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3月に実施された「未踏会議 2018」では、「次世代コンピューター」をテーマにパネルディスカッションが行われた。富士通のAI基盤事業本部 本部長代理である東圭三氏、日立製作所の研究開発グループ 主任研究員である山岡雅直氏、フィックスターズのリードエンジニアである松田佳希氏がパネリストとして参加、モデレーターを早稲田大学 高等研究所 准教授である田中宗氏が務めた。富士通や日立といった企業がこれまでとはまったく違う形式の「次世代コンピューター」に取り組んでいる。その理由と実体はどんなものだろうか。
執筆:フリーランスライター吉澤亨史、構成:編集部 山田竜司
執筆:フリーランスライター吉澤亨史、構成:編集部 山田竜司
「次世代コンピューター」とは何か
田中氏は今回のテーマである「次世代コンピューター」を、「組み合わせ最適化」の処理をより早く正確に行うためのマシンであると説明した。
組み合わせ最適化とは、「膨大な選択肢からベストの組み合わせを探す」という問題で、業務はもちろん、生活の中にもたくさん存在する。いずれも現在主流の「ノイマン型コンピューター」では解くことが難しい問題である。そこで、次世代コンピューターが注目を集めていると田中氏は説明した。
次世代コンピューターには、量子コンピューターの方式の一種である量子アニーリングなど、「鉄が液体から固体になる(安定した状態になる=答えが出る)」といったさまざまな自然現象から着想を得た計算技術を採用したものが多い。2011年にカナダのベンチャー企業により商用発売された、量子アニーリングを利用した量子コンピューター「D-Wave」が有名だ。
日本でも、組み合わせ最適化を目的とした専用マシンが開発されている。これには日立が開発している従来のCMOS半導体技術により量子アニーリングマシンと似た演算が可能な「CMOS(シーモス)アニーリングマシン」、富士通が開発している量子コンピューティング技術を応用したコンピューター「デジタルアニーラ」、NTTが開発している光ネットワーク方式のマシンである「コヒーレントイジング(Coherent Ising)マシン」(CIM)などがある。
まさに今、ハードウェアの技術開発競争が加速しているが、新しい計算技術を作るためには、コンピューターだけでなくソフトウェア、アプリケーションも必要になる。この3つの領域を統合的に進めていくことが重要であるとした。
なお、田中氏は早稲田大学で進めているNEDOプロジェクトの成果の「パッキング問題」を取り上げている。
これは、電子回路を設計するときに、限られたスペースにさまざまなパーツをいかに効率良く配置するかというもの。その最適な配置のパターンを、アニーリングマシンを使うことで実現するための研究に取り組んでいるという。
富士通の「デジタルアニーラ」
田中氏は、各社の事業内容と今までの開発状況を聞いた。
東氏が所属する、富士通開発の「デジタルアニーラ」は、組み合わせ最適化問題を高速に解くための新しいコンピューター・アーキテクチャという。例えば、30都市を巡回する最短のルートを求める場合、スーパーコンピューターを使って総当たりで計算すると、8億年かかると言われる。しかし、デジタルアニーラを使うと、1秒未満で答えが出るという。
現在の半導体技術が限界に近付いていることから、量子コンピューターの研究が非常に注目されている。しかし、「実社会に適用するには、もう少し時間とブレークスルーが必要だと考えています」と東氏は話す。まずは、新薬の開発分野や金融関係、デジタルマーケット、富士通自身を含む工場などでの事例に取り組むとした。
デジタルアニーラの特徴として、コンピューター内部で素子同士が自由に信号をやりとり可能な、「全結合型」の設計が採用されるという。計算に利用する1024個ビット値が全結合で相互接続され、ビット間の結合の強さを65536階調で細かく表現できるため、現行の量子アニーリングマシンでは扱うことができなかったような複雑かつ大規模な問題も解くことが可能とした。
「デジタルアニーラは今後、新しいコンピューターとしてさまざまな環境に使われると思っています。また私たちは富士通だけでなく、量子コンピューターソフトで世界トップを走るカナダの会社『1QBit』や、カナダのトロント大学と提携して、さまざまな取り組みを進めています。デジタルアニーラと1QBitのソフトをセットにして、クラウドで提供しようと考えています」と語った。
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