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  • 2013/05/10 掲載

東京海上ホールディングス 中原新氏:リスクベース経営の実現に向けたシステム構築

Enterprise Risk Management(ERM)導入事例

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東京海上グループでは2008年から、資本とリスクのバランスを適切にコントロールすることで収益を向上させる「リスクベース経営」に取り組んでいる。このリスクベース経営をもう少し詳しく説明すると、“リスク”を基軸に意思決定を行うというプロセスをあらゆる局面に組み込むことで、財務の健全性を維持しつつ収益性を向上し、企業価値の拡大を図る経営手法、ということになる。同グループのこうした取り組みを支えているのが、保険負債の時価評価を行うためのデータベースだ。その構築の狙いと実際の取り組みについて、東京海上ホールディングス リスク管理部 次長の中原新氏が語った。

ERMへの取り組みによってリスクベース経営を目指す

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東京海上ホールディングス
リスク管理部
次長
中原 新 氏
 「Analytics 2013 - SAS FORUM JAPAN」(SAS Institute Japan主催)で登壇した中原氏は冒頭、ERM(Enterprise Risk Management)について言及した。直訳すれば企業リスク管理となるが、現段階で統一された訳語はなく、一般的な定義としては、単にリスクを軽減するための取り組みだけに留まらず、リスクを定性/定量の両面から把握し、得られたリスク情報を有効に活用して、会社全体のリスク/利益/資本を適切にコントロールしながら意思決定を行うことで、企業価値の最大化を目指す経営管理手法ということになる。

「ここでいうリスクとは、“将来の不確実性”のことだ。具体的には、事業活動を行った際に期待される収益と、為替変動や市場環境の変化といった不確実な事象によって発生した損失との差を、定量的に表わしたものだといえる。」

 保険会社にとってのリスクは大きく2つある。1つめがコアリスクで、これは利益の源泉となるリスクのことだ。リスクと利益のバランス、さらにはリスクが顕在化した時に会社が倒産しないように負債および資本とのバランスを睨みながら、適切にリスクをコントロールしていくことが求められる領域である。

「コアリスクは、そのリスクを積極的に取ることで、利益の獲得を狙えるもの。いわば保険会社にとっての本業の部分で、このリスクを回避していたのでは我々のビジネスそのものが成立しない。」

 そしてもう1つが付随リスクで、こちらはコアリスクを取ることに付随して発生するリスクのことだ。言い換えれば、事業活動に伴って生じるリスクであり、事務処理上のミスやシステムトラブル、あるいは事故や災害、犯罪などが相当する。

「付随リスクは適切にコントロールして、極力生じさせないことを目指すべきもの。」

 このコアリスクと付随リスクに対するリスク管理がまさに保険会社にとってのERMであり、同グループの目指したリスクベース経営そのものである。

IFRSやソルベンシー規制も、リスクベースの考え方に移行しつつある

 同社のこうした取り組みと歩調を合わせるかのように、現在ではIFRS(国際財務報告基準)や、保険会社が抱えるリスクに対する資本の比率を一定水準以上に保つための監督上の規制であるソルベンシー規制においても、リスクベースの考え方が徐々に導入されつつあるという。

 まずIFRSでは、バランスシート上の資産/負債を時価で評価することを重要視し、資産と負債の時価増減を損益として把握することを要求している。

 またソルベンシー規制では保険会社のグローバル化を背景に、国際的なソルベンシー規制の導入に関する検討が進んでおり、既に欧州では時価ベースによるソルベンシー規制への移行準備が始まっている。この新しいソルベンシー規制では、IFRSの考え方に基づいて作成したバランスシート上の時価ベース資本とリスク量とを比較することで、保険会社の健全性を判断することになる。

「私たち自身がリスクベース経営に取り組むために、またIFRSや新しいソルベンシー規制に対応するために、保険負債の時価評価が必要になる。」

 こうした流れを背景に、同グループではリスクベース経営を経営課題の中核に据えた取り組みを開始、保険負債時価評価プロジェクトを立ち上げて、リスクベース経営を支えるデータベースシステムの構築に着手した。

「保険会社の社会的な使命は、お客さまが事故や地震などの被害に遭われた時、しっかりとした保証を提供するという役割を、将来にわたって果たし続けていくこと。そのためにはリスクを分散し、うまく管理して、何百年に一回といった甚大な災害が発生した時にも対応できるよう平時は適切な利益を確保し、資本を厚くして健全性を高めておくことが重要だ。それによってお客さまのリスクに対して、より一層の安心感をご提供することができるようになる。」

【次ページ】最大の課題はシステム設計におけるデータ品質の確保
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