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- 2019/05/14 掲載
世界から100万人来場の「瀬戸芸」開幕、離島ブームの裏で進む“残酷な現実”
瀬戸内海の離島に、毎回100万人前後の来場者が殺到
2010年にスタートした瀬戸内国際芸術祭は今年で4回目。瀬戸内海に浮かぶ豊島、直島、小豆島、女木島など12の島々と高松市の高松港、岡山県玉野市の宇野港を会場に、春、夏、秋の3会期で計107日間開催される。
今回は米国、イタリア、アルゼンチンなど世界25以上の国と地域から225組のアーティストが参加、芸術作品213点を展示するほか、35のイベントに登場して島々を盛り上げる。作品は離島の港や路地裏、古民家などに展示され、来場者は船で海を越えて作品に会いに行く。そこで待ち受けるのは、美術館で目録を片手に芸術鑑賞するのと異なる体験だ。
オーストラリアからやってきた若いカップルは高松港から船で豊島へ渡り、レンタル自転車で島内を巡った。ジャーナリスト志望のマイク・ブレシアーノさん(22)は「島めぐりでのアート鑑賞はここでしか味わえない」と笑顔を見せていた。
日本では2000年代に地方自治体が主導するアートイベントが流行し、各地で競い合って開催された。しかし、その多くは失敗に終わり、淘汰されている。
瀬戸内国際芸術祭も香川県若手職員の政策研究で発案されたが、2010年の第1回が当初見込みの3倍以上に当たる94万人を集めたのをはじめ、2013年の第2回、2016年の第3回とも100万人を超す来場者でにぎわった。全国のアートイベントの中では突出した成果を上げている。
島めぐりとアート鑑賞、そして地元の人たちとの交流が外国人観光客の心をつかんだわけで、瀬戸内国際芸術祭実行委員会事務局は「瀬戸内ならではの体験が口コミで評判を呼び、人気が定着した」と胸を張る。
島々に戻る活気、国際色豊かでモダンな場所に
瀬戸内国際芸術祭を契機に外国人観光客が殺到するようになり、島々の様子に変化がうかがえる。香川県土庄町の豊島はかつて、膨大な量の産業廃棄物が不法投棄され、「ごみの島」と呼ばれていたが、観光シーズンになれば高松港や宇野港を結ぶ旅客船が外国人観光客で満席となることも珍しくない。名所の一つが唐櫃地区にある島キッチン。2010年の第1回瀬戸内国際芸術祭で建築家の安部良さんが空き家を改造した食とアートで人々をつなぐ場所で、島の女性たちが豊かな海、山の幸を使った料理でもてなしてくれる。島民と観光客で祝う「島のお誕生会」が毎月開かれ、世代を超えた交流も生まれている。
同じ唐櫃地区には、大工倉庫を改装したウサギニンゲン劇場がある。ドイツを拠点に活動していた日本人アーティスト夫妻が2016年に移住し、自作の映像装置と楽器を使ったパフォーマンスを披露している。過疎と高齢化のダブルパンチに苦しめられている離島が、国際色豊かでモダンな場所に変わろうとしているわけだ。
土庄町によると、島内6カ所の主要観光施設の来場者は2010年度に5万8,000人ほどだったが、2016年度は4倍の24万6,000人に増えた。2017年度は瀬戸内国際芸術祭が開かれていないのに、11万6,000人が訪れている。
土庄町企画課は「地元の人が気づかない島の魅力を外国人が見つけ、口コミとSNSで広げてくれている」と喜んでいる。豊島自治連合会の三宅忠治会長も「島民は産業廃棄物の不法投棄に苦しめられる中、高齢化してしまったが、外国人観光客の増加で未来が開けた感じがする」と期待を口にした。
【次ページ】離島ブームの裏で進行する2つの問題
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