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- 2016/10/20 掲載
メガネスーパー「当たり前」のオムニチャネル戦略はなぜ成功したのか
低価格競争に巻き込まれたメガネスーパーの苦難
2000年以降、Zoffを運営するインターメスティックやJINSを運営するジェイ・アイ・エヌといった低価格帯メガネを製造・販売する企業が台頭し、メガネ業界は低価格競争が起こった。この競争に巻き込まれたメガネスーパーは2008年、営業利益と当期利益が赤字に転落。2011年から2013年までは3期連続で超過債務に陥り、2012年からは投資ファンドであるアドバンテッジパートナーズの支援のもと、現在経営再建中である。しかし、同社は2016年4月期決算では9年ぶりの黒字転換を達成。超過債務も解消され、2015年7月に入っていた東証の上場廃止に係る猶予期間も解除された。同社が復活を遂げた理由はどこにあるのか。
他社と同じことをやっても意味はない――。同社は2014年、目の健康寿命をサポートする企業を目指すため「アイケアカンパニー宣言」を発表した。この宣言には4つのテーマがある。1つは普遍的なニーズとしての近視対策。2つめがPCやスマホによる目の負担の軽減。3つ目が老眼対策。4つめが疾病です。同社は医療行為はできないが検査の結果、気づいたことがあれば、提携している眼科医に紹介する等の対応を行っている。
例えば、他社と比較した時の差別化のポイントの一つに、リアル店舗での検査が充実していることが挙げられる。他店で行う検査は通常15~20分程度で、無料のものが多いが、同社は40~60分かけ、他社が実施しない項目まで有料で行う。また、廉価なレンズ付きフレームは扱っていない。こうしたサポートを手厚くする施策などが奏功し、メガネに関する顧客一人当たりの単価が上昇。再生を開始した2012年には約2万円だった単価は、現在は3万5000円にまで上昇している。
メガネスーパーのオムニチャネル構築プロセス
同社の復活を支えた取り組みの一つに挙げられるのが、オムニチャネルの構築である。メガネスーパーのオムニチャネル推進の中心として活躍したのは、再生がスタートして約1年後に入社した店舗営業本部 デジタル・コマースグループ ジェネラルマネージャー 川添隆 氏だ。前職のアパレル系ECの責任者としての経験・手腕を買われてのことだった。川添氏は、オムニチャネルについて、次のように語る。「オムニチャネルは、一種のトレンドワードのようになり、企業はしきりと『やらなければ』と言っていますが、顧客にとってはそれが『当たり前』です。そこで、まずはEC事業に徹底的に注力しました。自社ECが充実すれば、必ずそこがオムニチャネルのプラットフォームになると考えたからです。さまざまな施策を実施した結果、当初、330店舗のうち50~60番目くらいだったECの売上は、現在は2番にまで急成長しました」(川添氏)
「例えば、ECサイトでご注文いただいた商品の店頭受取を可能にしたり、ECサイトに掲載しているメガネの在庫がある店舗を紹介したり、あるいはフレームはネットで購入し、レンズは店舗で入れられるようにしたりと、さまざまな取り組みを行いました」(川添氏)
同社のオムニチャネル化は、すべてがスムーズに行われたわけではなかった。特に店舗側の意識改革が重要だったと、管理本部 情報管理グループ シニアマネージャー 山口泰司 氏は次のように語る。
「店舗側には、廉価なコンタクトレンズを販売する自社ECに自分たちの売上を奪われるという意識がありました。このため、会社全体として、あまりECを推奨してこなかったという実態がありました。しかし、3年前に就任した星﨑社長が、自分達の売上よりも会社全体の売上を考えることを店舗側に徹底的に伝えた結果、徐々に意識が変わってきました。これは、オムニチャネルを推進するうえで、非常に重要なポイントでした」(山口氏)
マーケティング以上に、目的ありきのアクションが重要
さまざまな取り組みにより、売上が急進したECサイトだが、その結果、新しい課題が浮上した。メガネスーパーでは、もともと実店舗300店のPOSデータとECのデータは別々に管理していたが、ECの売上が伸びるにつれて、それが問題になってきたのである。「3年前は、ECの売上もそれほどでもありませんでした。また、売れる商品もコンタクトレンズが中心で、メガネが圧倒的に多い店舗とはデータがかぶらなかったので、データが別々でも困らなかったのです。ところが、ECの売上が伸び、実店舗でもコンタクトレンズの売上が伸びるにつれて、データがぶつかる可能性が出てきました。実際に、ECで購入された顧客のデータを店舗で確認できないため、対応に苦慮するケースが増えてきたのです」(山口氏)
そこで同社では、ECの顧客情報・購入履歴を、店舗側システムに夜間バッチで転送し、店舗側の顧客データに統合する仕組みを構築した。データ形式が異なっていたため、EC側で店舗側に合わせてデータを加工するなどの苦労もあったが、この仕組みにより、店舗側でECの顧客情報・購入履歴を照会できるようになり、スムーズかつ適切な商品案内が可能になった。
EC側を担当した川添氏は、同社のオムニチャネルの取り組みと、今回の顧客データ統合の関係を次のように述べる。
「オムニチャネルの推進をマーケティング的な側面というよりも、顧客の利便性や店頭スタッフのオペレーション向上を狙ったことが我々の特徴だと思います。今回の顧客データベースの統合も、ECと店舗で顧客データが別々であることで具体的な問題が発生し、それを解決するために実施しました。統合マーケティングを目的に、ネットとリアルの顧客データを統合するケースもありますが、それだと投資が大きくなりますし、統合したデータを目の前にして『何をやるの?』ということにもなりかねません。我々としては、常に何をやりたいかが先にあるべきだと考えています」(川添氏)
【次ページ】顧客にとって「オムニチャネル」は当たり前
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