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「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれ、ユーザーはInstagramやTwitter、Facebookなど、写真や動画を使って気軽に投稿する時代だ。最近では「拡散力」に着目し、インフルエンサーやマイクロインフルエンサーなどと呼ばれる“影響力のあるユーザー”をマーケティングに活用しようと考える企業が登場している。しかし、マイクロインフルエンサーを起用する手法は、従来のマーケティングと異なる点も多い。そこで、マイクロインフルエンサー・マーケティングを成功に導くポイントについて、THECOO(ザクー) 代表取締役 平良 真人氏に話を聞いた。
解説:THECOO 代表取締役 平良 真人 聞き手・構成:編集部 中島 正頼、執筆:井上 猛雄
マイクロインフルエンサーとは?
まず「マイクロインフルエンサー」とは、どのような人を指すのか? それを理解するには「インフルエンサー」というキーワードを知る必要がある。
インフルエンサー(Influencer)とは、他人に影響を及ぼす人をさす。SNSなどにおいて多数、たとえば「100万人以上」といった規模で多くのファン(フォロワーや登録者)を抱える人のことで、投稿がSNSで周囲に拡散し、多くのユーザーにリーチできる影響力を持つキーパーソンだ。
そして、マイクロインフルエンサーは、抱えているファンがインフルエンサーよりも少ないが、ある特有のコミュニティ内において、強い拡散能力を有する人のことだ。ただし、メインで利用しているSNSの種類や発信しているジャンルによってファンの付き方も変わってくるため、具体的な数字で「何人までがマイクロインフルエンサー」と定義することは難しい。強いていうなら、YouTubeでは「10万人以下」、Instagramでは「1万人以下」のファンを抱える人がマイクロインフルエンサーというイメージだ。
現在インフルエンサーと呼ばれる人が、数年前にSNSを始めた頃は、まだ彼らもマイクロインフルエンサーの1人であったことは間違いない。しかし、今では幅広いファンが彼らを支持し、その情報をフォローアップしている。いったんロールモデルが完成すると、誰でも好きなことを発信してみたいという気運が高まり、多くの人々が多様なジャンルで発信を始め、スターを頂点としたピラミッド構造が作り出される。
このピラミッド構造の全体的なパイが大きくなり、情報発信のジャンルも多岐にわたってくると、エンターテインメント、英会話、料理、メイクなど、さらに各人の趣味・嗜好にマッチしたニッチな分野まで細分化され、個人が欲しい情報が充実してくる。この流れは、ポジティブフィードバックの「エコシステム」として定着していくだろう。
ファンの多い人を起用すればエンゲージメントは高くなるのか?
マイクロインフルエンサーを活用したマーケティングは、この数年間で市場規模も拡大し、クライアントにとって宣伝効果が高いことが認識されはじめた。
サイバーエージェントの子会社であるCA Young Laboの調査によると、YouTubeに動画を投稿して広告収入を得る国内YouTuberの市場規模は219億円(2017年)で、前年比2.2倍に急増。このうち動画再生数に応じて得られるレベニューシェアによるYouTube広告収入が6割ほど、広告主とのタイアップ動画の制作によるタイアップ広告収入が3割ほどを占める。
後者のタイアップ動画の市場規模は、インフルエンサー、あるいはマイクロインフルエンサー・マーケティングの領域で、約63億円規模となっている。またInstagramの市場規模は2016年に国内で2.7億円ほどといわれ、市場ニーズを受けて、今後もインフルエンサー・マーケティングの需要は高まっていくと予想される。
ただし、従来のようなスター的なインフルエンサーを起用すれば、エンゲージメントが高くなるかといえば、実は必ずしもそうではない。
マーケティング効果は「登録者数」でなく「視聴時間」で測るべき
2015年からインフルエンサー事業を手掛けるTHECOO(ザクー)の平良 真人氏は「たとえば10万人の登録者を抱えるYouTuberと100万人の登録者を抱えるYouTuberでは、一人あたりのウオッチタイムは登録者数に反比例します。つまり、本来の効果を見るには、登録者数よりも視聴時間の方が重要ですが、インフルエンサーの“値付け”はまだフォロワー数や再生回数×何円で決まることが多い」と説明する。
