NEC流「量子コンピューティング技術」の活用術、数字に表れる“絶大な効果”とは?
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量子コンピューティング技術がもたらす絶大な効果とは?
こうした課題を解決に導くのが、量子コンピューティング技術のうち、「組合せ最適化問題」を解くことに適した量子アニーリングだ。
NEC 量子コンピューティング統括部の千嶋博氏は、「IoTで企業の活動データを見える化し、それをAI分析にかければ、近未来を予測できるようになります。その後、分析から得られた対処法の中から、予算や費用対効果などの条件を踏まえ、どの対策が最善かを検討することになります。このとき、最適な答えを求める量子アニーリングや数理最適化の技術を組み合わせることで、ベストな行動を選べるようになります」と語る。
つまり、IoT・AI活用によって進めたDXの成果は、「最適な選択肢を選ぶ」ための量子コンピューティング技術の活用によって、ようやく表れ始めるのだ。
すでに、この量子アニーリングが実際のビジネスで活用され、成果を出す事例も出てきている。たとえば、NECのグループ会社であるNECフィールディングは、量子コンピューティング技術を活用し、「保守部品の配送計画」の立案を自動化、配送効率を約20%も向上させた事例がある。
そのほか、NECプラットフォームが多品種少量生産の複雑な計画立案を自動化し、工場ラインの段取り工数を半減させ、設備稼働率を15%も向上させた事例もある。いずれの事例も、リアルタイムに何度も再計算しながら、現状変化を踏まえた最も効果的な選択肢を選べる領域にまで到達しているという。
「数理モデルで表現できない」、ややこしい課題の解決法
たとえば、コストや規制対応など、あらゆる要件を同時に満たす必要がある「自動車の設計パラメータ」や、複数の特性値を目標とする産業用素材製造用の「原料・製造条件の探索」などが、それに該当する事案だ。
Fixstars AmplifyのCEO 平岡卓爾氏は、「これらの課題のモデル化は難しいのですが、入出力データは揃っているため、機械学習と量子アニーリングを組み合わせることで、ブラックボックス化された課題も最適化できるようになります」と説明する。
このブラックボックス最適化手法「FMQA」は、東京大学で提唱されたアプローチで、ある特定の入力で計算した出力を使って、機械学習で特徴量を抽出し、さらに量子アニーリングで一番良さそうな結果が得られる入力候補を選び、また出力を得て機械学習にかける。この一連のループを繰り返すことで、なるべく少ない回数で良結果を導けるようになるというものだ。
Fixstars Amplifyでは、化学プラント生産量の最大化や、航空機の翼設計、信号機の最適配置による交通量最適化などのブラックボックス問題を、同社の量子コンピューティングクラウドプラットフォーム上で試せるようにしている。
NECの千嶋氏は「私たちもFMQAについて大いに注目しています。AIと非常に相性が良く、データさえあれば、短期間に適用できるため可能性を感じます。Fixstars AmplifyさまではFMQAだけでなく、多くの組合せ最適化問題のサンプルコードを公開しているため、全関係者にオススメしたいWebサイトになっています」と評価する。
数理最適化だけでは不十分?量子アニーリングが必要な状況
千嶋氏は「もちろん、数理最適化技術だけでも組合せ問題を解けることはありますが、より複合的で大きな問題を解く際には、全体問題から部分問題に分解し、最適なソルバ(複数の変数を含む数式を制約条件とし、その範囲内で目標値を得る解の組合せを求める機能)を活用することが重要です。そのために数理最適化ソルバと量子アニーリングの違いを知る必要があります」と語る。
端的に言えば、数理最適化ソルバとは、従来の線形計画法などの数学理論で効率的に答えを解く方法である一方、量子アニーリングは言葉のように「焼きなまし(アニーリング)」という自然現象になぞらえた方法により、さまざまなサンプリングデータから、より良い解を導いていくという違いがある。
また、得られる解の性質や精度で比べると、数理最適化ソルバの場合は、解ける問題であれば毎回100点満点の答えを再現性高く導く。一方、量子アニーリングは解くたびに異なる解が出せるほか、100点に近い複数の答えをバリエーション豊かに出してくれる。こうしたソルバごとのメリットを知った上で、目的に合わせた使い分けが求められるわけだ。
