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空飛ぶクルマはSF作品の中だけの話題ではない。最近は、トヨタ自動車やエアバス、ウーバーといった企業が実用化に向けて真剣に取り組むようになった。特に、ボーイングは無人で飛行する空飛ぶクルマの実証実験を成功させ、空飛ぶタクシーや都市部での新たな配送手段の開発を目指している。アイデア自体は以前からあったにもかかわらず、今、空飛ぶクルマの研究開発が加速しているのはどうしてなのだろうか。
空飛ぶクルマの飛行実験に成功したボーイング
クルマの在り方が、大きく変わろうとしている。電気自動車や通信機能を搭載したコネクテッドカーの開発は進み、自動運転自動車も実用化へ向けて研究が行われている。ライドシェアのビジネスモデルは全世界に広がり、所有から利用への流れを取り込むべく、業界全体が動いてきた。
中でも、空飛ぶクルマは、これまで平面上を走行してきた自動車の概念を覆すものだ。飛行機やヘリコプターよりも小さく、ドローンよりも大きい空飛ぶクルマは、都市部の交通渋滞を減らし、より速く目的地まで移動できる未来の乗り物として期待されている。垂直に離着陸できる、少人数の乗車が可能な移動手段の実現に向けて、大手航空機メーカー、自動車メーカー、ベンチャー企業がしのぎを削っている。
ボーイングは2019年1月、自動運転による空飛ぶクルマの試験飛行に成功したと発表した。搭載した回転翼によって、機体の自律機能でのみ(操縦士の運転なし)で、9メートルほど垂直離陸し、同着陸を成功させた。今後の飛行試験では、技術的に難易度が高い、垂直浮遊と水平飛行との切り替えなどがテストされる予定だ。
同社は「Boeing NeXt(ボーイング・ネクスト)」と呼ばれる、未来的な移動手段の研究開発を行う部署を立ち上げ、空飛ぶクルマの実証を進めている。旅客用機体のPAV(パッセンジャー・エア・ビークル)と貨物用のCAV(カーゴ・エア・ビークル)を開発し、より速く、ストレスの少ない移動手段の実現を目指す。機体の開発は子会社であるAurora Flight Sciences(オーロラ・フライト・サイエンシズ)が担当するという。
ボーイングは機体だけではなく、インフラ側への投資も進めている。航空機運航と同様、空飛ぶクルマの運航においても、安全で快適な環境を作るためには“交通整理”するシステムが必要だ。そこで、グローバルAI(人工知能)企業であるSparkCognition(スパークコグニション)と協業してジョイント・ベンチャーSkyGrid(スカイグリッド)を立ち上げ、空の運行管理を行う仕組みの開発を始めた。AIでリアルタイムな運行制御を行い、ブロックチェーン技術で信頼性の高い情報管理を目指す。
空飛ぶクルマを可能にした技術たち
空飛ぶクルマは長らく人類の夢だった。SF作品で描かれることも多い。たとえば、1989年公開の『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』では、2015年の未来(1989年から見た未来)で、空飛ぶクルマが登場する。 さらに時代を遡ると、1925年にヘンリー・フォードは量産車T型フォードの飛行機版の開発を目指し、一人乗りの空飛ぶクルマ「Flivver」の試作品を制作した。ただし、プロジェクトは失敗に終わっている。
では、なぜ今、空飛ぶクルマの開発に注目が集まっているのだろうか?
その背景には、電気自動車および自動運転自動車の開発で培われた技術革新の影響がある。電気駆動モーターとバッテリーを採用したため、現在のヘリコプターと比べても仕組みが単純になり、コスト削減も実現した。また、AI技術の発達とGPSをはじめとするセンサー技術の進化によって、多くの制御が自動化できるようになった。
空飛ぶクルマの設計には大きく分けて2つの方向性がある。1つは、小さな飛行機のように翼を搭載した車体である。500~600キロの長距離飛行を想定しており、地上を走行する際には翼を折りたたむ。もう1つは、小さなヘリコプターのような設計思想を持つ、回転翼を付けたモデルである。離着陸時に必要な空間が少ないというメリットがあるものの、200キロ程度と飛行距離が短くなるのが難点だ。
また、ボーイングの実証実験のように、無人飛行を目指すものもあるが、有人飛行、および走行を想定したものもある。活用シーンを考えると、プロの運転手が操縦するタクシーのような使い方と、個人が利用する自家用でコスト面での違いが出てくるだろう。さらに、旅客用と貨物用で積載重量などの要件が異なり、それぞれ考慮した設計を行う必要がある。
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