仮に100万人の登録者数をもつインフルエンサーの料金が、10万人の登録者数をもつマイクロインフルエンサーの10倍であると仮定すると、マイクロインフルエンサーを10人ほど採用したほうがウオッチタイムの総計は長くなり、より効果も見込めることになる。同社は、こうした傾向を裏付ける興味深い調査も公開している。
この調査では、「チャンネル登録者数100万人以上のスターYouTuber」「同10万人以上100万人未満のミドルYouTuber」「同1万人以上10万人未満のマイクロYouTuber」を比較。チャンネル登録者1人あたりのコメント率と高評価率の平均を見ると、スターYouTuberの平均コメント率は0.11%、高評価率は0.43%なのに対し、マイクロYouTuberでは0.26%、0.77%と約2倍となっている。
「マイクロインフルエンサーは、フォロワー数がインフルエンサーより少なくても、1人ひとりに与える影響力は大きいのです。そこで我々は、クライアント側の予算感とバランス感を見ながら、より高い効果が出そうな場合には、マイクロインフルエンサーを活用することをお勧めしています」(平良氏)
マイクロインフルエンサーの事例 ファッションやコスメ業界はいち早く起用
このように、細分化された特有のコミュニティでは、マイクロインフルエンサーを適材適所に利用するほうが高い宣伝効果が得られるケースがある。たとえばファッション系やコスメ系では、Valentino(ヴァレンティノ)、DOLCE & GABBANA(ドルチェ&ガッバーナ)、CHANEL(シャネル)などが、マイクロインフルエンサーの力をうまく活用し、自社ブランドのキャンペーンに成功している。
●ヴァレンティノの事例
ヴァレンティノは、東京のミレニアル世代の男女を起用し、クールな世界観を表現して話題となったが、マイクロインフルエンサーを登用することで、彼らを熱狂的に支持するコアなファンが情報を拡散し、さらに周りの人々がブランドに興味を持つというように、人が人を呼ぶ流れをうまく作ることに成功した。
●日本ロレアルの事例
雑誌広告の半分の費用で同じ効果を出せた事例もある。大手化粧品メーカーの日本ロレアルは、新製品発表会に一般女性など200人のマイクロインフルエンサーを招き、Instagramにかわいい写真を投稿してもらった。その結果、1週間後、彼女らが投稿した292枚の写真に対し、フォロワー427万人のうち約13万人から「いいね」がついたという。同社では、これまで特定の新製品が数日間でこれだけ反響があったことはなかった。
この例では、マイクロインフルエンサー1人に換算すると、ほぼ1.5枚の写真投稿で、フォロワー2万人のうち約650人が、いいねを押した計算だ。約3%の人から共感を得ていることになり、かなりの情報伝達力がうかがわれる。従来のようにテレビや雑誌などマスコミに広告を打つことだけでなく、一個人の影響力をうまく束ねることで、十分な効果が得られることが実証されたのだ。
●アディダスの事例
スポーツ分野では、アディダスが、サッカー用スパイクシューズの新モデル「GLITCH(グリッチ)」のプロモーションに公式アプリをリリースし、アプリ上だけで購入をできるようにした。 アプリを利用するには、他のユーザーから招待を受ける必要がある。そのためマイクロインフルエンサーがコミュニティ内で、アプリへ招待し合う動きが生まれた(GLITCHは2017年12月現在、招待制ではなくなっている)。
●THECOOの事例
またTHECOOも、昨年暮れに共感型フォトジェニック・アート展「VINYL MUSEUM」(ビニール・ミュージアム)を共催し、マイクロインフルエンサーの力を、あらためて実感したそうだ。このアート展では、これまで見たことがない不思議でフォトジェニックなブースがつくられた。来場者は、そこにある展示作品を自由に撮影して、Instagramなどで投稿できる仕掛けだ。
「集客はマイクロインフルエンサーのみで行いました。1週間での集客状況をみると完全な右肩上がり。日を追うごとに来場者が増え、最終日のクリスマスには会場が満杯でした。人が人を呼ぶサイクルを実感し、来場者の70%がターゲット層としていたF1層だったため、O2Oの観点からも成功しました」(平良氏)
【次ページ】どうやって自社に適したマイクロインフルエンサーを探す?
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