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- 2019/09/03 掲載
医療でのAI実践、病院で機械学習はどう活用されているのか
日本の医療における3大課題とは?
(1)急激な高齢化と人口減少ご存じのように、日本は急激な高齢化と人口減少が進んでいます。これは世界でも類を見ない速度であり、日本は少子高齢化の課題先進国であると言えます。2025年ごろまでには、団塊の世代が75歳以上になり、介護・医療費などの社会保障費の急増が懸念されています。いわゆる「2025年問題」です。さらに厚生労働省が出した予測では、現在よりもやや出生率が高くなったとしても、2100年に日本の総人口はピーク時(2008年)の半分になるとされています。
高齢者比率の増加に伴い、医療や年金、福祉などにかかる社会保障給付費も増加しています。厚生労働省(以下、厚労省)によれば、2000年に78.3兆円だった社会保障給付費は、2015年118.3兆円となり、わずか15年で約1.5倍に増加しました。社会保障給付金の支出内訳は、年金が約50%、医療費用が約30%、介護費用が約20%となっています。
(3)疾病構造の変化
日本人の死亡原因は、昔は肺炎や結核などの感染症が主流でした。医療の進歩により感染症での死亡は減り、現在は悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患が3大疾患となっています。現在の国民医療費は42.3兆円(2015年)、うち医薬品は9兆7000億円(2015年)となっており、巨大市場となっています。
こうした3つの課題に対応するため、日本政府も「2025年に向けた医療提供体制の改革」を急ピッチで進めています。高齢者が増えて急激に医療費が増大し、医師などの専門家の不足も深刻化している状況を早急に改善する必要があるからです。
その一例が、急性期病院における「入院日数の短期化」です。厚労省による平成26年の診療報酬改定では、多額の医療費がかかる高度急性期・一般急性期の病院が、患者さんを早く退院させることにモチベーションが上がるような保険点数の仕組みが導入されました。逆に入院期間が長引くと、支出が収入を上回る可能性が出る仕組みとなっています。
また、病気にならないように国民を啓発し、健康促進する取り組みも盛んになっています。病気のようにはっきりとした異常が現れていなくても、体内バランスに何らかの乱れがあれば広い意味での病気とみなす考え方を「未病」と呼びます。そうした未病状態の人に介入する「未病ケア」の導入が促進されています。なお、未病ケアはむしろ医療費を増大させるのではないかという説もあります。
医療分野で機械学習が生きる理由
機械学習の一手法である「深層学習(ディープラーニング)」については、医療分野でも多くのユースケースが報告されるようになっています。その代表的な活用例としては「医療用画像診断」が挙げられます。
特に内視鏡検査では、深層学習を適用した医師へのレコメンデーションモデルに薬事承認が下りて、製品実装されるようになりました。レコメンデーションモデルには、たとえば、「疾患の疑いのある部位が映ると検査画面に注意喚起の表示がされ、その画像が自動的に保存される」といった機能があります。
また、腫瘍の良悪自動診断を行う機械学習モデルの研究(一部疾患の診断モデルは薬事承認取得)や、MRI(磁気共鳴画像装置)などで撮影した画像から臓器の境界線などを機械学習に判別させる方法が試されています。日本は、諸外国と比べてCT(コンピューター断層撮影)やMR(磁気共鳴画像)などの画像診断装置が多数導入されていますが、その一方で、画像診断を担う放射線科専門医の数が圧倒的に不足しています。
そのため、臨床現場では画像診断専門医でない、たとえば脳外科医が撮影された画像を読影して診断・意思決定を行うケースがあります。機械学習には画像診断専門医並みの診断精度を維持するための支援ソリューションとして、大きな期待が寄せられています。
【次ページ】機械学習が医療オペレーションにもたらす恩恵
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