- 会員限定
- 2018/12/31 掲載
四国で世界初!線路と道路の両方を走る「DMV」は地方の救世主になるか
甲浦駅にスロープ設置、ここからバスに早変わり
高知県東洋町河内の甲浦駅。阿佐海岸鉄道の終点だが、周囲を山と農地に囲まれたのどかな景色が広がる。平日の乗降客はごくわずか。駅前に高知県室戸市や徳島県牟岐町へ向かう路線バスがやってくるが、乗客のいないまま発車することも珍しくない。そんな寂れたローカル線の駅に今、注目が集まっている。世界で初めてDMVが運行することになり、年明けから本格的な工事が始まるからだ。阿佐東線の線路を走ってきたDMVはここで一般道路に降り、運行を続ける。
工事は高架上の線路と地上を結ぶ延長85メートル、幅4メートルのスロープを設置するもので、駅前の駐車場とバスの停留所が建設場所となる。このため、駅の南西側に広さ830平方メートル、12台収容の平面駐車場が新たに設けられた。スロープは2019年中に完成する見通し。
阿佐海岸鉄道は2019年秋ごろからDMVの運行を予定する徳島県海陽町の宍喰駅、海部駅、JR四国の阿波海南駅でDMV用のホームやバスモードとの切り換え施設、DMV用の保安システムなどの整備に入る。調達するDMV車両は3両。2019年度中に試験走行を始める計画だ。
阿佐東線は海部駅から甲浦駅を高架上の線路で結ぶ。しかし、高架駅でDMVが地上と行き来できるようにするのに多額のコストがかかることから、地上駅のJR阿波海南駅を始発とし、阿波海南駅から甲浦駅までをDMV専用区間とする。甲浦駅で道路へ降りたあとのルートは未定だが、室戸市の室戸岬までの運行が将来的に検討されている。
2020年の運行開始目標に向け、徳島県次世代交通課は「地域振興の起爆剤として計画通りに導入を進めていきたい」、阿佐海岸鉄道の宮﨑祐伸専務も「世界初の乗り物だけに、観光面への波及効果を期待している」と意気込んでいる。
苦境が続く鉄道経営、DMV観光に活路
JR北海道は2004年に試作車を完成させ、日高本線などで試験走行を繰り返した。しかし、経営が悪化する中で度重なる事故から安全対策を優先せざるを得なくなり、導入を断念した。その後、導入を検討する自治体や鉄道会社はあったが、具体化する事例がない中、徳島県の飯泉嘉門知事が2017年、阿佐海岸鉄道への導入を打ち上げた。
阿佐海岸鉄道は旧鉄道建設公団が整備しながら、国鉄再建法により放置されていた阿佐東線を運行する三セク鉄道として1992年に開業した。しかし、沿線は人口減少と高齢化の進行が著しい過疎地域。経営は開業以来、赤字続きの苦しい状態が続く。開業当初に自治体が積んだ5億円の基金を使い果たし、新たな支援を受けている。
2017年度は最終損益で107万円の黒字となったものの、これは補助金で埋め合わせた結果。営業損益は車両検査のコスト負担が響き、1億737万円の赤字を記録した。四国へ流入を始めた外国人観光客の波及効果もそれほど見られない。高知県交通運輸政策課は「このままではじり貧状態が続く。観光面で活路を見いだしたい」としている。
【次ページ】地元自治体も観光振興に大きな期待
関連コンテンツ
PR
PR
PR