認めると、良好な生活環境が損なわれかねない」と主張した。
このほか、北海道は住居専用地域で土曜日、日曜日、祝祭日以外の営業を認めない方向で条例案を詰めている。長野県は市町村と協議のうえ、県の規則で営業を制限する区域を決める方針だ。これまで民泊営業を一切認めないとしてきた長野県軽井沢町環境課は「町の方針は変わらない。県との協議でも従来通りの主張をする」と力を込めた。
【次ページ】「観光立国推進」か「生活環境維持」か
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