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コロナ禍によるデジタルシフトの加速などで、PCやタブレットなどの機器、データセンター向けの需要が急増したのに加えて、経済の急回復により需要が急増した自動車メーカーが必要としたことで、空前の活況を呈している半導体産業。とりわけ、韓国のサムソン電子から首位を奪還したインテルを筆頭に、米国勢が勢いづいている。しかし、深まる米中対立がIT産業に暗い影を落とすなど、半導体産業の先行きも予断を許さない状況だ。そうした中、半導体市場の囲い込みを狙う米国の政治的思惑、経済安全保障から国策として自国生産を促す日本政府らの意向もあり、日本の半導体メーカーには、追い風が吹いている状況だ。(2021年9月8日更新)
半導体は強い米国の象徴
トランプ前米国大統領は、「強い米国」の復活を旗印としたが、経済界でそれを体現している領域の一つが、米国の半導体産業であろう。
象徴とも言えるのが米国のインテル。半導体売上高では長年、トップを独走してきたが2017年、韓国のサムスン電子にいったんその座を明け渡した。しかし、インテルは、サムスンから再び半導体売上高首位を奪還している。
半導体市場動向調査会社である米IC Insightsが発表した、2020年の「半導体サプライヤ売上高ランキングトップ15」によれば、米国勢は8社がランクイン、過半数を占めて、圧倒的な強さを見せている。
このランキングは、各社の第1~3四半期(1~9月期)の実績と第4四半期のガイドライン(自社による業績予測)などをもとに年間売上高を予測したもので、半導体メーカーだけでなく、半導体の製造設備を待たない「ファブレス」や他社から半導体の生産を受託する「ファウンドリ」も含んでいる。
世界の半導体産業は分業化が進んでいる。半導体の研究・開発には多額のコストがかかるため、半導体メーカーは投資対効果を高めようと、経営資源を特定領域に集中させるようになったのだ。
その結果、さまざまなデバイス(部品)を手がける総合型メーカーは鳴りを潜め、特定領域に強い専門型メーカーが業績を伸ばしている。つまり、有力メーカーが群雄割拠する産業構造に変わっているのだ。
大まかに色分けすれば、米国勢を中心とした先進国の半導体メーカーは依然、先端技術で世界をリードしているが、韓国勢などの新興国の半導体メーカーは、低価格を武器に汎用品でシェアを握るようになった。“質”の先進国、“量”の新興国に勢力が二分しているともいえよう。市場規模の大きいメモリ(記憶装置)が得意なサムスン電子は、新興国の成長の象徴でもあるわけだ。
水平・垂直に進む半導体の分業化
今日のITの発達は、半導体の進化に支えられてきた。半導体の原型は1947年に米国のベル研究所で開発された「トランジスタ」だ。トランジスタは急速に小型・軽量化され、「IC」(集積回路)、さらには「LSI」(大規模集積回路)が開発された。
それに伴って、巨大だったコンピューターもどんどん小さくなり、80年代にはPCが一般に広まり、今ではスマートフォンやタブレット端末が普及している。
また、超小型の「マイクロコントローラ」(マイコン)をさまざまな機械に組み込み、自動制御など機械を高性能化することも可能になった。
ロボットや航空機をはじめ、家電、自動車、医療機器など、今やあらゆる機械に半導体が活用されている。半導体は、まさに現代社会に欠かせない「産業の米」となったのである。
半導体にはさまざまな種類があり、目的・用途に応じて組み合わせて使う。
たとえば、メモリとしてポピュラーな「DRAM」、データの書き換えが可能で電源を切ってもデータを残せる「フラッシュメモリ」、デジタル信号の処理に特化した「DSP」、コンピューターの頭脳に当たる「CPU」(中央処理装置)などがある。照明などに使われる「LED」(発光ダイオード)も半導体の一種だ。
半導体業界では、各メーカーが得意領域のデバイスを生産する「水平分業」と同時に、生産工程を分担する「垂直分業」も広まっている。それも、経営の選択と集中の一環なのだ。
もともとPCメーカーなどは、ほかの半導体メーカーからもデバイスを購入して、製品を組み立てるケースが多かったのだが(PCに貼ってあった「Intel Inside」のシールを思い出してもらいたい)、最近ではファブレス、ファウンドリも事業を拡大している。研究・開発のみを行うIPプロバイダもある。
半導体メーカーの世界ランキングトップ10
半導体売上高によるグローバルランキングを見ると、日米欧の先進国勢、韓国や台湾などのアジア勢に占められているのが分かる(中国勢が入っていないことに注目)。
世界第1位の米国のインテルは、日本でも「インテル、入ってる」のCMでおなじみ。1968年にシリコンバレーのベンチャーとして誕生した。1971年に世界初のマイクロプロセッサを開発したことでも知られる。80年代以降、総合型半導体メーカーからの脱皮を図り、PCの普及に合わせて小型CPU(MPU)に注力。現在、CPUではおよそ80%の世界シェアを占めるといわれる。だが、CPUへの過度の依存から脱却するため、2015年には、FPGA(回路の書き換えが可能な半導体)に強い米国アルテラをM&Aで手に入れた。
第2位となったサムスン電子は、1969年に設立されたサムスングループの中核。世界に通用する数少ない韓国企業の1つで、「韓国経済はサムスン電子でもつ」とさえいわれているそうだ。
同社は大手半導体メーカーでは珍しくなった総合電機・電子機器メーカーでもある。半導体事業の柱はDRAMなどのメモリだが、DRAMは成熟市場であり、価格競争も激化している。そのため、新しい事業の柱の育成を急いでおり、NAND型フラッシュメモリ、LEDを使った液晶ディスプレイ、さまざまな半導体のセット「システムLSI」などに力を入れている。
第3位となったのは、半導体のファウンドリ専業にして、最大手である台湾の
TSMC(台湾積体電路製造)だ。アップルをはじめ、世界各国の有力半導体サプライヤから生産を受託しており、まさに“世界の半導体工場”といわれる。
1987年に創業した新興勢力だが、世界で初めて7ナノメートル幅回路の半導体の量産化に成功、5ナノメートル幅回路の半導体の安定生産を実現するといった高い生産技術を背景に、急成長した。
第4位は韓国のSKハイニックス。1983年に創業したが、2001年に経営破綻。韓国政府主導による経営再建の結果、韓国の大手通信会社であるSKテレコムの傘下に入った。
メモリを主力とし、DRAMではサムスン電子に次いで世界第2位。しかし、日本企業に対する“産業スパイ事件”といった問題も引き起こしている。東芝からフラッシュメモリの機密情報を不正入手したことが発覚、2014年に東芝に2億7,800万米ドル(約300億円)を支払うことで和解し“盗用”を事実上、認めたわけだが、最終的には4位にまで上り詰めている。
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