量子コンピューティングの「ホントの凄さ」知っていますか? 実力を引き出すポイントとは
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数理最適化技術と量子コンピューティング技術どちらが優れている?
量子コンピューティングは、「ゲート方式」と「イジングマシン方式(量子アニーリング)」に大別されるが、特に実務に使われはじめているのが量子アニーリングだ。たとえば、「組合せ最適化問題」などに適しているという量子アニーリングの特徴から、人材や配車のスケジュール、配送ルートなどを最適化するために活用されはじめている。
しかし、「量子アニーリングを適用してみたが、期待した結果が得られない。使い道があるのか疑問」という声も耳にする。本当にそうなのだろうか。
NEC 量子コンピューティング統括部の千嶋博氏は、「このような疑問を持つ企業の多くは、量子アニーリングを活用しなくても良い問題を量子アニーリングで解いている場合が見受けられます」と話す。
つまり、量子アニーリングの力を最大限に引き出すためには、既存の数理最適化技術との違いを理解し、量子コンピューティングが得意とする分野の問題に使うこと、つまり「適材適所に使うこと」が求められるようだ。
量子コンピューティング活用における重要なポイント
量子アニーリングは組み合わせの数が膨大な問題を解くのに適している。過去データは必ずしも必要ではないが、事象を数式でしっかり説明できることが前提になる。さらに従来の数理最適化ソルバと量子アニーリングの使い分けも重要になるという。
千嶋氏は「問題をモデル化する際に、数式が1次式で変数が連続の場合は数理最適化ソルバを適用し、2次式で変数が離散値の場合は量子アニーリングを適用すると、うまくいくことが多いです。また得られる解の観点では、毎回同じ解になる再現性があり、厳密解が求められる場合は数理最適化ソルバを、解くたびに異なる解で、次善の解でも良い場合は量子アニーリングを適用する等が考えられます。」と説明する。
このように得意な分野や得られる解が異なるなどの違いから、問題によって数理最適化ソルバと量子アニーリングの使い分けが求められるのだ。
複雑な問題を解決に導くハイブリッドアルゴリズム
山城氏は「このテクニックは最先端の手法として知られていますが、当社では、こうしたハイブリッドアルゴリズムにより、複数のソルバーを連携して扱う機能を提供し、多様な問題に対応しています」と説明する。
山城氏の発言を受け、千嶋氏は「一般的には、どちらのアプローチが向いているのか、どちらを使うべきか、という議論になりがちですが、同時に使って解を追い詰めていくというアプローチは非常に参考になる手法であると感じました」と語る。
ただし、いかに問題を切り分けるのか、やはりソルバと問題の相性を見極める点は外せない基本中の基本だという。その点は常に念頭に置いておきたい。繰り返しになるが、問題を解決しようとするとき、向いていない最適化問題に挑戦しても挫折してしまうことが多い。数理最適化ソルバか量子アニーリングのどちらのアプローチが良いのか、適材適所で使い分けることが重要になる。
「ビジネス活用時」のツボと適用事例
まずハイブリッドアルゴリズムの有名なユースケースとしては、最短ルートを求める巡回セールスマン問題の拡張問題が挙げられる。これは複数トラックの配送で容量に制約がある場合だ。「この例を数理最適化ソルバーで愚直に解こうとすると大変です。また量子アニーリングでもトライすることができますが、変数が膨大になってしまいます。そこで、比較的小規模な巡回セールスマン問題として量子アニーリングで解き、ルートの候補をサンプリングし、その候補に通常の数理最適化ソルバーを適用します」(山城氏)。
このように最初から一気に最適化するのではなく、ルート候補を作り、その後で最適化問題として適用する2段階アプローチを取ると、問題を容易に解けるようになるという。
続いて千嶋氏も量子アニーリングの特長により、どのようにビジネスに活用できるのか事例を紹介した。
たとえば、解くたびに異なる解が得られるという量子アニーリングの特徴を利用し、マテリアル・インフォマティクス分野の例を挙げた。新材料を探索するとき、すでに実験データが蓄積されていれば、AIで予測モデルを作れる。このモデルを量子コンピューターで扱える「QUBO」(Quadratic Unconstrained Binary Optimization)に変換後に入力して逆解析すると、目的の特性になる素材量の最適な配合の組み合わせを提案できる。
千嶋氏は「従来の数理最適化でも解けますが、量子アニーリングならば目的に近い周辺の解を複数個出してくれるため、ユーザーにとってはこちらの方が都合が良い場合があります。つまり数理最適化ソルバで100点満点の解を1つ出すよりも、量子アニーリングならば100点に近い解がたくさん出て、その中から熟練者が選べます。毎回異なる答えが出ることはデメリットにも思えますが、問題によってはバリエーション豊かな解候補が得られるほうが良い場合も多いのです。」と力説する。
また、人員スケジュール問題において、たとえば病院で毎日30名のナースがいて、そのうち20名が出勤するスケジュールを作るとする。もし体調不良などにより最多でも19名しか出勤できなくなったとすると、必要な条件が満たせなくなり、数理最適化ソルバでは解が出せなくなる。一方で量子アニーリングならば、19名なりのスケジュールが出せるのだ。
同氏は「このように場合により解がない問題でも、次善の解を見つけ出してくれる“ロバスト性”が量子アニーリングの強みと言えるでしょう。実際の社会課題で適用する場合は、たとえ想定外の入力が来てもゼロ回答ではなく、なんらかの解を出力するということは、これから大事な要素の1つになるでしょう」と付け加える。
ほかにも制約条件の変化によって手法を変えたほうが良いケースとして、工場の生産計画最適化や時間枠指定付き配送計画問題なども挙げられた。
量子コンピューティング活用、何からはじめれば良い?
山城氏は、「最初に解決すべき問題を特定し、どのアプローチが良いのか(あるいは組み合わせるのか)を見定めることが重要です。実際にトライする場合には、数理最適化ソルバーか量子アニーリングか、うまく使えるところを活用しながら課題を見直すと良いでしょう」とアドバイスした。
千嶋氏は、もう1つお伝えしたいことがあると付け加えた。「現場の負担軽減への活用に視点が行きがちですが、本来の価値は将来の配送計画シミュレーションなどにより、経営判断支援に活用できることだと思います。」と話す。
「たとえば、物流業界の2024年問題のように、法改正による職務規程の変化で残業時間が減ると、現行体制で仕事が回るかをシミュレーションする必要があります。現行のままでは難しい場合は、トラックやドライバーの数をどれくらい増やせば良いのか、という経営リソースの再配分や増強をコンピューター上で吟味します。これにより近い将来に起こる変化に対する打ち手をいち早く判断できるようになります」と語った。つまり、量子コンピューティングで重要な点は何をすべきか、ということになるだろう。
NECでは数多くの具体的な事例やノウハウを蓄積しているほか、具体的に業務課題を解決するソリューションもそろえている。さらにNECの量子コンピューティングの詳細について興味のある方は以下をご覧いただきたい。
https://jpn.nec.com/quantum_annealing/index.html