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世界的にディープラーニングに関する取り組みが急速に進む中、グローバルから出遅れた日本企業に勝ち筋はあるのか──。国内No.1ダウンロード数のヘルスケアアプリを提供するFiNC Technologies 代表取締役CTO 南野 充則氏が、「日本ディープラーニング協会」最年少理事としての知見を交えながら、人工知能ビジネスにおける日本の現状と人材育成のポイントを解説した。
執筆:三津村直貴、聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎
執筆:三津村直貴、聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎
ヘルスケアアプリ「FiNC」がここまで伸びた理由
――2019年4月で創業から7年。FiNC Technologies(以下、FiNC)は競合の多い“ヘルスケア”分野で着実にユーザー数を増やしています。
南野充則氏(以下、南野氏):FiNCは創立当初から「カラダのすべてを、ひとつのアプリで。」という目標を掲げてきました。しかし、いきなりそれを達成できるようなアプリを作れるわけではありません。最初はトレーナーによるマンツーマンのオンライン指導からスタートし、機能を拡張し、FiNCアプリを2017年3月より公開しました。
現在はヘルスケアアプリで圧倒的なユーザー数を獲得できていますが、これは段階的にビジネスを広げて予算を獲得し、その予算をアプリの広告に投入できたためです。
また、現在FiNCは53の特許を取得しています。その中には、ほとんどのヘルスケアアプリに引っかかる「生体情報に基づいてアドバイスをする」という特許や、「人同士のチャットを分析し、AIがアドバイスをする」という特許も含まれています。これらの特許を先んじて取れたことで、他社に邪魔されずにビジネスができるようになりました。
創業時から明確な戦略を持って技術開発を続けてきたことが、今ヘルステックとして1つ上に抜けた存在になることができた要因なのではないかと考えています。
アルゴリズムでは勝てない、勝負は「コンテンツ」
――FiNCでは、エンジニア全員が機械学習を学んでいると伺いました。
南野氏:ヘルスケアに関わる領域は非常に広く、機械学習の応用範囲もまた、その領域をカバーできるほどに進歩しています。アプリのあらゆる領域に機械学習が用いられる可能性があるわけです。エンジニアが機械学習を覚えておくに越したことはないと思っています。
具体的には、論文を見てモデルを作れるようになるまでのカリキュラムは用意しています。単元やスキルの習得に必要なテキストなどもそれぞれ選定しており、実際に多くの社員がAIエンジニアにコンバートしています。
――日本全体でも今、人工知能(AI)の人材を増やそうという試みがあります。しかし、AIへの取り組みは海外と比べ出遅れている印象が否めません。
南野氏:AIに限らず、日本のIT人材が増えないのは、世界を代表するようなIT企業が少なく、国内に人材を育てられるような大きな産業がない点にあると思っています。
グーグルのようなIT大手の企業にはそれぞれ研究室があり、大学の代わりにそこで優秀な人材が育ち、ほかのIT企業へと移っています。エンジニアを育てるカリキュラムの整備も必要ですが、まずは業界や企業の中に人材が育つエコシステムのようなものを作っていくことが大切です。
現状を見ると日本と米中との差は大きく、機械学習のアルゴリズム開発ではまったく勝負にならない状態です。
ただ、製品は「アルゴリズム」だけで成り立つものではありません。「コンテンツ」も必要です。日本も食やカルチャーなど独自の良質なコンテンツを持っていますから、「日本にしかない(できない)コンテンツ」×「アルゴリズム」の発想で作れば、米中と戦えるAIビジネスも実現可能ではないかと思います。
たとえば、我々FiNCが扱う領域で日本の健康と食事は海外でも注目が高く、「日本の健康データを分析している企業なら自分の健康データを預けてもいい」と考えるユーザーが多いと予測しています。実際、すでに海外での実証実験は行っています。もちろん、データを基にして行う具体的な食事の提案などはカスタマイズが必要ですが、これまでに培ってきた、ユーザーの細かな情報を分析しニーズに応える技術が生きると思っています。
日本のAIビジネス発展に欠かせない「のりしろ人材」
──南野さまは日本ディープラーニング協会の最年少理事として、多くの企業のAI実践を見て来られました。AIビジネスを始める上で、企業がまず取り組むべきポイントは何でしょうか?
南野氏:そもそもAIビジネスでは、“AIで何を解決するか”という「課題のセット」が非常に重要になります。その実現には2つの方法があります。
1つは、社内で業務内容やAIの活用事例などに精通している人材を育成し、自社のビジネスにつなげることです。
もう1つは、経営者の啓発です。AI開発には相応の投資が必要ですから、予算を動かせる経営者にAIの現状や必要性を理解してもらわなければなりません。
──IT技術に疎い経営者にAIの重要性が伝わらないというケースが少なからず存在します。
南野氏:体感してもらうのが一番よいですね。また、うまくいっている企業と連携してもらうのも手です。AIによって社会や技術にどれだけ大きな変化があるか見てもらった上で、危機感を持たせることが重要です。
──一方で、危機感を持った結果、お金をかけて技術者を連れてきたものの、ビジネス化に失敗するというケースもあります。
南野氏:単に技術者を連れてきただけでは、AIのビジネス応用はできません。
【次ページ】「AIビジネスの発展に欠かせない人材」「企業が直面する2つの課題」
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