具体的な使い分けとしては、新材料のレシピ提案などは、実験データに誤差が含まれることがあるため、予測モデルも不確かさを含んでしまう。そこで100点満点の答えを1つ出すより、複数の答えが得られるほうが使いやすい。また実社会ではイレギュラーなデータが出ることもある。そのとき制約条件が満たされないと解なしで終わってしまう。このように複数の答えが必要だったり、イレギュラーでも答えを出したいときは、量子アニーリングのほうが相性が良いというわけだ。
量子コンピューティング技術活用における「心強い味方」
NEC(NEC Vector Annealing)、日立(CMOSアニーリング)、東芝(SQBM+)、富士通(デジタルアニーラ)など、国内各社のアニーリングマシンのサービスや、数理最適化ソルバ(Gurobi)、IBMのゲート式量子コンピューター(IBM Quantum)なども統一インターフェースでブリッジでき、組合せ最適化問題の専用マシンを効率的に実行できる。
平岡氏は「時間軸で考えると、徐々にソルバや量子コンピューティング技術も性能が上がってきます。そのときに現在のプログラムを捨てて、もう1回作り直すのは大変です。将来のマシンにも有効活用できることが、本当の意味で量子時代に備えられる最適化クラウドだと考えています」と自信を見せる。
Fixstars Amplifyは量子技術による新産業創出協議会Q-STARの最適化組合せ部会でも連携している各社のアニーリングマシン・サービスベンダーとの接続技術検証を実施しており、現在のコンピューターと次世代アクセラレータをシームレスに接続し、来るべき量子コンピューティング時代に備える「Quantum Ready」を実現するクラウドプラットフォームサービスである。
千嶋氏も「まさにFixstars Amplifyがエンジニアの負荷を大幅に減らしてくれるサービスになるでしょう。人材不足もあり、効率良い開発が喫緊の課題になっています。一度プログラミングすれば、さまざまなアニーリングマシンに適用でき、バージョンアップにも対応するので便利です」と期待を寄せる。
同社では、企業の課題解決に向けて無料のセミナーや有償プライベート・トレーニングなども実施しているので、試してみると良いだろう。
技術活用を考える企業が「今から実践すべきこと」
千嶋氏は「意志決定の判断材料を掴むビジネスプロセスのスピードアップに向け、NECは量子コンピューティングと最適化の先端技術でデジタル化を推進し、皆さまのお役に立ちたいと考えています。人手で数時間かかったことが、極めて短時間で処理できるようになり、将来の状況を予測しながら、いわゆる経営の“たられば”を支援しようとしています」と力説する
意思決定スピードを早めるには、デジタルツインで言うところの仮想世界で試行錯誤し、現実世界に反映させれば良い。そこで量子コンピューティング技術が強力な武器になる。
特に分かりやすいのは、直近に迫った物流の2024年問題だ。業界ルールが変わると、従来の人員や車両で仕事が回るかどうかの判断が難しくなる。そこで、限りあるヒト・モノ・カネのリソースで、どのくらい仕事を請けられるか、どの業者に依頼すれば効率的か、データで最適化して吟味することで、精緻な判断が早期に行えるわけだ。
また、午前中は仕事量が少なく、午後に急増するといった業務の濃淡もよくあることだ。そんなとき、午後に仕事を回して平準化すれば効率も良くなるし、浮いたコストを顧客への新しいディスカウントサービスの提案などにつなげられる。納期の最適化も可能だ。どの仕事が先でどの仕事を後にするか、優先順位を迅速に判断して受注損失を減らせれば、経営へのインパクトも最小化できるだろう。
NECが提供する3つのソリューション
「そこで、我々はコンサルフェーズからお客さまと寄り添いながら、業務プロセスの改善や最適なツールをご提案しています。問題点の洗い出しから、テクノロジーの提案、PoCというように、効果を実感してもらった上で本番に進み、各プロセスでビジネス、あるいはテクノロジーの支援をしています」と千嶋氏は力説する。
具体的にNECが提供する3つの技術サービスは以下のとおりだ。
1つ目は、ベクトルプロセッサを用いたアニーリングサービスに加え、x86コンピューターでも動く。数理最適化ソルバで、ある程度まで解を追い詰めてから、量子アニーリングで最適解を探るというハイブリット形式のアプローチも可能だ。2つ目は、顧客の課題を一緒に伴走しながら説く量子コンピューティング適用サービスだ。3つ目が量子コンピューティングを使いこなしてもらうための教育サービスである。
NECでは、このようなサービスを通じて顧客が「ありたい姿」を一緒に描きながら、的確な技術やサービスを提供することで、迅速な意思決定ができるソリューションを今後も提供していく方針だ。
https://jpn.nec.com/quantum_annealing/index.html?cid=quantum-202403-ad-BIT