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2017年には創業ビジネスのアルバイト求人サイト「ジョブセンス」を全面リニューアルし、サイト名を「マッハバイト」に変更するリブランドに着手した。「最年少上場」から5年以上が経ち、これからを「組織の10年」と位置づける同社 代表取締役社長の村上 太一氏に、人材情報ビジネスにおける新たな価値づくりの取り組みを聞いた。
起業から徹底してやってきたのは「事業を磨き続けること」
──19歳で起業し、史上最年少の上場を果たした村上さんですが、起業から現在について振り返っていただけますか。
村上氏:リブセンスを設立したのが19歳、大学1年生のときでした。思い返すと、小学校高学年ころから、将来社長になりたいとの思いがあったように思います。漠然と「人は何のために生きているか」という問いに、「幸せに向かって生きている」のではないか、という答えを抱いていました。
これは社名の由来にもなっていますが、「リブセンス(LIVESENSE)」は「生きる意味」の意。では、幸せとは何かを考えたときに思い至ったのが、「誰かに喜んでもらう、誰かを幸せにすることが幸せ」だということです。そこから「幸せから生まれる幸せ」という考えに行き着きました。
そして、事業を通じて、世の中にインパクトを与えるこれまでにないサービスを作ることで、市場の本質的な課題を解決し、私たち自身も幸せを感じたいと思い起業に至りました。
──中でも、人材ビジネスに着目した理由は?
村上氏:大きかったのは、自分自身、高校生のときにアルバイト探しの際に感じた不便を解消したいと考えたことです。高校生のころからビジネスモデルをいろいろ考えていましたが、自分自身の課題に基づくビジネスであれば、ユーザー視点でサービスを考えられると思いました。
また、「アルバイト」というのは働くことの入口です。転職もそうですが、働く先で自分の人生が変わります。その意味で、人材領域はビジネスの与えるインパクトが大きいとの思いもありました。
──当時、学生ベンチャーはたくさん生まれていましたが、そのほとんどが消えてなくなりました。他の学生ベンチャーとの違いはどこにあったと思いますか?
村上氏:やりきる、やり続けるというのは、他の会社に比べてあった方だと思います。リブセンスのロゴは、「疑問符のマーク」と「しずくのマーク」があしらわれています。疑問符は、「既存の常識を疑う」こと、そして、しずくは「雨垂れ石を穿つ」ように事業を磨き続けることです。考えたアイデアを徹底的に磨くことで、新たな当たり前を生み出したいと取り組んできました。
情報の流通コストが下がり、付加価値がさらに重要な時代へ
──追い風が吹いていると言われる人材業界ですが、昨今の動きについてどう見ていますか。
村上氏:市況としては、しばらく人手不足は続くと思っています。人材情報ビジネスの歴史は、有料の紙メディアから始まって、それがフリーペーパーになり、インターネット化しました。つまり、歴史的に「情報を届けること」が価値になっていたのが、インターネットにより情報の流通コストが下がり、コモディティ化することで、検索エンジンなどのプラットフォームが優位に立っています。したがって、「情報の流通」から、より付加価値をつけていく時代に移りつつあると思います。
──付加価値とは、具体的には?
村上氏:一言でいえばデータです。応募に対する採用率のデータや、この職場はどういう人が採用されているかというデータ、口コミデータなど、独自のデータを活用した新たな情報の伝え方、新たな機能が差別化要因になっていくと考えます。
私たちは、ユーザーの求人検索から、採用決定までのすべてのプロセスを行動ログとして蓄積しています。ユーザーの行動を把握するだけでなく、そのデータを活用し事業へ反映させることにより、ユーザーの満足度が向上するはずです。
「どのサイトでも表示される情報は同じ」という求人サイトではなく、圧倒的なユーザー体験で優位性を築きたいです。
──情報の流通はプラットフォームが握り、今後は付加価値、付加機能が勝負になると。
村上氏:創業当時は、最大手のサイトでも、求人情報の登録件数は5000件くらいでした。今は、当社のサイトでも20万件ほどの求人情報が登録されています。
「口コミデータがあります」「独自機能によって早く仕事が決まります」「採用が決まったらお祝い金がもらえます」というような価値が差別化要因になっていきます。具体的には、社内にデータの解析基盤を構築し、アルゴリズムによりデータを分析して、得られた知見を新たな機能、ビジネスとして展開していくことです。
「マッハバイト」へのリブランド、不利に働かないのか?
