- 2013/10/24 掲載
ITコスト削減の先進事例に学ぶ - 「コスト削減チェックリスト」
1. 開発・更新方法の見直し
2. IT投資マネジメントの強化
3. IT調達方法の改革
4. システムの標準化と統廃合
5. 安心・安全の水準見直し
6. 遊休資産のグループ内活用
7. アウトソーシングの再検討
8. システム子会社の運営方法見直し
9. 情報システム部門のコストマインド醸成
1. 開発、更新方法の見直し
たとえばERPの導入において、カスタマイズを最小化する方針をトップと握り、カスタマイズ要求がある場合、その定量的な費用対効果や、カスタマイズしないで業務変更で対応する方法などのオプションを必ず提示するルールを作り、それらを厳格にレビューする体制を整え、本方針を維持すれば、カスタマイズを削減できます。あるいは、ERPの教育を、ユーザー部門に徹底的に行い、ユーザーにはERPをそのまま使うための業務改革方法を考えさせれば、フィットギャップが不要になります。
もちろんこれらをユーザー部門と合意するには、事前に準備が必要です。昨今のERP導入の目的は、グローバルな業務プロセスとシステムの統合による、(M&Aなどによる)経営構造変化への迅速な対応など、全体最適なものが多いと思います。このような目的をしっかりと共有した上で、先行事例を調べ、カスタマイズに統制をかけなかった場合の失敗、うまく統制をかけた場合の成功事例を経営者やユーザートップに示し、プロジェクト着手前に大方針を握り、これを維持する仕組みをプロジェクト内に作ることが欠かせません。また、ERP機能を熟知して、ユーザー要件にカスタマイズ無しで対応する提案ができる人材を、(最初は外部に求め、そしてその後内部で)育成することも必要です。
ERP以外でも、たとえば複数の組織で別々に存在する同様な機能のシステムを統合する場合、どちらかのシステムに片寄せする方針や、それが難しい機能に全体最適の視点で判断するルールと場を準備しておけば、不必要な現状調査や組織間の調整を削減することができます。保守切れ対応やリプラットフォームなどで、コストパフォーマンス向上だけで投資が回収できる場合、特に必要がなければ、ユーザー要件は聞かず、システム部門がオーナーとなる体制で、リバースをかけて既存機能を踏襲する方法があります。
このように、多様に存在する方法を、先行事例から把握し、自社にベストな方法を決め、関係者と事前に握ると共に、プロジェクトの内部に方針を維持する仕組み作っておくことで、大きなコスト削減が期待できます。
2. IT投資マネジメントの強化
ITコストを削減したければ、新規投資や保守を止めればいいのですが、それでは、企業の競争力が低下していきます。業務改革のチャンスを逃すことになります。つまり、ITコスト削減は、自社として投入できるキャッシュの上限を定め、これを用いて生み出せる価値(リターン)を最大化することだと捉えることができます。そのためには、新規開発や保守で、企画時に、効果と実現性を厳しくレビューし、投資をまかなって余りあるリターンが得られることを確認することが必要です。また投資後評価を励行して、効果の乏しいシステムは損金を切って廃棄し、ずるずると維持されることを防ぐことが必要です。
ただし、実効性のあるレビューを行うには、幾つか重要なポイントがあります。一つは、IT予算をシステム部門で握ることです。そうでないと、効果の得られない投資に対して拒否権発動が難しくなります。また、レビューを2回に分け、「すぐに着手しないと間に合わない」ということが理由で、十分に練られていないプロジェクトが着手されることを防がなければなりません。
その上で、ユーザー部門が、どれだけITに投資し、コストをかけ、どのような効果を得ているかを見える化することで、ユーザー部門に投資効果をより真剣に考えさせ、無駄な投資を減らすことができます。さらに、トップダウンにIT投資総額の上限値を明確化し、この予算を、ポートフォリオマネジメント等を用いて、妥当に配分する仕組みを作り上げることで、ITコストを抑えながら効果を最大化することができます。
現在システム部門でIT予算を握っていない企業の場合は、これを事業部から持ってくることは難易度が高いかもしれません。しかし、実現できればコスト削減効果は大きいはずです。ITコスト削減への経営者のアテンションが高い現在は、システム部門として、経営者にITコスト削減をコミットし、その条件として予算をシステム部門で握ることを提案する絶好の機会であると捉えられます。
3. IT調達方法の改革
IT調達方法には、企業によってはまだまだ改革の余地が残っています。たとえば集中購買1つとっても、グローバルグループ全体へと範囲を広げる。同一メーカーの製品にも関わらず、購入時期や担当組織が異なるために異なった契約になっている保守を一括化し、入札で競わせた上で統合するなどの余地です。
価格相場の調査も徹底的に行えば、技術やスキル単位で相場情報を把握でき、妥当な価格の明確化、交渉力強化が達成できます。調達の専門スキル、ノウハウが不足している場合は、コンサルタントを使ってVMO(ベンダー・マネジメント・オフィス)を設立したり、自社調達部門にIT調達を移管するなどして、スキル、ノウハウを獲得することもできます。企業によっては、既存ベンダーのみならず然るべきベンダーを客観的にリストし、競争に参加させるなどの、調達としての当たり前のことができていないこともあります。
また、グローバル化の中で、集中購買して量をまとめるのみならず、契約内容を調査し、より有利な契約に変える余地も残されています。世界中に存在する、同一ベンダーの異なる契約条件を、有利な方へ統一する。ベンダーの日本法人ができないという条件が、同ベンダーの海外での契約で実施されていることを突きとめ適用する。ベンダーの日本法人と本国間がドル建て決済の場合に(相場次第で)保守契約を結び直すだけで保守コストを低減する、といったことが可能です。
4. システムの標準化と統廃合
事業部門間、あるいは関係会社も含めて、類似するシステムを標準化、統合する。また、活用する技術を標準化する方法です。昨今は、グローバルなインフラ統合、ERPと業務プロセスのグローバルな統合を進めている企業も多いでしょう。標準化と統廃合の範囲が広くなればなるほど、推進は難しくなります。また、アプリケーションの場合、基幹系に比較して情報系の標準化・統合は、数も多く、コストインパクトも基幹系に比較して小さいことが多く、未着手の企業も多いと思われます。
基幹系の場合、今後のM&Aなどの経営構造、組織構造の変化に迅速に対応することを経営トップに訴求し、目指す姿を握った後に、トップダウンで推進する方法があります。標準業務プロセスとシステムの開発では、グローバルグループから、機能ごとに有能な人材を集めて考えさせることで、「彼らが考えたのならば仕方がない」という合意を得ることができます。情報系に関しては、関連するIT人材を1つの組織、一か所に集めることで標準化・統廃合を進める。または、物理的に一か所には集めないが、機能ごとにバーチャル組織を作り、統廃合のKPIを明確化し、統廃合達成を人事評価と結びつけるなどの仕組みで実現する方法があります。
また、標準化、統合以降の維持も重要です。アプリケーションの場合、標準から逸脱する必要がある時に、これを厳格にレビューする制度や、機能ごとに標準を守る責任者(プロセスオーナー)を設置するなどの施策が必要になります。インフラや技術を統合した場合は、プロジェクトごとに決められた技術を使っているかレビューする仕組み、定期的に将来のアーキテクチャーのビジョンとシナリオを構築・改定する仕組みが必要です。
【次ページ】アウトソーシングの再検討、システム子会社の運営方法見直し…
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