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コロナ禍を受けて大幅にシフト(業務量)が減少した「実質的失業者」は、国が発表する「完全失業率」には現れない。今、数字には見えないところで多くの人々が生活苦にあえいでいる。しかし、そんな人々の頼みの綱である国の支援制度には問題点がある、と専門家は指摘する。いま必要な支援とはどんなものなのか。実際に収入が激減した当事者と専門家に、それぞれ話を聞いた。
推計90万の、女性の「実質的失業者」
女性の完全失業率2.4%、先月より0.3ポイント改善。総務省統計局が発表した2020年11月分の「労働力調査」での数字だ。この数字に違和感を持った方は多いのではないだろうか。筆者もその一人だ。「女性の失業者がこんなに少ないはずがない」。この数字を見たときに、率直にそう感じた。女性の完全失業率2.4%という数字は、現場で取材する筆者の実感とかけ離れたものに映った。
一方で、女性の自殺者は2020年、前年比で14.5%増加したという警察庁のデータがある。男性の自殺者が前年比1.0%減っているのとは対照的だ。自殺者と失業者には強い相関関係があると言われている。日本において、もともと自殺者数は男性の方が女性より2倍ほど多い。そのため、単純比較はできない。しかし、14.5%の増加と1.0%の減少は無視できる差ではない。
2つのデータを突き合わせると、総務省の「完全失業者」にカウントされない、集計からこぼれ落ちてしまった潜在的な女性の失業者が増えている可能性を推察できる。
これを裏付けるのが、野村総研が1月19日に発表した、パート・アルバイト女性を対象とした調査だ。調査は、2020年12月18日から12月21日に、全国の20歳から59歳の女性で、パート・アルバイト就業者5万5,889人を対象に行われた。
この調査によると、新型コロナウイルスの影響で大幅にシフトが減少した「実質的失業者」のパート・アルバイト女性は、全国で推計90万人にも上る。シフト減のパート・アルバイト女性のうちの2人に1人が、「金銭的理由で、この先生きていくのが難しいと感じる」と回答。また、4人に1人が「世帯収入が半減した」と回答している。完全失業率と合わせた女性の実質的な失業率は、5%台前半にまで跳ね上がる。
総務省の完全失業者の定義に、「仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった」というものがある。この定義では、パート・アルバイト女性の収入が8割減少しようが9割減少しようが、完全失業者とはカウントされない。菅義偉首相が、1月7日の記者会見で、「我が国の失業率は主要国で最も低い水準」と話したように、集計から外れる「実質的失業者」は、「いないもの」とされてしまうのだ。
今後、新型コロナウイルスの収束が遅れれば遅れるほど、こうした「実質的失業者」が増えていくことは目に見えている。早急な支援が必要だが、今どのような支援が求められているのだろうか。
「もっと困っている人がいる」と言われ門前払い
「緊急小口資金を受けやすくしてほしい」と話すのは、都内在住の30代独身女性だ。コロナ以前は週5日から6日ほどシフトに入り、月収は20数万円だったという。コロナ以降は、飲食店の時短要請の影響や客数の減少もあり、週に2日ほど働ければいい方だという。
「月収は20数万円ありましたが、毎月3万円ほど奨学金を返済しなければならなく、なかなか貯金ができませんでした。とうとう年末に貯金もつきかけて、緊急小口資金を受けようと区役所に相談に行きました」
緊急小口資金とは、生活の維持が困難になった場合に生活費を無利子で借りられる制度だ。もともとは、10万円が上限だったが、新型コロナウイルスの特例制度として上限が20万円に引き上げられている。
「待合用の椅子だけでは足りなく、立って待っている人もいました。1時間ほど待って相談できたのですが、うっかり“貯金があと6万円ある”と言ってしまったんですよね。そうしたら職員の方から、“もっと困っている方がいます”と言われて、申し込みできませんでした」
その6万円は、来月分の家賃として取っておいたものだった。後からそう説明しても聞いてはもらえなかった。
【次ページ】生活保護に頼れない理由、専門家が指摘する現行制度の課題とは
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