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- 2017/01/24 掲載
トヨタが、AIによる自動運転を「2つのモード」に分ける理由
「運転代行モード」と「守護モード」
クルマが単なる消費財になってきている
しかし、トヨタは今、クルマが単なる消費財になってきていることに危機感を感じているという。そこで「クルマが愛のつく製品であり続けるため」に、次の3つに取り組んでいる。
1つ目は、「クルマをもっと欲しい、もっと乗ってみたい」という思いを持ってもらうための取り組み。それを実現する技術が「TNGA(Toyota New Global Architecture)」だ。
TNGAではパワートレイン、プラットフォームを全面的に刷新し、立体的に新開発することで、クルマの基本性能や基本機能を飛躍的に向上させ、「クルマが本来持つ楽しさやワクワクドキドキを素直に感じさせるクルマづくりを目指した」(伊勢専務)。
2つ目が、「クルマを持つ楽しさ、走る楽しさ、クルマについて語り合う楽しさ」を深める取り組みだ。この代表例が「TOYOTA GAZOO Racing」である。レースへの参戦だけでなく、より幅広い人が参加できる参加型イベントを通じて、クルマ文化を広める取り組みを進めている。
トヨタは人とクルマの協調のためにAIを活用する
そして3つ目が、「人とクルマの新しい関係づくりを目指す」ための取り組み。それを支えるのが、トヨタの考える自動運転だ。「自動運転というとドライバーがハンドルから手を放し、人を目的まで勝手に運んでくれる、そんな世界をイメージする人も多いのではないか。こういう無人運転も必要だと考えているが、しかしそれはトヨタの考える自動運転とは異なる」
トヨタの考える自動運転に対する考え方を端的に表すのが、2015年に発表した「Mobility Teammate Concept」だ。
その自動運転を支える技術は、トヨタでは3つの知能化に分けて考えられている。1つ目は「運転」知能化。これは自分の位置を正確に把握し、安全な経路を探すための技術だ。2つ目は「つながる」知能化である。刻々と変化する道路情報など、交通に関する大容量のデータをクルマと通信でやり取りする技術だ。この2つは自動運転の基盤技術であり、日米欧でも国家レベルでも研究が進められている。
そして最後が「人とクルマの協調」のための知能化である。
「ドライバーとクルマがお互いの状況を理解し、助け合い、成長するための技術。AIは人とクルマの関係を把握しながらドライバーに適応していく役割を担う」
トヨタの自動運転では、ドライバーが運転したいときとしたくないときで、2つのモードを選択できる。運転したくないときは「運転代行モード」となり、運転したいときは「守護モード」となる。
守護モードはドライバー運転支援のためのモードで、クルマの支援を受けながら、ドライバー自らがハンドルを握って運転することで、操る喜びを感じることができるものだ。
「運転代行モードは自動運転技術だけで実現できるが、守護モードでは人とクルマの協調技術が必要になる」
人間研究の視点から見た「クルマを操る喜び」とは
人とクルマの協調技術を支えるのが、トヨタの「人間研究」だ。「トヨタは従来より、人中心のものづくりが大切とし、人を理解する人間研究に力を入れてきた」という。人間研究の視点から見たときの「クルマを操る喜び」とは何か。運転のやり方を理解すると、人は刻々と変化する交通環境や車の動きに合わせて、自身の体を動かし、ハンドルやアクセル、ブレーキペダルを操作するようになる。慣れてくると、車が体の一部のように感じられ、やがて無意識に車が操作できるようになる。トヨタではこれを「身体性の拡張」と呼んでいるという。
これは人の脳内に体や車などが反映された内部モデルと呼ばれるものが形成され、人と車が1つになったシステムとして認識されるためと考えられている。いろいろな道を走るということは、いろいろな環境に応じた内部モデルを獲得することであり、それが俗に言う「道と対話する」という意味となる。
次に、運転を使いこなすうちに、道具を使いこなすという段階に入る。モデルの予測精度が上がり、車の挙動を予測したり、そのために必要な操作をより高次元で予測することができるようになる。
そうすると、さまざまドライビングシーンで自分の変化予測と実際の感覚情報が一致し、ドライバーには自分が車をコントロールできているという感覚が生まれる。これをトヨタでは「運動主体感」と呼ぶ。ドライバーと車が対話している状態で、このことがさらに乗ることを楽しくするということにつながっていき、車を操る喜びの根源になるという。
【次ページ】トヨタは「シンギュラリティ」をどう受け止めているのか
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