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  • 2017/12/13 掲載

日本はAI後進国か? コージェントラボが「世界のAI人材」を獲得できる理由

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人工知能(AI)への注目が日に日に高まる中、日本発のAIスタートアップも数多く設立されているが、その多くがコアメンバーとなる「AIの分かるエンジニア」確保に大きな課題を抱えている。しかし世界10か国以上から、修士号・博士号を持つ優秀なエンジニア/リサーチャーを集めるAIスタートアップがある。2017年2月、13億円の資金調達で話題を集めたCogent Labs(コージェントラボ)だ。同社で働くAIアーキテクトのデイビッド・マルキン氏とフルスタックエンジニアのフレデリック・ナクスター氏に、母国ではなく日本のスタートアップを選んだ理由や、グローバル人材を引きつけるコージェントラボの環境、そして日本のAI市場の可能性について伺った。
(聞き手/構成:編集部中島正頼、執筆:阿部欽一)

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日本のAIスタートアップの魅力は? 日本のAI市場に未来はある?


社員30名の8割が外国人、10か国以上からAI専門家が集結

 コージェントラボは、「最先端の人工知能を活用して人々の生活の質を高める」ことをめざして設立された日本発のAIスタートアップだ。世界10か国以上からリサーチャーやエンジニアを採用し、11月現在、約30名のメンバーのうちおよそ8割が海外出身者だ。

 代表的なサービスが、2017年8月にリリースされた手書きの文字を高精度に認識できる「Tegaki」だ。同様のサービスはいくつかあるが、自動認識による読み取りが難しく、最終的に人力での入力が必要になることが多い手書き文字も、認識率99.22%(同社の研究環境)という高い精度でデータ化できる。この精度を支えているのが、データを処理・学習する独自開発のAI技術だ。

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ディープラーニングを活用し、読み取り精度が継続的に向上する「Tegaki」

 コージェントラボでAIアーキテクトを務めるデイビッド・マルキン氏は、同社の強みの一つにこうしたAI開発を可能にする「テクノロジーへのディープな理解」を挙げる。

「最先端のAI技術を活用して、実ビジネスに役立つアプリケーションやプロダクトをスピーディに市場に提供することができます」(マルキン氏)

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コージェントラボ AIアーキテクト
デイビッド・マルキン氏

最先端のAI技術を、なぜ手書き認識に詰め込んだのか

 最先端のAI技術を、なぜ「手書き認識」というある意味ニッチな分野に適応したのだろうか。その理由について、「AI技術が『認識』に関する技術から発展してきたためです」とマルキン氏は説明する。

 音声や画像、テキストなどの非構造化データの認識、データ化の領域ではAIの強みが発揮されやすい。舞台として日本・日本語を選んだ理由として「依然として手書き文化が強い日本市場には、大きなビジネスチャンスがあると考えた」という。

「他の言語と比較しても読み取りにくいといわれる日本語の認識で、自社のテクノロジーの能力(ケーパビリティ)を証明し、今後は多言語展開、さらには『認識』の次のフェーズとして『理解』『推論』に進んでいきたいと考えています。特に、日本語の『意味の理解』が実現できれば特許や法務、コンプライアンスといったビジネス領域で課題を解決するサービスが展開できるでしょう」(マルキン氏)

 コージェントラボの特色は、自社で研究開発を行い、そのままワンストップでプロダクト・サービスまでを提供している点だ。加えて同社が開発するプロダクトやサービスは、最終的に「個々の要素技術が融合し、高次なプロセスに対応できるよう」設計されているという。

「弊社の提供する一見するとバラバラなサービスやテクノロジーが、裏側では融合し、より複雑で高度なタスクやプロセスに対応できるようになればと考えています。そもそもAIはさまざまな要素技術を組み合わせ、織りなすように開発・サービス化していくものですので、コージェントラボのこの戦略は非常にマッチしているといえます」(マルキン氏)

 2017年11月15日、コージェントラボは形式の異なる文書をAIが一括管理する文書検索システム「Kaidoku」を新たにリリースした。非構造化データを読み取り、大量かつ多様な文書から、目的に沿った資料を高速で抽出できるサービスだ。「Tegaki」との併用で、手書き文書のデータ利用まで一貫して行える。まさにマルキン氏が述べたような「個々の要素技術が融合し、高次なプロセスに対応できる」プロダクトとなっている。

