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クラウドキッチンとは、飲食スペースを持たず、持ち帰りでの商品提供も行わない、デリバリー専業のビジネスモデルを指す。Uber Eatsなどのデリバリーアプリの普及と共に、配送を業務委託した個人に任せ、調理に専念する業態が実現可能になったのだ。デリバリーの利便性が高い都市部では、不動産価格が高いため、飲食スペースを削減するメリットが大きい。一方で、クラウドキッチンはデリバリーアプリに集客を依存してしまい、価格交渉力を失うという欠点もある。クラウドキッチンは、既存のレストラン市場に影響を与える程、大きく成長していくのだろうか。
デリバリー専業「クラウドキッチン」
デリバリーアプリが都市部を中心に急速な成長を見せている。実際、東京ではUber Eatsが配達する姿を頻繁に見かけるようになった。料理や飲料、あるいは、1つのレシピに必要な材料一式を揃えたミールキットをオンラインで注文できるようにするビジネスモデルは「フード・テック」と呼ばれる。Research N Reports社の調査では、全世界におけるフードテックの市場規模は2018年時点で3億5700万ドルに上り、2019年から毎年12%で成長を続け、
2025年には1456億ドルに達するとの予測がある 。
消費者にとっては、自宅にいながら手軽に質の高い料理が手に入る点がメリットであり、忙しい現代人のニーズに応えている。一方、レストランにとっては、追加の投資を行うことなく新たな販売チャネルを追加できる。TouchBistroのレポートでは、オンライン・デリバリーに参加したレストランは、
平均して16%の売上増加が見られた という。
近年、デリバリーアプリの普及を背景に、新しいレストランの業態が誕生した。店内で飲食するスペースを持たず、調理した料理をデリバリーアプリのみで提供する「クラウドキッチン」だ。別名、ダーク・キッチン、ゴースト・キッチン、バーチャル・レストランと呼ばれる場合もあるが、そのコンセプトは同様である。
クラウドキッチンのメリットが、初期投資及び運転資金の圧縮である点は明らかだ。飲食業は賃料や内装にかかる費用が大きく、損益分岐点を引き上げてしまう。デリバリーアプリが普及した都市部において、不動産にかかる高い費用が削減できるのは利点と言える。また、削減したコストによって、商品の価格を下げたり、料理の質を上げたりすれば、競争力を高め、多くの顧客を引きつけられる可能性がある。
進むクラウドキッチンの細分化
外食産業では以前から、セントラルキッチン方式が採用されている。大規模施設で大量の食材を集中的に調理し、各店舗では仕上げだけを行うという仕組みだ。各店舗での厨房施設を簡素化してコストを削減する、あるいは、店舗間での味のバラつきを抑える、といった利点が知られている。Hospitality Reviewの調査によると、各店舗が個別に食材を購入するより、セントラルキッチンで一括購入した方が1割安く仕入れられるという。
クラウドキッチンは、B2C向けにセントラルキッチン方式を応用したものと理解できる。一か所で調理したものをレストランに届けるのではなく、消費者に直接配送してしまうという考えだ。シェアリングエコノミーの発想で、厨房施設及び配達員を外注するため、安いコストで多くの人にレストランでつくった料理を提供できるようになった。
クラウドキッチンは、その業態によって、さらに細分化が進んできた。デリバリー専業のものもあれば、デリバリーと持ち帰りの両方を行う店舗もある。一つの厨房で複数の料理(中華、ハンバーガー、ピザなど)を作れるようにし、複数のブランドを共存させることも可能だ。
オンラインでの集客を担っているデリバリーアプリが、クラウドキッチンによる料理の提供へと進出するケースも現れた。デリバリーアプリは、どんなユーザーが、いつ何をいくらで注文したかという履歴が蓄積されているので、そのデータ分析に基づき、最適な商品企画ができるという優位性を持つ。
デリバリーアプリが所有するクラウドキッチンでは、提携パートナーとなるシェフが、共用の厨房を使って調理を行う。この場合、デリバリーと持ち帰りを併用したり、共用の厨房が食材の調達まで担ったりといった応用例が考えられる。
【次ページ】クラウドキッチンの登場が飲食業の競争を激化させる?
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