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  • 2018/10/11 掲載

なぜメルカリと東北大学が「量子コンピュータ研究」に挑むのか

東北大 大関真之氏xメルカリ 木村俊也氏対談

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メルカリでは研究開発組織「mercari R4D」を2017年12月に設立している。従来のR&Dが基礎研究や応用研究の試験・研究にとどまっていたのに対し、mercari R4Dでは社会実装を目的に、外部の企業・教育機関と共同し、研究成果をいち早くサービス化することを目指す。同組織で現在取り組んでいるのが「量子アニーリング技術のアート分野への応用」だ。東北大学の大関研究室と共同で量子アニーリングに取り組む理由や現状、将来について、代表に就任したメルカリの木村俊也 氏、東北大学准教授の大関真之 氏に対談していただいた。

聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司

聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 山田竜司

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mercari R4D 代表 木村俊也氏(左)、東北大学 准教授 大関真之氏(右)

やりますか? やりましょう! で決まった
メルカリ×大関研究室の提携

木村氏:量子アニーリングを研究する大関氏が)「mercari R4D」の共同研究パートナーが決まったのも、(研究所設立に関する)記者会見の「少し前」でした。

大関氏:びっくりしました。(確かなことは決まっていないのに)「量子コンピュータ、面白いですね」「面白そうでしょう。やりますか?」「やりましょう」というノリでした。でも、いい流れというのは、そういう(スピード感がある)ものですよね。mercari R4Dお披露目のイベントで(AIやロボットなど、他の研究領域の)メンバーと初めてお会いしましたが、そこで交わした会話そのものが意義深いものでした。

「一人ひとり登壇して説明するよりも、ここで僕らの会話を聞いている方が(最先端の技術領域で研究を進める人たちが学際的に交流できる場は貴重なので)よっぽど価値があるよね」と同じく登壇していた落合陽一さんが話していたのが印象深かったです。

メルカリ山田社長も東北大もノリがいい

――何も決まっていないうちから、何かやりましょうと言える。それはメルカリの体質なのですか?

木村氏:メルカリは、割と大関さんとノリが似ていて、考え過ぎるよりもまず「出す」。たとえばイギリスや米国にオフィスを作ったり。早い段階から仙台にもオフィスを作りました。これらは、成長に伴い「絶対に将来は必要になる」という考えからです。

 否定しないで「やってみなさい」という考えは、メルカリ代表取締役会長兼CEOの山田も同じです。もちろん、部下が「やりたい」と提案してくれないと何も起こらないので、そういう雰囲気を作ることが大事だと思っています。

大関氏:最近しみじみと感じているのですが、東北大学もそういったメルカリの雰囲気と同じものがあります。「量子アニーリングの応用研究を展開している奴がいるぞ」「面白そうだぞ」と言う噂が広まるにつれて、周りの先生たちが励まして、さらには突然総長や副学長までが「大いにやりなさい」と励ましてくれる。さらに大きくなるように、さまざまな活動の展開の手助けや助言をしてくれます。「大関さん、研究する時間なくなるかもしれないけど、今の活動は是非とも大きくやっていくべきだよ」と総長直々に言われました。これはもう、やる気になりますよね。

量子アニーリングのD-Waveを採用した
東北大学量子アニーリング研究開発センターの現在

――東北大学の量子アニーリング研究開発センターは、今、どのような研究をしているのでしょうか。

大関氏:日本で大学として初めて、使える量子アニーリングマシン、「D-Waveマシン」を利用した研究を縦横無尽にしています。まずは手始めに「膨大な選択肢からベストの組み合わせを探す」という組み合わせ最適化問題に取り組んでいます。

 よく量子アニーリングは最適化問題にしか利用できないと思われていますが、機械学習や量子シミュレーションなど多彩な応用例がありますが、とりあえず最適化問題を。(シミュレーションではなく実機で試してみると)これが結構面白いですね。

 また最近は量子アニーリング研究開発センター(Tohoku University Quantum Annealing Research and Developmemt: T-QARD)を中心にメディア展開もして情報発信もしています。D-Waveマシンを活用した研究事例を集めたナレッジスペースとしてのT-Wave、YouTubeで普段の僕らの様子やゲストを呼んで量子コンピュータ関連の研究動向などを発信するT-QARD channelなどです。

