• 会員限定
  • 2022/11/08 掲載

量子コンピューターとは何かをわかりやすく図解、何がすごい?仕組みは?従来と何が違う?

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
1
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
商用サービスのリリースが加速している量子コンピューター。国内稼働2年目に突入しているIBM Quantum System Oneをはじめ、現在、富士通、東芝、NEC、日立製作所が疑似量子コンピューターの提供を開始している。そもそも量子コンピューターとは何か、その仕組みを解説するとともに各社の最新動向を紹介する。
画像
従来のコンピューター(上)と量子コンピューター(下)の計算の仕組みの違い(内容は後ほど詳しく解説します)

量子コンピューターとは?なぜ“夢の計算機”なのか

 これまでコンピューターの性能を引き上げてきたのは、基本的には半導体技術の進歩だ。半導体の回路を小型化し、たとえばk分の1に細かくすると動作速度がk倍あがり、回路の集積度はkの2乗になり、消費電力がk分の1に下がるという具合に進んできた。開発メーカーはチップ上の論理ゲートの数をいかに増やし、高速化、高機能化、大容量化、低価格化するかでしのぎを削ってきた。

 もちろんアルゴリズムの進化という面もある。さらには、ディープラーニング+GPUといった機械学習技術の登場によってコンピューターの性能は大きく向上し、"できること"を格段に広げている。

 ただ、コンピューターの根本の動作原理自体は変わらない。現在のコンピューターは電圧の高低で「0」と「1」による2ビットを表し、ビットで論理演算(論理演算を行う電子回路を「論理ゲート」という)を行う。どんなプログラムも最終的にはビットの演算処理で実行される。

 その仕組みが変わらない以上、「コンピューターをより高性能にする」というのは、上述したように(論理ゲートの数を増やし回路を小型化する、などにより)チップ上の回路の集積度を上げて計算処理スピードを得る、ということになる。

 しかし、集積率の向上にはいずれ物理的限界が来る。また、従来のコンピューターでは計算できない、「組み合わせ爆発」現象を起こしてしまう最適化問題も存在している。こうした、いまだ解析しきれていない事象を扱うため、スーパーコンピューターを含め、次世代コンピューティングの研究開発が行われている。

 量子コンピューターもその1つ。従来のコンピューターとは異なる動作原理で「計算するプロセス」を実現しようというもので、「重ね合わせ」や「量子もつれ(エンタングルメント)」といった量子力学的な振る舞いを使って計算を行うシステムだ。特に注目が続く理由は、実用化されれば革新的な性能が得られるという期待感にある。

 量子コンピューターが話題になり始めた頃よく言われていたのが、ICT技術のさまざまな場面で使われているRSA暗号を解いてしまうという脅威論だ。それくらいの進化が起こる可能性が量子コンピューターにはあるということになる。

 商用の量子コンピューターが登場している今、その話はどうなのかというと、まだ技術的にそこまでの性能に至っていないため、すぐにでもRSA暗号が破られてしまうという状況ではないというところだ。そのあたりも含めて、本稿では量子コンピューターの基礎とその可能性を見ていこう。

▼この記事の内容を3分の動画・音声でまとめています▼


量子コンピューターの原理となる量子の「振る舞い」

 ミクロのスケールでの物質の振る舞いには、私たちが知覚できる世界の認識とはまるで違う、次の2つの特徴がある。

・量子は波の性質と粒子の性質を持つ(波と粒子の二面性)
・1つのものが同時に複数の場所に存在する(状態の共存)

 マクロな物体の運動は、いわゆるニュートン力学を基本とする古典的な物理法則を使った計算でも、量子論を用いた計算でも同じ結果になるという。ただ、原子以下の大きさ、電子や分子のサイズ(約1000万分の1mm)となると、量子力学で考えないと説明できない現象が現れる。それが、量子の振る舞い、量子の性質のとらえにくさ、マニピュレートのしにくさにつながっている。

画像
ミクロのスケールからマクロスケールへ

 ここで、量子コンピューターの原理となる量子の「振る舞い」について見ておこう。ただ、あくまで量子コンピューターに使われる(とされている)特徴ということで、量子論としての解説ではないので、その部分はご了承いただきたい。

 まず量子の持つ特徴として「状態の共存」があることは先に述べた。1つのものが同時に複数の場所に存在する、複数の状態を持ちうる。この「重ね合わせ状態(共存した状態)」を使ってビット(量子ビット)を表現するのだ。

 たとえば、粒子の持つ物理量の1つである「スピン(≒自転)」を使って、ある電子の右回りのスピンを「0」、左回りのスピンを「1」としたとき、重ね合わせ状態にある電子はこの「0」と「1」を同時に持つことができる。こうした電子を2つ用いて、「00」「01」「11」「10」を表現できるということになる。

画像
量子の重ね合わせ状態によるビットの表現

 もう1つ重要なのが「量子もつれ(エンタングルメント、量子からみ)」と呼ばれる、量子の特徴だ。量子もつれの状態にある2つの電子があるとき、一方の電子において右回りのスピンが“観測”された場合にもう一方は左回りのスピンが確定する。つまり、1つが右(左)回りであるとき、もう1つは左(右)回りである、という状態が量子もつれだ。量子もつれの状態にある2つの電子は、このようにスピンの値を打ち消し合う。

 これが量子コンピューターになぜ必要なのかというと、高速に並列計算を行うためだ。絡み合っていない量子ビットのビット列は個々に動いてしまう。複数の量子ビットが絡み合っていれば、1つの量子ビットに対する作用を、瞬時に、全体へ及ぼすことができる。

画像
量子の絡み合いにより量子ビット列全体を作用の対象にできる

 ちなみに、この量子もつれの特性を用いたものに「量子テレポーテーション」がある。アリスとボブの2者の間で量子もつれにある光子の対を、アリスが光子(a)、ボブが光子(b)というように持つ。そして、この光子対には重ね合わせ状態を持つ量子ビット(c)がある。このときアリスが(a)と(c)を一緒に観測し、その”結果”をボブに伝えると、ボブはその情報をもとに(b)を操作することで(c)が得られる、というものだ。

photo
量子テレポーテーションの実験の模式図
(出典:『佐藤文隆先生の量子論』ブルーバックス)

 暗号鍵の交換方法としても非常に魅力的であるとともに、量子テレポーテーションは量子通信という新たなネットワークの可能性を示している。量子もつれの制御、通信距離を伸ばすための技術など、各国さまざまな研究機関がこうした量子テレポーテーションの研究に取り組んでいる。

 たとえば、1998年古澤明(現・理化学研究所)が量子テレポーテーションの実験に成功(無条件下で成功したのは世界初のこと)。その後、3者間の量子もつれ制御(2004年)、9者間の量子もつれ制御に成功(2009年)。また、2016年に中国が宇宙規模での量子実験を目的に打ち上げた実験衛星「墨子号」は、地球上の1200キロ離れた2つの地点間における量子テレポーテーションに成功するなどの成果をあげているという。

 2021年には、理化学研究所、シドニー大学、ルール大学ボーフム校による共同研究チームが「3量子ビットの量子テレポーテーション」を成功させている。

【次ページ】量子ゲート方式での量子による計算とは
関連タグ タグをフォローすると最新情報が表示されます

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます