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ARといえば、ゲームなどエンターテインメントが思い浮かび、5Gといえば携帯電話や自動運転が思い浮かぶ。しかし、実はこれらのテクノロジーが消防を変えようとしている。視界が悪く、危険な消防の現場を変えるため、AR(拡張現実)ゴーグルを搭載したヘルメット「C-Thru」を開発したのが米「Qwake Tech」だ。このヘルメットはAIとの連携でより精度の高い情報を目指しており、将来的には5Gを使ってさらに正確なナビゲーションを提供しようとしている。消防とテクノロジーは、これからどうなる?
火災現場でも建物内を見通せるヘルメット「C-Thru」
火災の被害は年々減少傾向にあるものの、失われた人命や資産は相当なものである。総務省の消防白書によると、2017年の出火件数は3万9373件、死者数は1456人であり、その損害額は893億円におよぶ。排気管や電線、ストーブが主要な出火原因とされ、建物火災が全体の9割を占めている。
火災時の救助活動は1分1秒を争う。要請を受けてから約8分で消防車が到着するが、消防士が建物内を探索し、逃げ遅れた人を救出するまで、さらに13分を要するとされる。
消防士がいかに徹底した訓練をしていようとも、火災現場で迅速な救出活動を行うのに、十分過ぎるということはない。2017年の調査では、演習・訓練時を含め、公務により死亡した消防職団員は18人、負傷したのは2314人に上る。 火災の被害者および消防士自身を守るため、より優れた装備が求められている。
そこで、最新のAR(拡張現実)技術を使って消防士を支えようとするのが、Qwake Techが開発したC-Thruだ。 消防士は赤外線カメラやセンサーを搭載した特製のヘルメットを装着する。煙でまったく見通せない火災現場でも、ARゴーグルに投影された建物内の様子から、救出するべき人の位置や燃えている場所が把握できる。
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暗闇の建物の中でも、壊れた床や落ちた物体を避けて行動できるのがC-Thruのメリットだ。リアルタイムに表示されるナビのような役割を果たすため、C-Thruを装着した場合、通常より5倍速く行動できるケースもあったとされる。
C-Thruは最前線の消防士だけではなく、建物外にいる司令官にとっても有用だ。ヘルメットに搭載されたカメラの映像をリアルタイムに確認し、その状況を把握できるからだ。
「5G×AR」には実ビジネスとしての期待も
すでに実証が始まっているC-Thruだが、今後、本格的な普及が見込まれる5G(第5世代移動通信システム)によって、本当の実力が発揮されると考えられている。次世代のモバイル通信方式である5Gは、4Gに比べて100倍~200倍の高速通信が実現できるとされる。膨大なデータをリアルタイムにやり取りできるため、これまで考えられなかったアプリケーションの登場が期待されている。
C-Thruでは、消防士が火災現場内で道に迷っても、位置追跡の仕組みを使ってリアルタイムに退路を示すことができる。4G通信に比べて大容量データを安定的にやり取りできる5Gを使えば、はるかに正確なナビゲーションが可能になる。C-Thruのヘルメットがセンサーの役割を果たし、刻々と変わる周囲の状況を分析し、消防士が正しい行動をとれるように誘導する。
C-Thruは、5Gを実ビジネスに活用するシナリオとしても大いに期待されている。米通信大手ベライゾンは、消防・救急・警察の初期対応を支援する5Gアプリケーションを研究する「5G First Responder Lab」を設立した。同ラボが選抜したベンチャー企業の1つが、C-Thruを開発したQwake Techであった。
C-Thruと同様にARゴーグルを活用した製品は、スイスのDarixでも開発されている。2017年に大学のスピンオフとして設立された同社は、その技術力が評価され、2019年にはBullardに買収されている。
【次ページ】火災・救急・保安の分野でドローンの可能性を広げる5G
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