 すべて思いつきで決めているのですけど、この前学部生に向けて担当している数学の講義で、「うちに来れば、量子アニーリングマシンに触れるよ」と言うと、十数人が殺到しました。オリエンテーションで一緒になった新入生に同じような話をしたときも研究室に見学に来てくれました。

 東北大学に「D-Waveマシン」の研究拠点があるーー。これにより、学生はもちろん、産業界やビジネス界の人たちからもこれまで以上に共同研究などの形で「一緒にやりたい」と言うことで仲間が一挙に増えた感じです

 「使える量子アニーリングマシン」がある以上、使ってみないことには、時代の流れに取り残されるのは間違いない。実際に手を動かす必要な知識や考え方が肌感覚で分かり、さらに利用する動きが加速していく。

 その「使ってみる」を叶える環境を用意することが重要なので、「D-Waveマシン」を触れるようにしました。

 東北大学は人材の宝庫だと感じています。東京との距離感がちょうど良い。情報量や興味のある対象が過剰な東京に比べたら、仙台は刺激が少ないかもしれない。

 でも本物の量子アニーリングマシンがあるとなれば、そりゃやる気は無限大ですよ。東北大の学生の素直さとずば抜けた能力、そこに僕らがちょっとした仕掛けをすることで、規模は小さいながらも爆発力と成長力のあるチームが作れていると思います。

――確かにITの先進企業は東京に集中していますね。

大関氏:東北大学の学生は卒業すると東京に出てしまう。受け皿がないことが課題です。それはもちろん重要な課題として認識されていて、宮城県庁から相談を受けたことがあります。「量子アニーリング研究に関連したベンチャー企業を作ったらいいのでは」という話も出るなど、注目してくれているようです。

 東北大学の学生は地元愛がすごいから、もし郷土に貢献できるのであれば、何でもやってやるというアツさを持っています。せっかく大学で学んだ最先端の知識や基礎的な実力があるのであれば、それを生かしたい。彼らを生かす受け皿が必要です。

木村氏:僕らもその議論をしたことがあります。近いから東京に出てしまう。これがたとえば福岡だったら、東京は遠いので地元に残る人もいるのですよ。だからやはり地元に受け皿を作る方が効果的に回っていくと思います。

大関氏:東北で最新のものを使える、それをもとにさらに新しい領域に進むことができるということになれば、逆に東京からも吸引できるかも知れません。僕らの活動をきっかけに、仙台に量子アニーリング研究の関連企業を集められたら面白いですね。

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大関研究室では日本で大学として初めて使える量子アニーリングマシン「D-Waveマシン」を利用
(出典:D-Wave Systems Media Resources)


量子アニーリングの盛り上がりと今後の課題

――企業が量子アニーリングに取り組むことは難しいことなのでしょうか?

大関氏:実はそんなことはないと思います。テクノロジーサイドから言うと、量子アニーリングは「量子だから」ということを感じさせないようにできています。

 特にD-Waveマシンはうまく作られていて、Webサービスのように利用できます。「何を最適化するか」「どんなデータに基づいて機械学習をさせるか」は私たちにゆだねられています。D-Waveマシンはインタフェースがよくできているので、量子アニーリングを利用するための共通言語である「イジングモデル」にまで問題を翻訳することができれば、すぐに動かすことができます。その感覚が身につけば、なんの抵抗もなくD-Waveマシンを利用できます。

 日本でも次世代コンピュータの開発が進むことを期待する機運が高まっています。一方、完成品をイメージする際に、その周りのソフトウェアなりアプリケーションをしっかりと整備しないと使いづらくなります。どんなに性能が良いものだとしても使われず、古くなってしまえば意味はなく、注意が必要だと思います。

 たとえばスマートフォン上で量子アニーリングを利用して「最適化問題」を解くことで展開するサービスを提供するとしましょう。そのときにレスポンスが遅かったら嫌ですよね。使いやすさや格好良さも重要です。ストレスを感じるようでは使ってもらえませんし、格好良くないと長く愛されるものにはなりません。

 そういう意味では、メルカリはベストパートナーです。アプリの使い勝手が綿密に計算されてでき上がっているものを世に出している印象です。研究成果そのものもそうですし、それを活用したサービスを展開する際に、他のところではできない広がりを持ったものになるでしょう。

【次ページ】シミュレーションソフトによるアニーリングがダメな理由

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