──「ジョブセンス」をリニューアルし、「マッハバイト」へとリブランドしたのも、こうした背景を意識されてのことでしょうか。
村上氏:「すぐ」をサービスコンセプトに「マッハバイト」に名称を変更し、ロゴやサイトデザインを全面リニューアルしました。また、オペレーションの改善により、採用のお祝い金である「マッハボーナス」を最短で翌日に支給することを実現しました。
当社は「成功報酬型(採用課金型)」モデルで、求職者の採用が決まってから、初めて広告主からお金をいただくモデルです。採用率の高さが、他の「掲載課金型」モデルに比べた優位性です。独自データとしては、たとえば、応募に対する開封のレスポンス時間や、求職者の採用が決まった際のマッハボーナスの申請時間をログとして取得することで、応募から採用が決まるまでの時間が分かります。
採用された人がどんな特性をお持ちか、この企業はどれくらいのスピードで採用が決まっているかといったデータや、求人情報一覧ページのクリック率などを分析し、掲載した情報がどの程度、応募につながるか、データを収集・分析することで、サイトの掲載順序を最適化するなど、独自データをサイト上に反映させていきたいです。
──しかしなぜ、リニューアルにとどまらず、サービス名称の変更にまで踏み込んだのでしょう?
村上氏:名称変更は、付加価値型のビジネスへの転換という決意の表れでもあります。
スピード感を表す言葉として、「マッハ」は聞いたあとに脳裏に残る感じがよいと思いました。個人的には「ザラザラ感」と呼んでいますが、なんとなく記憶に残る、引っかかる感じです(笑)。
──人材業界では、TVCMを筆頭に、マスマーケティングなどで繰り返しブランド名を連呼して認知を図る「サービス名連呼型」が主流のように思います。ユーザーに想起してもらう面では、ブランドのネーミング変更は不利に働くのではないでしょうか?
村上氏:役員会でも、賛否はありました。もちろん、リスクに関する定量的な調査、分析は行いましたが、最後は、あるべき変化は受け入れるものだと決断しました。
最初は不利だと思います。しかし、「早く仕事が決まる」「早くお金がもらえる」というユーザーメリットの高いサービスであることを、一定のPR、プロモーションで訴えていくことで、中長期で「選ばれるサイト」に成長させていきたいです。
──「データ活用」という意味で、機能面でのロードマップについてお聞かせください。
村上氏:現在は、ページ単位での最適化にとどまっています。たとえば、渋谷駅近辺でアルバイトを探したときに、掲載順やページのパーツの表示、非表示などを最適化しています。将来的には、ユーザーの行動履歴から、趣味、嗜好に応じたページ表示の最適化が可能になるでしょう。
──改めて競合他社との差別化要因はどこにあると思いますか?
村上氏:最も大きな差別化要因は、成功報酬型というビジネスモデルです。これは、従来の大手競合が参入しづらいモデルでもあります。というのも、紙ベースでビジネスを広げてきた大手は、掲載課金ベースのモデルで営業網や代理店網を構築してきたからです。
成功報酬型にすると、営業コストは下げる方向にシフトせざるを得ないため、既存の事業アセットがある大手は、いきなりビジネスモデルを変えるのが難しいのです。
また、成功報酬型のモデルは、マネタイズにつながる送客のバランスをとる“ノウハウ”が必要です。弊社には10年以上かけて蓄積してきた最適化に関するノウハウがあり、これが新規の参入障壁になっています。
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