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近年、日本社会が急速に貧しくなっていることは多くの人が実感しているだろう。経済学的には日本の生産性が低いことがすべての元凶なのだが、生産性というのは抽象的な概念なので、今ひとつピントこないという人も多いはずだ。本稿ではもう少し具体的に社会の豊かさや高齢化の問題について考えてみたい。
「欧州の問題児」でもなぜ豊かに見えるのか
社会の豊かさをもっとも的確に示す指標は1人あたりのGDP(国内総生産)である。1人あたりのGDPでは本当の豊かさは測れないとの意見もあるが、それは単なる思い込みである。
現時点では、1人あたりのGDPほど的確に社会の豊かさを数値化できる指標はない。
海外に行った時、たいていの人が、空港から出た瞬間にその国がどの程度、豊かなのかすぐに実感できるはずだ。
人間の五感というのはたいしたもので、建物や道路といったインフラや走っている車、人々の服装などを総合して、あっという間にその地域の経済水準を推測できる。実際に試してみるとよいが、私たちの直感と1人あたりのGDPの数字はおおよそ一致しているはずだ。
日本の1人あたりGDPはかつて世界2位になったこともあり、以前の日本社会はかなり豊かであった。だが日本は年々順位を落としており、今となっては先進7カ国で下から2番目となっている。
先進7カ国で唯一、日本と同レベルなのがイタリアなのだが、どういうわけかイタリアは日本から見るとかなり豊かに見える。1人あたりのGDPが日本の1.6倍もあり、大卒の初任給が50万円を超えることも珍しくない米国や、社会保障が充実しているドイツやフランスが豊かなのは当然としても、数字が良くないイタリアはなぜ日本よりも状態がよく見えるのだろうか。
もちろんイタリアにも失業や貧困などさまざまな問題があり、欧州の中では問題児とされているが、日本よりも深刻であるとは思えない。実際、イタリアの相対的貧困率は13.7%と日本よりも低い。
イタリアが、数字上は日本よりも貧しいのに豊かに見えるのは、社会全体として効率良く稼ぎ出す仕組みが出来上がっているからである。
イタリアの人口に対する就業者の割合は、38.3%
イタリアの1人あたりGDPは約3万1500ドルと日本よりも若干低い。だが1人あたりのGDPというのはGDPを総人口で割った数字なので、稼ぎを得るために働いている人の数は関係ない。
項目 |
単位 |
日本 |
イタリア |
人口 |
千人 |
127,484 |
59,360 |
就業者数 |
千人 |
64,650 |
22,758 |
GDP |
10億ドル |
4,927 |
1,870 |
1人あたりのGDP |
ドル |
38,648 |
31,503 |
年間平均労働時間 |
時間 |
1,713 |
1,730 |
人口に対する就業者数の比率 |
% |
50.7 |
38.3 |
生産性(注1) |
ドル |
83,000 |
103,000 |
注1:生産性は購買力平価ベース |
(出典:総務省、日本生産性本部、ユーロスタット、IMFなどから筆者作成) |
日本は1億2700万人の人口に対して、仕事をしている人は6400万人を超えている。総人口に対する就業者の割合は50%を超えており、この数字は先進国としてはかなり高い。子どもや高齢者、病気を抱えている人は労働していないという現実を考えると、日本の場合、働ける人はほぼすべて働きに出た状況といってよい(専業主婦というのはもはや幻想に過ぎないことが分かる)。
だがイタリアの場合、5900万人の人口に対して働いている人はわずか2300万人であり、就業者の割合は40%以下となっている。要するにイタリアでは、5人に2人以下しか働いていないのだ。このわずかな労働者の数で、日本に近い富を稼ぎ出しているので、仕事をしている人の生産性は極めて高い。
日本生産性本部がとりまとめた1人あたりの労働生産性は、日本が8万3000ドルなのに対してイタリアは10万3000ドルだった(どちらも購買力平価ベース)。少ない人数で効率よく働き、残りの人は仕事をしないで生活するというのがイタリア流だ。
【次ページ】豊かに見えるカギは、就業率の低さと〇〇が握る?
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