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2013年に発表された「ハイパーループ(Hyperloop)構想」が、次第に現実味を帯びてきている。提唱するのは、電気自動車のテスラモーターズや宇宙開発のスペースXのCEOを務める起業家、イーロン・マスク氏だ。構想発表時には、多くの人がその実現を半信半疑のまなざしで見つめていたハイパーループだが現状はどうなっているのか。実現した際のビジネス展開の可能性、さらに実現までの課題に焦点を当てる。
世界10路線に展開する計画
「ハイパーループ構想」が生まれた背景には何があるのか。実は数年前よりカリフォルニア州では、サンフランシスコとロサンゼルスの間を結ぶ高速鉄道(カリフォルニア高速鉄道)が計画されている。しかしその建築費用は700億ドル(約7.7兆円)といわれ、第1フェーズだけで600億ドルを超える建設費用が見込まれるともいわれる。
そこで、この計画を実用的でないと考えたマスク氏が2013年8月に発表したのが「ハイパーループ構想」だ。
これによると、減圧された「チューブ」の中を「ポッド」と呼ばれるアルミ製の車両が、磁力で浮上しながら移動する。これにより、約640km離れたサンフランシスコ~ロサンゼルス間を約30分で結ばれ、建設費も60億ドル~100億ドル(約6600億円から約1.1兆円)に収まる見通し。これは、カリフォルニ高速鉄道計画のわずか10分1である。
ハイパーループの建設費が、これだけ安価に済むのは、既存の高速道路上に鉄塔を建て、そこに鉄製のチューブを建設するため、用地取得の費用がかからないためだ。また、チューブ内を浮上して移動するため、線路の敷設が不要であることも理由に挙げられる。
ハイパーループの車両開発や、路線の展開を行うのは、今のところアメリカのハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズ(HTT)と、同じくアメリカのハイパーループ・ワンで、それぞれが独自に開発を進めている。
HTTは2016年に、カリフォルニア州に長さ8kmのテストチューブを建設し、2018年を目処に旅客輸送テストを予定しているという。また、ハイパーループ・ワンは、実物大の車両を使ったテスト走行で時速約310kmをクリアした。
また世界にも路線を展開予定で、すでに世界中から公募した「グローバルチャレンジ」の路線候補地から、審査をクリアした10路線が公表されている。アメリカはもとより、イギリスやカナダ、メキシコ、インドと、世界中に建設計画が立ち上がり、さらに韓国もハイパーループ導入に名乗りを上げている。
プロジェクトは、当初より巨大資本が動かすような方式は採らず、クラウドファンディングやクラウドソーシングによって、資金や人を集め、ストックオプションと引き替えにアルバイトを募集したり、世界の学生がアイデアを競い合ったりしながら、ここまで進められてきた。
しかし、2017年10月に英国ヴァージングループのリチャード・ブランソン氏が、ハイパーループ・ワン社の経営に参加するとの発表があったことから、今後は開発が一気に加速するのではないかという見方も出ている。またブランソン氏が加わったことで、後述する今後のビジネス展開にも新たな展開が見えてきた。
リニアモーターカーと近い原理?
ポッドの定員は28名を想定しており、最高時速は約800マイル(時速1288km)ともいわれる。この速度は、F1カーの約4倍、JR東海のリニアモーターカーの約2.5倍、そして何と一般的な旅客機の約1.5倍という、音速の壁をも超える速度で走る次世代交通システムなのである。
ハイパーループは、空力設計されたアルミ製ポッドを磁石とファンを使ってチューブ内を駆動する。鉄製チューブの天井にはソーラーパネルとバッテリーパックが装備され、夜間や曇天時にもエネルギーを利用できるという。
SF小説の世界に出てきそうな話だが、技術的には必ずしも新しいものではない。磁力を用いて浮上、推進する仕組みは、JR東海が建設中のリニアモーターカーの超電導リニアと似ており、磁力が引きあったり反発しあったりする力を利用してポッドを浮上・推進させる「磁気浮上方式」が使われている。
しかし同じ磁気浮上方式でも、超電導リニアが極低温に冷却した超電導コイルを利用するのとは異なり、ハイパーループはポッドの浮上に「永久磁石」を利用することが計画されている。「インダクトラック方式」という永久磁石の配置により、通常より50倍も強力な磁力が得られ、この力でポッドを浮上させることが可能になるそうだ。
永久磁石を利用することで、ハイパーループのポッドは、浮上するための電力が必要なくなり、超電導リニアより省電力な運行ができることが期待される。ポッドやチューブに採用される浮上方式や推進方式は、今後もさまざまな案が検討され、既存の高速鉄道とは異なる、全く新しい高効率かつ低コストな手法が採用されることが期待されている。
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