世界で通用する人材が日本のAIスタートアップを選んだ理由

 では、マルキン氏を始めとする外国人リサーチャー・エンジニアは、なぜ母国ではなく、日本のAIスタートアップを選んだのか? その理由として、コージェントラボのフルスタックエンジニア フレデリック・ナクスター氏はコージェントラボが国際的な環境であることを挙げる。

 ナクスター氏はノルウェー出身。ノルウェーやアメリカでの勤務経験があり、自身の専門性を高めるため、早稲田大学で修士号を修了、日本で結婚した。「最先端のテクノロジーで」「ワクワクするプロジェクトに携わる」という2つのポイントを軸に、東京でフリーランスのエンジニアを1年ほど続けながら、仕事を探していた。

「情報収集を兼ね、さまざまなミートアップイベントに参加する中で、コージェントラボのメンバーと知り合い、最先端の技術の話をする機会がありました。そこで、コージェントラボが人を探していることがわかって、面白そうだなとジョインしました」(ナクスター氏)

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コージェントラボ フルスタックエンジニア
フレデリック・ナクスター氏

 日本以外の国で働いた経験のあるメンバーも多く、国際的な働き方、環境が用意されていたことがコージェントラボ入社の決め手の一つとなったという。ナクスター氏はAIという最先端の成長領域とインターナショナルな環境に魅力を感じ、コージェントラボを選んだのだ。

 実際にコージェントラボで仕事をするようになって、これまでのキャリアと比較して良いと感じる点を、ナクスター氏は3つのポイントに総括した。

(1)年功序列ではなく、いい仕事をすればパフォーマンスを正当に評価してもらえる。
(2)フラットな組織。代表と話すときもおうかがいを立てる必要はなく、カジュアルにディスカッションでき、意思決定したらすぐに進めることができる。
(3)自由度の高さ。労働時間の長さではなく、受け渡された仕事をいかに高い生産性で実行するかが問われる。

 の3点だ。

 コージェントラボでは仕事のやり方は裁量に任され、また、たくさん働いた分、まとまって休みが取れるなど、モチベーションを維持して働ける環境が整備されている点にナクスター氏は魅力を感じているという。

機械学習の博士号取得者は、ワクワクした高揚感を会社のビジョンに感じた

 一方、AIアーキテクトのマルキン氏は「AIで人々の生活の質を上げる未来を作る」という会社のビジョンに共感し、日本のAIスタートアップを選んだ。イギリス出身のマルキン氏はUCL(University College London)で機械学習の博士号を取得し、AIのコンサルティング会社を経営していた。コージェントラボ設立時から在籍するメンバーで、来日してから約2年半が経過する。

「弊社代表のエリック・ホワイトウェイと飯沼 純の2名と話し、日本でAIの会社を作るというプランを聞きました。有望な日本市場と世界各国から来るメンバーの才能を融合することで、ユニークな会社を作り、社会的価値を世の中に創出していけるのではと考えました」(マルキン氏)

 日本市場の将来性について、マルキン氏は「労働人口減、労働生産性向上の課題もあり、IT技術、AI活用の機会は確実に高まる」と述べた。さらにその中で「イギリスをはじめとする諸外国で、AIに関する最新の研究成果を出した優秀な人材が日本でその知見を活用すれば、大きな価値を作り出せると考えた」と説明する。

 さらに、マルキン氏は「コージェントラボは会社というよりも、一つの共同体という感覚を持っている」と述べる。

「信じるミッションに向かってメンバーが進んでいく。そんなワクワクした高揚感を感じられます。コージェントラボでの仕事は、『仕事』というより自らのミッション、使命のように感じています」(マルキン氏)

 アマゾンのジェフ・ベゾス氏が、「毎日がインターネット時代の初日」という気持ちで不断に新しい課題に取り組むのと同じように、「今日はまだ、AI時代の最初の1時間しか過ぎていないという気持ちを持っている」と語った。

【次ページ】 二人の技術者は、日本のAI市場をどう見ているか? サンフランシスコやロンドンとの比較
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