0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
デジタル分野における協力関係強化を進める日本とインド。2018年10月には「日印デジタル・パートナーシップ」が合意され、その動きは加速している。IoTの進展によって、ハードとソフトの融合はより重要性を増しており、ハードを得意とする日本と、ソフトウェアを得意とするインドの協力関係強化は大きな可能性を秘めている。インドの要人に加え、NECの遠藤信博代表やメルカリの小泉文明COO、経済産業審議官の寺澤達也氏などが集結し、これまでの取り組みと今後の展望について語った。
IoT時代にますます重要性を増す日印両国の連携
IoT時代にはハードウェアとソフトウェアの融合は必須だ。また、イノベーションを起こしていくために、いわゆる「自前主義」を捨て、技術力を持った企業と、アイデアを持ったスタートアップ企業との協業がこれまで以上に求められている。
そうした文脈で、アメリカ、中国に次ぐスタートアップ大国のインドは、日本と強い相互補完関係にあるといえる。
セッションのモデレーターを務めた経済産業審議官 寺澤達也氏は、「日本とインドは安全保障分野でも共通の関心を持ち、これまでも社会インフラの整備や、モノづくりのための人材育成の分野で協力してきた」と述べる。そして、両国の新たな協力分野が「デジタル分野での協業」だ。
すでにいくつかの動きが始まっている。インドのバンガロールには日印スタートアップ・ハブが設立され、経済産業省の職員が常駐、JETROのオフィスと連携して両国の企業間の橋渡し役を担う。
インド側も、IT業界団体であるNASSCOM(インドソフト・サービス企業協会)などの組織が、有望なスタートアップ企業を発掘、日本企業とのマッチングを行っている。
たとえば、ロボティクスのスタートアップ企業「GREY ORANGE」(グレイオレンジ)は、AIを使ったロボットが自動的に商品をピックアップする技術を開発。すでに物流センターを支援する技術としてニトリが採用している。
ヘルスケア分野では、「Tabby mHealth」というスタートアップが、AIを用いた心臓疾患、糖尿病の予知モデルを開発した。「圧倒的な人口の多さを背景に、ビッグデータを収集、分析できる強みを発揮している」と寺澤氏は説明する。
そして、2018年10月に締結・合意された「日印デジタル・パートナーシップ」は次の5つのポイントによって構成されている。
- スタートアップの協力(日印スタートアップ・イニシアチブの創設)
- 中小・大企業間の連携(ビジネスマッチングイベントの開催など)
- デジタル人材(日本企業によるインドのIT人材採用イベントの開催など)
- AIをはじめとする研究開発協力
- 次世代ネットワークのためのセキュリティ
国内でも大企業、スタートアップがインドとの協業を加速
では、具体的に、日本企業はインドでの取り組みをどのように進めているのだろうか。口火を切ったのがNEC 代表取締役会長 遠藤信博氏だ。
遠藤氏は「コンピューティング、ネットワーク、ソリューション力という3つの事業アセットを用い、インドにおける安全、安心、公平な社会の実現に貢献していく」と述べた。
たとえば、ID管理の分野では、指紋認証技術を用いたNECの認証システムが11億人以上の人に利用されている。また、太陽電池を使ったモバイル基地局の設置、運営や、監視カメラ設置による犯罪率の減少といった成果も出てきている。
そして、IT分野でのコラボレーションでは、「2012年頃より研究開発分野での協力を加速している」と遠藤氏は話す。NECには約6000人のインド人研究者がおり、さらにインドのムンバイに研究施設を開設し、IIT(インド工科大学)をはじめ、優秀な学生を招いて研究開発を行う構想がある。
特に、「認証やアナリティクスといったNECの強みのあるソリューション開発につなげていきたい」と遠藤氏は述べ、今後は5Gネットワークの技術開発についても、インドの研究施設が重要な役割を果たすだろうと述べた。
これに対し、寺澤氏から「相互補完という観点で、インドのスタートアップ企業に何を期待しているか」との質問があった。
遠藤氏は、「スタートアップは、得意分野のエッジが効いた会社だ」とし、「我々が主体となってコミュニケーションをとることで、彼らの強みを大きくしていきたい」と述べた。たとえば、「日本の特区を柔軟に使える仕組みがあるとイノベーション加速につながるのではないか」といった私見も披露された。
2社目はスタートアップ分野だ。メルカリ取締役社長 兼 COO 小泉文明氏は「メルカリのサービスの中にもAIが導入されている」と話した。
5年前にサービスを開始した個人間取引のプラットフォームであるメルカリは、日本、英国、米国でビジネスを展開。アプリの総ダウンロード数はグローバルで1億DL、月間1000万人以上の利用者によって、年間で3700億円の取引が生まれている。
「1日約100万点の商品が出品される。出品時にアプリで商品を撮影すると、自動的に商品名、メーカー名が入力され、利用者の手間を省くことや、検索結果に対するパーソナライズ、そして違反品の出品に対する監視などにAIの画像認識技術が活用されている」(小泉氏)
そうした状況下で、サービスの成長に「インドの優秀なIT人材の採用は重要なテーマだ」と小泉氏。
インドにおいてハッカソンなどのイベントを行い、認知度を高め、待遇面の整備などを行った結果、今では約30人の学生をエンジニアとして採用することができた。
今後は、「インドのスタートアップとの連携も実現したい」とのことで、米国、英国に続くグローバルな提携先としてインドには期待していると小泉氏は語った。
これに対し、寺澤氏から「提携先として、インドのスタートアップに何を期待しているか」との質問があった。
小泉氏は、「次のビジネスの柱はFinTech領域だ」と述べ、FinTechやセキュリティの領域などで、インドのスタートアップの技術力の高さに期待していると述べた。
【次ページ】インドでは5Gネットワークでの協業を進める事例が
関連タグ