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政府は臨時閣議で地方創生の5カ年計画「まち・ひと・しごと創生総合戦略」第2期に向けた基本方針を決定した。将来の地方移住につながる施策として関係人口の創出・拡大、高校魅力化プロジェクトなどを柱にした内容で、この方針に基づいて年内に第2期の総合戦略を策定する。2015年度から進めてきた第1期総合戦略では、東京一極集中の是正を安倍政権の看板政策として掲げてきたが、目標達成を事実上断念し、方針転換を余儀なくされた格好。九州大大学院法学研究院の嶋田暁文教授(行政学)は「関係人口と高校魅力化を除けば代わり映えしない内容で、マンネリ感満載」と厳しい見方を示した。
地方創生は機能していない? 自治体からも疑問の声
紀の川と紀伊山地に挟まれた狭い平地に民家が連なる。行き交う住民の多くが高齢者で、空き家もあちこちに見える。ユネスコ世界遺産・高野山の入り口に当たる和歌山県九度山町。4月現在の人口約4200人は前年同期に比べて2.95%少なく、和歌山県内で3番目に高い減少率となった。
終戦直後の1950年に約9300人を数えた人口はすでに当時の半分以下。65歳以上のお年寄りが全人口に占める割合を示した高齢化率も、2010年で35%を突破し、日本の行く末を先取りした超高齢社会に突入している。特に基幹産業の農業は就業者の7割を60歳以上が占める。
町は町内で住宅を新築した世帯に100万円を支給するなど、定住促進に力を入れているが、人口流出に歯止めをかけることができていない。転出先は若者が大阪府、中高年が隣の橋本市に集中している。
国立社会保障・人口問題研究所は2020年の町人口を約4000人と推計している。これに対し、2016年にまとめた町の人口ビジョンでは、出生率の上昇や移住者の増加、人口流出防止策の効果などを考慮して2020年の人口を約4400人と展望した。現在の人口は社人研の推計より少し多いが、町の展望数を下回っている。
町は大坂の陣で豊臣方の武将として活躍した真田幸村が関ケ原の合戦後、流罪となった歴史を持つ。NHKの大河ドラマ「真田丸」が2016年に放映された当時は、観光客が多数押し寄せたが、放送終了後は減ってしまった。
九度山町企画公室は「移住者支援にしろ、観光客誘致にしろ、小さな地方自治体でできることは限られている。それなのに、国の地方創生策はその場しのぎの感があり、十分に機能しているように思えない」と不満をぶつけた。
東京一極集中が加速、政府の施策は効果発揮せず
2015年度から2019年度までの5年間を期間とする政府の第1期総合戦略は、東京一極集中の是正と地方の活性化を目指し、地方での若者の雇用を5年間で30万人分創出し、2020年までに東京圏(東京都、神奈川、埼玉、千葉の3県)と地方の転出入を均衡させる目標を掲げた。
目標達成に向け、安倍政権が打ち出したのは、中央省庁など政府機関の地方移転、民間企業の本社機能地方移転に対する税制優遇措置、東京23区での大学新増設抑制、地域おこし協力隊員の増員など。財政措置としては事業費1兆円と地方創生推進交付金1,000億円を毎年確保し、自治体の支援に使ってきた。
当初は地方創生という言葉が流行語となり、自治体や金融機関に窓口部署が設けられるなど国を挙げて推進に動きだしたように見えた。地方移住の橋渡し役を務めるふるさと回帰支援センターへの相談件数が2018年度、過去最高の4万件を突破するなど、都会の若者が地方に向ける視線にも変化がうかがえる。
しかし、地方での雇用創出は2018年末で27.1万人に達したものの、地方移住は広がりを欠き、転出入の均衡は実現しそうもない。総務省によると、東京圏は2018年、転入者が転出者を約14万人上回り、23年連続の転入超過となった。むしろ東京一極集中が加速しているのが実情だ。
中央省庁の移転で全面移転が決まったのは京都府へ移る文化庁だけ。消費者庁が徳島県、総務省統計局が和歌山県に一部機能を移しているが、移転は東京を離れたくない官僚の抵抗で政府の目論見通りに進んでいない。
企業の地方移転も苦戦が続く。民間信用調査機関の帝国データバンクによると、2018年に東京圏から地方へ本社を移した企業が285社なのに対し、東京圏へ転入した企業は308社に上る。転入超過は8年連続で、政府が用意した税制優遇策も効果が出ていない。
【次ページ】東京一極集中の是正を事実上断念、過疎地域が生き残るためには?
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