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政府は経済財政運営の基本方針「骨太の方針 2017」に東京23区内での大学の新増設を抑制する方針を盛り込んだ。若者人口の東京一極集中を是正するのが目的で、今後法規制の検討に入り、定員割れで経営悪化が続く地方大学の振興にも着手する方針。しかし、18歳人口が減少に転じる「大学の2018年問題」を前に、首都圏の大学は生き残りをかけて都心回帰と駆け込み定員増を続けてきた。地方に魅力的な職場も生まれていない。日本私立大学協会の小出秀文常務理事が「単に23区から大学を締め出すだけでは十分な効果を上げられそうもない」と指摘するなど、効果に懐疑的な見方が出ている。
東京23区内の大学新増設はストップ
東京23区内の大学新増設抑制は政府の有識者会議(座長・坂根正弘コマツ相談役)で検討してきた。23区内で大学の定員増を認めないとする内容で、新たな学部や学科を設ける際は、既存の学部、学科を廃止するなどして定員を増やさないよう求める。スクラップ・アンド・ビルドを徹底し、23区内の学生総数を抑えようとしているわけだ。
同時に地方大学の振興策として産官学の連携を推進し、地方行政や産業における地方大学の位置づけを強化するとともに、地方大学が産官と進める地方創生に値する計画を国と地方が支援する。このほか、地方大学と首都圏の大学、研究開発法人などとの連携も進めるとしている。
若者が地方から東京へ流入するのは、大学進学か就職時が大半。特に東京の大学に進学すると、そのまま都内で就職するケースが多い。大学進学時点で若者の東京流入を一定に抑え、地方にとどまる若者を増やすのが狙いだ。
23区内の大学の定員削減や社会のニーズに応える学部や学科の見直しについては、交付金などの配分を見直して優遇する。新増設抑制に当たっては東京の国際都市化や日本の高等教育の将来展望に対し、十分な配慮をすることも検討する。
政府は臨時閣議で骨太の方針のほか、今後の政策展開の方向性を示した「未来投資戦略」、「規制改革実施計画」、「まち・ひと・しごと創生基本方針」を決定した。菅義偉官房長官は閣議後の記者会見で「地方創生に資する大学改革と東京一極集中の是正に取り組む」と述べた。
東京一極集中の加速傾向に変化なし
抑制策の検討は2016年11月、全国知事会の要請を受けたのがきっかけ。知事会会長の山田啓二京都府知事らが安倍晋三首相に23区内の大学新増設抑制を要請していた。背景にあるのは深刻さを増す若者の東京一極集中だ。
総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県を合わせた首都圏は2016年、11万7,868人の転入超過になった。転入者総数は前年の11万9,357人に比べて1,489人少なく、5年ぶりに超過数が減っている。
だが、転入超過自体は21年連続。2011年の転入者総数6万2,809人に比べると、5万5,000人以上増えており、一極集中の加速傾向に変化は見られない。
15~24歳の若者に限れば、2016年の転入者数は9万6,547人。前年の9万3,001人を3,500人以上上回った。総務省国勢統計課は「大学進学時と就職時の転入増加が影響した」とみている。
文部科学省の学校基本統計調査によると、2016年度で全国に777校ある大学のうち、28.7%に当たる223校が首都圏に集中している。大学院生を含めた学生数は全国287万3,624人に対し、首都圏が117万1,386人。全体の40.8%を占めた。このうち、23区内の学部学生数は45万5,880人で、2008年に40万人を突破して以来、急増を続けている。
各都道府県の大学進学者数に対し、地元でどれだけの大学入学定員が用意されているかを示す都道府県別大学進学者収容率は2015年度、東京都と京都府がほぼ200%に達した。地方は大半が100%を下回り、和歌山県や長野県、三重県は40%に満たない。
その結果、日本私立学校振興・共済事業団の調べで2016年度、私立大学全体の44.5%が入学定員割れとなった。多くが地方大学で、経営環境の悪化は深刻さを増すばかりだ。
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