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このところ、半導体ビジネスを取り巻く環境が激変している。1990年代にインターネットが普及して以降、ハードウェア産業は古い業態であるとすら言われた。しかしAI(人工知能)の技術が発達したことで状況が大きく変わった。AIのサービスをスムーズに提供するためには、高速処理に対応した半導体の存在が不可欠になっているからである。この先、IT業界は再びハードウェアの時代を迎えることになるのかもしれない。
ソフトバンク10兆円ファンドの投資先が象徴すること
ソフトバンクがサウジアラビア政府と組んで立ち上げた、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(いわゆる10兆円ファンド)の最初の投資先となるのは半導体企業ということになりそうだ。同ファンドは、一定の条件下で、これまでソフトバンク本体が取得した企業の株式を移管できるルールになっている。
ソフトバンクが保有する有望企業の中で、最初に移管されることになるのが、英半導体企業のARMと米エヌビディア(NVIDIA)といわれる。ARMについては82億ドル(9,000億円)、エヌビディアについては詳細は不明だが、ソフトバンクがすでに4,000億円分を保有していると報道されていることなどから、その大半がファンドに移管される可能性が高い。
10兆円ファンドの最初の投資先がこの2社になることは、これからの時代を考える上で非常に象徴的といえる。ARMはよく知られているように、スマホ向けCPU(中央演算処理装置)の設計で圧倒的なシェアを持つ企業である。近い将来、あらゆる機器類がインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)市場が拡大し、これに伴って製造業の世界が激変すると予想されている。同社は、こうした機器類に搭載されるチップ設計の多くを手がける可能性が高く、IoT業界では中核的な存在になると考えられている。
一方、エヌビディアはAI(人工知能)向け半導体の設計で有名な企業である。もともと同社は、画像処理チップの設計を得意としていた企業であり、同社製品の高いグラフィクス処理能力は、高性能パソコンユーザーの間では広く知られていた。
だがパソコン・ブームが下火となり、同社はビジネス・モデルを転換。画像処理向け半導体の設計能力をAI向けに転用することで、新しい活路を見い出した。
AIにおける中核技術は深層学習(ディープラーニング)と呼ばれるものだが、AIの学習には膨大な計算量が必要となる。画像処理用の半導体は、並列処理に重点が置かれており、ディープラーニングの処理にうってつけとされる。エヌビディアはAIの普及によって一躍、時代の寵児となった。
つまりソフトバンクは、前代未聞の巨大ファンドの投資先として、IoT分野における中核企業と、AI分野における中核企業の2社を選んだことになる。
インテルもパソコンからAIにシフト
エヌビディアにとって最大のライバルは、半導体最大手インテルということになるだろう。インテルもパソコン時代を象徴する企業であり、AI時代を見据えて事業モデルを転換しつつあるという意味では、エヌビディアと似たような状況にある。
今さら説明するまでもないがインテルはパソコン向けCPUではダントツのナンバーワン企業であり、今でもそのポジションは変わっていない。
しかし、スマホ時代の到来を予見できず、スマホ向けCPUではARMやクアルコムに後れを取った一方、社会のスマホ・シフトによってサーバのクラウド化が一気に進展し、同社のサーバ向けCPUの業績は絶好超となっている。
そんなインテルが新事業として全社をあげて取り組んでいるのが、車の自動運転である。自動運転車を実現するためには、自動車に高度なAIを搭載する必要があり、当然のことながら、その処理を担う半導体が必須となる。
インテルは運転支援システムを開発するイスラエルのベンチャー企業モービルアイを153億ドルで買収している。インテルは独BMWと組んで自動運転車の開発を行っているが、モービルアイの技術を加えることでさらに完成度を高めることができる。
自動車は2~3万点の部品で構成される緻密な工業製品でもあり、多くの部品は今後IoT化されていくことになる。自動車産業は、まさにAIとIoTの主戦場のひとつとなる可能性が高い。この分野の覇権をどの半導体企業が握るのかによって、今後の業界秩序も変わってくるだろう。
ちなみにエヌビディアは、トヨタや独ダイムラー、米フォードなど多くの自動車メーカーと提携関係を結んでいる。一方、インテルは今のところBMWとの関係が密接だが、5月16日には自動車部品大手のデルファイ・オートモーティブがこの陣営に参画することが明らかとなった。デルファイはもともとGM(ゼネラル・モーターズ)から分離した企業であり、場合によってはGMもインテル、BMW連合に加わる可能性が出てきたかもしれない。
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